パラレル中学数学カリキュラムの全体像(#1)


1.はじめに

 この記事は自分の考える、大学を「講義、実験、研究、議論が行える地域の図書館」のような存在にするという考えが実現したパラレルワールドを前提として作成しました。

数学を知る上では参考になると思いますが、受験にとってはマイナスになるので高校受験生は見ないほうが良いです。

2.中学数学の前段階としての国語

 小学校3年生くらいから算数につまづくことがあります。これは「国語力」に起因しているのではないかと考えており、さらに中学レベルの数学ではそのことがさらに大きな問題となる可能性があると考えています。この点について書いていきたいと思います。

(1)低学年の頃は「経験」と「記号」が結びつく

 幼少期にクッキーの3個と鳥の3羽が同じ3だと認識します。これは数と数字が結びついたといえると思います。
次に他の子のクッキーの数と自分のクッキーの数を比べて、「多い」、「少ない」、「同じ」といったことを経験します。これが後に「=、>、<」といった記号と結びつきます。
さらに「もらったから増えた」、「あげて減った」といった経験と「足し算、引き算」が結びつきます。
低学年のころ、文章題を解けなくても、言葉で読んで繰り返してあげることでその問題を解けることがあります。これはまだ「文字」と「経験」の結びつきが弱いから起こることだと思います。

(2)小学校3年生位から「国語」と「記号」を結びつける必要がある

 かけ算やわり算の体験は、中々実体験から生まれてこないと思います。(逆にかけ算やわり算を理解してから実生活に活かすということはできます。)
このように実体験が少ないものを理解するには「国語力」が必要になると思います。具体的には私自身の経験からも、少なくとも以下の2つの力が必要だと思います。

① 「AはBである」と言われたとき、「A=B」と考えられること
② 具体例から理解する

例えば「Aの面積はBの面積の2倍である」という文があるとします。
①で考えると(Aの面積)=(Bの面積)×2 となります。このように「は」を「=」と解釈できるようになり、算数の一つの関門を超えれたと思います。
ちなみに英語に直すと「The area of A is twice the area of B.」となり、isを解釈すると「S=C」となります。このように英語を学ぶことで、初めて日本語の「は」を理解できたような気がしました。
できればもう少し国語の授業のなかで、論理構造と日本語について説明してほしいなと感じました。

他の例として「有限小数」について考えてみます。
「有限小数とは小数点以下の数が有限である小数です。例えば1.5、30.2548 等があります。」と書かれていたとします。
①の見方で見ると、「有限小数=小数点以下の数が有限である小数」とみれます。これだけで理解できる人もいると思いますが、何かよくわからないと感じると思います。
②の見方で見ると、「有限小数の例=1.5、30.2548」なので確かに小数点以下の数が有限だなと理解できると思います。
このように2つの見方を通して、より理解が深まると思います。
この2つの見方は「=」が国語と結びついたともいえると思います。

ちなみに高校レベルで本格的に学びますが、不等式と国語についても
簡単に触れておきたいと思います。
「長方形は平行四辺形に含まれる」という文章は、不等号を使用して「平行四辺形≧長方形」とみることができます。これは世の中にいろいろな平行四辺形がありますが、その中の一種が長方形ということです。
いくつかの「もの」からなる「集まり」を図で表すと以下のようになります。

集まり

平行四辺形の集まりの中に、長方形の集まりがあるという関係性です。

(3)中学の数学からより国語力が必要となる

 中学の数学からはより抽象的になるので、「国語力」がより必要となります。抽象的というのは、具体的ではないということです。
例えば「2」という具体的な数字を抽象化すると「偶数」になり、さらに抽象化すると「整数」となります。このように抽象化すると当てはまるものが増えます。
抽象化のメリットは抽象化した世界で成立したものが具体化しても成り立つことにあります。
例えば「2+3=5」は具体的でそこから何も広がりませんが、
「偶数+奇数=奇数」はこれらに該当する数であれば成立し、使える範囲が広いことが分かります。
この抽象化した世界を理解するのにはより「国語力」が必要になります。
ここでは2つ考え方を追加したいと思います。

➂ 言い換え
④ 対義的表現「無限小数とは小数部分が限りなく続く小数である」

有限小数の例で引き続き説明したいと思います。
「有限小数とは小数点以下の数が有限である小数である。例えば1.5、30.2548 等があります。」
この中で難しい表現として「有限」があると思います。

➂の見方を行うと、言い換えている表現を別の本やサイトで探すことになります。そしてそこには「有限小数とは小数点以下が終わりがある小数である。」と書いてあるとします。つまり「有限」が「終わりがある」と表現されています。
この表現のほうが分かりやすければ、こちらの表現で理解すればよいということになります。
そして最終的には自分の言葉で「言い換え」られ脳にストックされることになります。この現象が理解だと思います。
このように中学数学は抽象的になるがゆえにいろいろな表現が存在します。そのため一つの表現で理解できないときに、別の表現に触れるという方法も理解するための良い方法となります。

