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青コーナーと信念。映画『BLUEブルー』感想



こんにちは。コダカです。
今日はオンライン試写で映画『BLUEブルー』を鑑賞したので感想を書きます。



映画の種類は数あれど、スポーツ映画は大好物なので楽しみにしていました。その中でもボクシング映画は『ロッキー』、『クリード チャンプを継ぐ男』、『百円の恋』、『ミリオンダラー・ベイビー』、『キッズ・リターン』とあげればキリがないほどの名作の宝庫。

今回の『BLUEブルー』もそんなボクシング映画の中の一つで、タイトルは挑戦者サイドを意味するリングの青コーナーから命名したそうです。

現在では興行を打つジムの選手が赤コーナーから上がる等、形式的なモノとなっていますが、大きなタイトルマッチとなると話は別で、格の違いを際立たせるため挑戦者の象徴となっていることが多々あります。

あらすじ
ジムでトレーナーを兼務するプロボクサーの瓜田(松山ケンイチ)。根っからのボクシング好きだが戦績は勝ち星より負け数のが多い。一方、同じジムの後輩の小川(東出昌大)は自らの才能を開花させランキング入りし、日本タイトルを狙えるまで成長したボクサーだ。そして、引き合わせた形となり瓜田の片思いの相手だった千佳(木村文乃)と小川は恋人になってしまう。
心中穏やかでないはずの瓜田は小川のために対戦相手の分析をし、小川の体を心配する千佳からの相談にも乗ってあげていた。
そんな中、ゲームセンターの店員楢崎(柄本時生)がカッコつけのためジムに入会し、ボクシングをめぐる3人の青春が動き始める。

ボクシング映画の王道、ハングリーな青年がチャンピオンに駆け上がるサクセスストーリーとは異なり、地道に努力を重ねるが弱い。優しいがどこか影がある。どこか燻った生き方をしているボクサーたちを描いた作品でした。

その中でも主人公の勝てない瓜田を演じる松山ケンイチが素晴らしかったです。



ボクシングジムに通い2年かけてボクサーステップを取得し、体力や肉体美を作り上げた松山ケンイチ。
演じる瓜田はその練習に向き合うストイックさは重なるのですが、とことん弱く勝つことができません。
しかし、周囲に呆れられても対戦相手に下に見られても反発せず、言葉少なに兼務のジムのトレーナー業をこなしていきます。

なぜそんなに大人しいのかと疑問を持ちました。
最初は負け続けた恥ずかしさや自信のなさからくるものかと思って見ていると、それは誤りだということに気がつきます。

カメラだけがとらえている曇った表情、頭を抱え込んだ背中、千佳を追う瞳、誰にも気づかれまいとするその姿は雄弁に感情を語っていました。

ボディブローのようにじわじわ効いてくる松山ケンイチの表現は、この映画を支える大きな柱となります。

ボクシングの成功者はチャンピオンです。
ボクサーたちはチャンピオンに少しでも近づくため、努力を惜しみません。
瓜田もボクサーとして人一倍頑張りますが、後輩に追い抜かれて好きな女性を取られ、試合でも敗戦が続き、教え子であるジムの練習生たちにまでバカにされてしまいます。

それでも瓜田は戦うこと、努力することをやめません。

彼はどこかでボクシングの神様が見ていると信じたのかもしれません。

神の教えに従うように基本に忠実にガードをあげ、左右に足を使って動き、細かくパンチを繰り出します。強い者が勝つのはわかっている。でも自分には才能がない。だから信じたことを貪欲にやり続けるしかないと思ったのでしょうか。

一方で瓜田とは反対にセンスと才能で勝ち上がってきた小川。

ヤンチャで傲慢も脆さを時折見せる難しい役でしたが、演じる東出昌大の長い手足の恵まれたスタイルから強さが滲み出ていて、こちらも非常にハマっていました。



自分こそボクシングの神様に選ばれし人間だと信じて疑わなかった小川が、とある悲劇に見舞われます。

瓜田になかったボクシングの才能がある半面、それによってもたらされる人並み以上に多くのプレッシャーに押しつぶされそうになります。小川はボクシングの神様に捨てられぬように、誰にもこの姿を悟られないよう祈るのです。
拭えない不安に苛立ちながらも、成功を目指して突き進んでいきます。

そしてもう一人、不純な動機でボクシングをはじめる楢崎。
演じる柄本時生のコミカルな演技は緊張感のある映画の中で緩和剤のような存在となります。



ボクシングを始めたばかりの楢崎は、瓜田の要素も小川の要素も持ち合わせていて、どのように成長するのかはわかりません。
しかし、これまで他のボクサーが歩んできた過程や、トレーナーとして瓜田と、ジムの後輩として小川と関わっていくことで、彼の目に映る二人の姿を観客に教えてくれる貴重な役割を果たします。

不安と葛藤、嫉妬と友情、お互いのライバル心が複雑に絡み合いながら、リングに上がる3人。

勝負の世界の濁流に飲み込まれるも、いつしか流れ着いたそれぞれの場所で、小川も楢崎もそして瓜田も、ボクシングの神様をぼんやりと思い出します。



描かれることが少なかったトレーナー兼ボクサーという主人公。
ボクシングジムに30年通う𠮷田監督が共に練習していた実在するボクサーから着想を得たと言います。

そんなボクシングに精通している監督だからこそ、あえて映画的にしたくなかったというリアリティ溢れるボクシングシーンにとても興奮しました。
「殺陣指導(たてしどう)」で監督や元ボクサーからアクション演出が入り、ややもすれば致命的なパンチとなりかねないスレスレのコースを要求したり、実際にパンチを当てながら、撮影が進んでいったそうです。

また弱くみせる演技も必見で、わざとらしくなく自然に相手の攻撃を食らって、苦しんでいる状態がこちらにも伝わってきました。
これも監督のジムや試合会場でのこれまでの経験が反映されているものでしょう。

役者の役作りと監督のリアリティがある演出による相乗効果で、非常に説得力のある映像として成立していました。
この効果によって、ボクシングアクション以外の場面にも没入できるというか、物語への浸透率が増していきます。


演技とストーリーに魅了された後も竹原ピストルさんの歌う主題歌「きーぷ、ウォーキング!!」も映画の残り香と相まって感情を揺さぶります。

ずるい!
こんなの泣くわ!


映画を見終わるとぼんやり小学校の理科で習った炎の話を思い出していました。

炎は熱の温度が高くなると、赤、しろ、黄と色が変化します。
そして、その中でもっとも高いのは青色の炎。

青。

青コーナー。

向こうにそびえる栄光のチャンピオンも、取り巻く羨望の眼差しも、それにとどまらず自分自身の過去や欲望でさえも、すべてを焼き尽くし受け入れる信念。

そんなことを映画から感じてしまいました。

『ロッキー』のような痛快な映画ではないけれども、ここまで一直線にボクシング愛を形にできるのか!と羨ましくなる映画でした。

映画『BLUEブルー』楽しめたので、スポーツ映画好きな人にオススメします。

今日も最後までお読みいただきありがとうございました。

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