井上夢人_メドゥサ_鏡をごらん_

井上夢人「メドゥサ、鏡をごらん」、伊坂幸太郎「グラスホッパー」「マリアビートル」「AX」、殊能将之「ハサミ男」を読んだ

※ ネタバレはないつもり。

長い前置き

以前から公言している通り、僕は小説を……読まない!

ここ10年ほどで、まともに読んだ小説は「ニンジャスレイヤー」のみ。そんな実績を誇るアホだったわけですが、最近は、このnoteを中心にWeb上の小説だけはもりもりと読むようになっていた。

そしてそれは、とても楽しい。Webには多様で、刺激的で、面白い作品が溢れているからだ。ただ一方で「これだけだとちょっと食いたりないなぁ」という空腹感も抱くようになっていた。

Webには、やはりWebならではの特性がある。そして自覚的にせよ、無自覚にせよ、書き手はその特性に最適化して物語を紡いでいることが多い。

通学・通勤の合間など、ちょっとした余暇にスマホを取り出して読む。SNSに流れてきたやつを何気なく拾って読む。それが、今の時代のWebとの距離感で、そういった場面に最適な手触りで小説が書かれる傾向は、やはりある。

だから、そうではない作品も読んでみたいなぁ……と、そういう気分が高まってきたわけです。

が。

ところが、です。僕は長年、まともに小説を読んでいなかったこともあり、何から手をつければいいのか全然わからんのですね。

そこでどうしたか。

とりあえずこうした。amazonで適当に検索する。そこからレコメンドなどの導線をひたすら辿っていく。そして「なんとなくピンときたぞ」と感じた作品を読むことにする。

要するに、ジャケ買いです。

そうやってここ数日、小説を見繕っては食べ、見繕っては食べを繰り返し、もぐもぐと摂取してみた。

メドゥサ、鏡をごらん

その記念すべき第一弾、それがこの、井上夢人の「メドゥサ、鏡をごらん」だ。なんでいきなりこの作品を選んだのか? ……勘です!

この本が向いている人
・ ミステリーが好きな人
・ 怖い話が好きな人
・ いきなり「パソコン通信」「フロッピー」とか言われても「……え?」とならずに、臆することなく読み進めることができる人
この本が向いていない人
・ 怖い話が苦手な人
・ 特に精神的にじわじわくるのがダメな人
・ すっきり解決する話しか認められない人
・ ディティールが気になってしまう人
・ 90年代の環境(パソコン通信とか)に一切想像力が働かない人

感想。

この小説は……素晴らしかった!

このリンク先から冒頭数ページと、出版当時の書影を見ることができる。ただしPCでしかまともに見れないので注意が必要(スマホじゃダメ)。書影にマウスカーソルを合わせると、当時の帯を見ることができて、それはちょっとドキッとさせられる。

謎めいた死を遂げた作家。その作家の遺稿を、主人公は探し求める。手がかりは、断片的なメモが残されたノートのみだ。

物語冒頭は不穏でありながらも、どこか静かな立ち上がりだ。そしてその後に続く展開は、しっかりとしたミステリーの手触りがある。

そのミステリーの手触りと、少しずつ謎を追っていく展開が、読者をスムーズに作品世界へと没入させていく。上手い。そして気がつくと、読者は主人公とともに「不確かさ」の迷宮に入り込んでいき、先の見えない世界の中をさ迷っていくことになる。

ネットでこの小説のレビューを見ていると「精神的な怖さがある」といった評価が多い。実際そうだよなと思う。ただ、僕が抱いた感情は恐怖ではなかった。

なんだろうな。うまく言語化できないけど、主人公とともに物語世界をさ迷い、その果ての結末に抱いた感情は、寂しさ、憐憫、切なさ、そういった感覚が入り交じった不思議なものだった。

勘のいい人なら、オチは途中で気づけると思う。実際僕も、叙述上のある特徴から早い段階でオチは想像できていた。しかしそれでもなお、この読書体験はよいものだったと言い切れる。読後に残った不思議な感覚は、その後しばらくの間、僕の中に残り続けていた。そしてふわふわとした感覚のままで、日常生活を過ごす羽目になったのだ。それは、良い読書体験をした証拠だと思う。

……ということで、第一弾の結果は上々だったのだ!