最後に④の見方について説明します。有限小数の対義語として無限小数があります。
「無限小数とは小数部分が限りなく続く小数である」と説明されている文があるとしたとき、「小数部分が限りなく続く」を否定して「限りなく続くことはない」という点が有限小数の性質だと理解できます。
対義的な表現のほうが分かりやすいということはよくあるので、この「表現の否定」という理解の仕方もかなり良い方法です。

中学数学が分からなくなってきたときに、算数等の積みなおしが必要な時もありますが、国語力に着目してみて、
①文のイコールの関係は掴めているか
②具体例から理解できるか
➂自分の理解しやすい別の表現はないか
④対義的な表現のほうが分かりやすくないか
といったこと(特に①から➂)に注目して、試行錯誤してみるのがよいのではないかと思います。

3.算数をもう一度整理する

 算数の具体的な内容は以下の記事を参照してもらえればと思います。

(1)割り算の2つの意味

 割り算の計算には2つの意味があります。
① 等分除:等分に分割した量を求める。
② 包含除:ある数がいくつ分含まれるか求める。

(2)小数や分数はなぜ生まれるか

 数には分離量と連続量があります。分離量(例.リンゴの数)は1,2個と数えることができ、連続量(例.水の量)は測ることによって量を比較します。
この連続量には半端な量がでます。それを数で表そうとしたとき、対応が2つあります。
① もっと小さな単位を作る(1/10、1/100刻み)
② 半端が何個で1単位になるか考える(その半端量が3つで1になる等)
この①の発想が小数、②の発想が分数につながっていきます。

(3)分数の見方

 分数は以下の2つのとらえかたで見れます。
① 単位分数を集めたもの
($${\frac{2}{5}=\frac{1}{5}+\frac{1}{5}}$$)
② わり算として見る
($${\frac{2}{5}=2÷5}$$)

(4)分数、かけ算やわり算の記号について

 分数のかけ算やわり算は以下の計算とイコールになります。
[例1] ×$${\frac{3}{4}}$$=×3×$${\frac{1}{4}}$$=×3÷4
[例2] ÷$${\frac{3}{4}}$$=÷3÷$${\frac{1}{4}}$$=×$${\frac{1}{3}}$$×4

(5)分数(整数同士の割り算)を小数にすると有限小数か循環小数になる

 循環小数とは、小数点以下のある桁から先で同じ数字の列が無限に繰り返される小数のことです。

例えば「3÷6」は0.5という有限小数となります。
次に「3÷7」は0.428571428571..となります。
ではなぜ循環小数になると言えるのか考えてみます。
「3÷7」の商は整数とならないので小数第一位を考えます。
7×0.4=2.8 となるので、0.2÷7を計算します(小数第1位の余りは2)
7×0.02=0.14 となるので、0.06÷7を計算します(小数第2位の余りは6)
7×0.008=0.056 となるので、0.004÷7を計算します(小数第3位の余りは4)
7×0.0005=0.0035 となるので、0.0005÷7を計算します(小数第4位の余りは5)
7×0.00007=0.00049 となるので、0.00001÷7を計算します(小数第5位の余りは1)
7×0.000001=0.000007 となるので、0.000003÷7を計算します
(小数第6位の余りは3)
7×0.0000004=0.0000028 となるので、0.0000002÷7を計算します
(小数第7位の余りは2)

上記のように7で割るとき小数第〇位の余りは、1から6になります。
(余りが0,7の場合は計算しきれるので、有限小数となります。)
さらに計算途中で出た余りと同じ余りがでた瞬間、同じ計算が繰り返され循環することになります。
余りを毎回違うようにすると最大でも7回繰り返せば、同じ余りが出てくることになるので、循環することになります。
この現象はどんな整数でも同じことなので、分数は有限小数か循環小数となります。

(6)計算順序

 足し算と引き算(加減)は同じ単位のものを計算します。
(例.長方形の面積[$${m^2}$$]+三角形の面積[$${m^2}$$]
かけ算と割り算(乗除)は新しい量を生み出します。
(例.縦の長さ[$${m}$$]×横の長さ[$${m}$$]=面積[$${m^2}$$]
速さ[m/s]×時間[s]=距離[m]
そのため乗除を先に実行して、単位をそろえてから加減を行うという順番になります。
この順序を変更したい場合にはカッコを使い、加減を先に実行することもできます。

4.中学数学の全体像と実社会との関り

(1)学んでいく分野の説明

 中学数学では大きく分けて以下の4分野を学んでいきます。

① 代数:負の数やルート等、色々な数を知り数の仲間を増やしていきます。またあらゆる数を文字に代表してもらって、一般的な法則を式にします。方程式という分野は、「分からない数を文字にして式を立てることで、求めたい数を式に代わりに考えてもらう」と表現されることがあります。

