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『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(映画めぐり②)

前作のスピンオフ、アナザーストーリー的なものかと思ったら、全然違いました。
2時間10分の前作にカットを加え、ある意味の「完成版」としての2時間50分の大作。

見覚えのある心温まるシーンもたくさんあった一方で、主人公のすずさんのしんどい境遇やつらい出来事もバッチリ強化されていて、作品としての威力と迫力がさらにレベルアップしてました。

どんなに戦争が熾烈になっても、市井の人々の生活は続いていく。
出征も戦死も珍しくなくなり、空襲警報は日常になっていく。
戦争が終わったとて、貧しさやひもじさは一向に解決されず、戦時中と同じような暮らしが続く。

ド派手でドラマチックで劇的な「お上同士でのお上のための戦争」とは遠く離れた世界の片隅で、当たり前の暮らしが奪われ、侵され、じわじわと生活が壊されていく。
前作もそうだったけど、ありきたりな普通の家族を、本当に淡々とそのまま描いている。「誰の目にも明らかな悲劇に見舞われ、絆の力でその苦境を乗り越える」みたいなカタルシスは一切ない。そのフラットな眼差しと、ある種冷徹な描写に、より一層心を抉られる。
コトリンゴが歌う、『悲しくて悲しくて とてもやりきれない』という歌詞がずーっと耳の奥底に響く。

やれ反戦だ、戦争反対だと主張するのもなんか違う気がして、とにかくもう、ただ日々を生きるしかないんだ、ってのが一番残っているような気がする。

そしてそして、今回ものんの演技が凄すぎる。
すずさんでしかない。人柄も、戸惑いも、嘆きも、怒りも、全てが声で表現されていて、本当に異次元。半端じゃない。それだけでも見る価値ある。

改めて本当にいい映画だなぁと思う。
前作を見てても見てなくても、間違いなく楽しめる映画だと思います。

1月3日、シアターイメージフォーラムにて。

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