② 解析:いくつかの量に相互関係がある場合、関係がある量を文字で表しこの文字にいろいろな数が入るとします。このような文字を変数といい、1つの変数が決まると他の変数も決まる関係を関数といいます。
この関数の変化について調べる分野が解析学です。
方程式における文字(未知数)は、まだわかっていないけど式を満たすある特定の数字を代表しているのに対して、関数における文字(変数)はいろいろな数をいれていくことが前提という違いがあります。

➂ 幾何:図形に関する分野で主に土地の測量や建築などに使われてきました。高校数学で三角比という考え方を学びますが、これは物理(力、音)やコンピューターによる処理(ゲーム、音声ソフト、映像)等多くの分野を支える強力なツールです。

④ 統計と確率:統計はデータを扱う分野です。データにはさまざまなブレやどれくらいのデータ数が必要か等色々考えるべき点があり、それらの課題に統計の知識が活用されます。
確率とはその現象の起こりやすさを表す指標です。その性質上ギャンブルで使われてきましたが、ランダムさを考えるということは自然現象を考えるうえでも必要となります。またデータとも深い関係があります。
例えばA工場で作ると不良品が3個に1個、B工場だと不良品が100個に1個だというデータがあれば、不良品の起こりやすさはA工場のほうが大きく、何らかの対応が必要だろうと分かります。
このように統計と確率の知識は、現実社会の多くの場面で活用されます。

(2)それぞれの分野と実社会での応用例

〇 「代数」、「解析」、「統計と確率」について

 ここではまず私の実体験に基づき、メーカー時代の仕事を例に説明していきます。
ある対象に圧力をかけて削り、目的の量まで削りたいという目的があるとします。
この場合、圧力と削れる量についてデータを取ることになります。データをとったグラフが以下のようになったとします。

データとグラフ

実際に実験をすると、ある対象の表面状態や測定器の誤差などの関係でデータが色々ぶれてます。同じ条件でやっても違う削れる量が出たりもします。そういった中で複数のデータを取り、妥当なデータを選んだり大体の傾向をつかむときに「統計と確率」の知識が活用されます。
そして統計と確率の知識を活用した結果、大体以下のような関係性があることが分かったとします。
削れる量=100×(圧力)+10
これは圧力にいろいろな数字が入り、それに対応して削れる量が1つ計算
されるので関数としてみることができます。
そこで削れる量をb、圧力をaとして関係式を以下のように表します。
b=100×a+10 (グラフでは以下の赤線のようになります。)

赤線:b=100×a+10

このように関数にできると、「解析」の知識を活用してこの関係が直線的に増加することが分かり、実際にはデータがないところも含めデータの変化の様子を予測できます。

さて最後に目的の量を削るための圧力を計算します。
例えば目的の量が710だったとします。これは関数b=100×a+10で、b=710のときの圧力を計算することになります。「代数」の知識を活用するとa=7と計算することができます。
そして圧力7で実際に削ってみることで近い値を得ることができるという流れです。

このように一つの目的のためにいくつもの分野が関連していることが分かると思います。中学数学を勉強していくと今回説明した内容がより明確に理解できるようになると思います。

〇 「幾何」について

 現行の中学数学の幾何には多くの問題があるのではないかと思います。
一つ目は受験数学などのために所見では解けないような難しい問題が出題され、苦手意識を持ちやすいということです。
高校数学以降では「相似」や「三平方の定理」くらいが分かっていれば、図形を構成している線の長さや角度を計算で求めるということが多くなるので現行の中学数学の幾何に関するボリュームが多くなりすぎているように感じます。
またこういった問題は「ひらめき」が試されるように言われていましたが、最近のAIは総当たりで補助線を引いています。つまりあまり凡人が頑張って磨いてもしょうがない能力といえると思います。

2つ目は相似な図形の性質を約束事のように扱い、それを用いて「平行線と比」を証明しているという点です。初等幾何学では「平行線と比」の関係を用いて相似の性質を示しています。
つまり「平行線と比」の関係から導かれる「相似の性質」を用いて、「平行線と比」の関係を証明していることになるので、循環してしまっています。
循環論法と呼ばれ、何の論証も行なわない場合と同じことになります。
図形の証明を通して、「公理」(約束事)から「証明」という過程を通して「定理」を導くという流れや証明という型を身に着けるという中学レベルの幾何学を学ぶ目的に反すると思いますので、この点もパラレルワールドでは変更したいと思います。
結果として幾何の分野は読み物のようになると思いますが、書いてあることが理解でき、流れが追えて、簡単な問題で定理を活かすことができれば特に問題はないと考えます。

参考記事

さて実社会との関係ということですが、中学の幾何学で学習する知識は社会で活用できる分野が限られ、高校数学の三角比などを理解するための準備と考えられます。
ただ中学の幾何学で学ぶ「公理」(約束事)から「証明」という過程を通して「定理」を導くという流れは、人に新しい考えを納得してもらう流れとして有効な方法の一つです。
また証明という型を身に着けるということは、人に分かるように伝えるためにフォーマットがいるということの一つの例で、この経験を通して型を身に着けるということを学んでもらうのがよいと思います。



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