それで調子にのった僕は「よっしゃ、どんどん読んでこ!」と勢いづいた。

というわけで第二弾。

伊坂幸太郎〈殺し屋〉シリーズ

続いて読んだのは伊坂幸太郎の〈殺し屋〉シリーズ三部作。よくわかってなかったけど、なんとなくあらすじから「パルプみ」を感じて読み始めたわけです。

このシリーズが向いている人
・ パルプな雰囲気が好きな人
・ 「凄腕の殺し屋たちが殺し合う」とか聞くとテンションあがってくる人
このシリーズが向いていない人
・ パルプが苦手な人
・ 漫画っぽいのが嫌いな人
・ 軽率に人が死ぬのがダメな人

グラスホッパー

面白かった。鯨と呼ばれる殺し屋の殺し方がちょっとエグい(グロではない)ので、人によってはその描写で削られるかもしれない。ただ、グラスホッパーを読んでおくと次の「マリアビートル」が10倍楽しめる。そして「マリアビートル」は非常に楽しい。なので、楽しい「マリアビートル」を読もうと思う人は、ここから読んだ方がいいだろう。ちなみにどうやら、この「グラスホッパー」は映画化もされてるっぽい? (邦画事情に疎い)

マリアビートル

これは……かなり面白かった! 特徴的で魅力的な殺し屋たちが出てきて、その一人一人がめちゃくちゃキャラ立ちしている。約1名、ステロタイプな「むかつくガキ」が出てきて、そいつははっきり言ってどうかなと思うけど、そいつも含めてキャラクターたちの絡みがとても楽しい。軽妙でテンポの良い会話劇が繰り広げられていく。そこに作者のキャラクターに対する愛を感じる。練り込まれた展開もあり、あっという間に読み終わってしまった! そして「グラスホッパー」の登場人物たちがいい感じで再登場したりもする。それがまた、とても良い。

AX

うーん? 主人公はすごく魅力的なんだけど。前二作と比べると、オチの取ってつけた感が凄いというか、子どもだまし感がするというか……。タイトルから考えると、オチ自体は当初からの構想なんだろうけど。うーん? あと「グラスホッパー」の登場人物がまた出てくるんだけど「え? これ出す必要あった?」みたいな。あ、こんなこと書いといてなんですけど、物語はちゃんと面白いです。念のため。

では第三弾。

殊能将之「ハサミ男」

例によってamazonをさ迷い、次に読むやつを探し求めていた時に目についたやつ。「そういえば以前、お望月さんが話題にしてなかったっけ?」と思い、そっからノータイムで購入しました。

この本が向いている人
・ ミステリーが好きな人
・ 「あっ!?」と驚きたい人
・ 異常な殺人犯が主人公と聞いてテンション上がる人(やべーやつじゃん)
この本が向いていない人
・ 軽率に人が死ぬのがダメな人
・ 異常な殺人犯が主人公と聞いてテンション下がる人
・ 小説ならではの叙述トリックにぶち切れる人

これは……めちゃくちゃ面白い!

正直にいうと、冒頭は「うわー、主人公きめぇな。これはちょっと読み続けるのがしんどいかもしれんね……」とか思いながら読んでたわけですよ。でも死体が発見されて、物語が動き始めたあたりから尻上がりに面白くなっていき、そして、あっという間に読み終えてしまった。

描写のなかにポンポンと、リズミカルに病的な妄想が挟まってくる。それが非常に味があり、物語に独特のテンポ感を生み出している。そこが凄く良い。好き。

そしてやはり、この小説の最大のサプライズはオチにあると言っていいだろう。……と、こんなことを書いてしまうと、普通ならこの時点でネタバレみたいなもんなんですが、この小説に関しては「このオチは絶対読めねーだろうな!」という奇妙な安心感がある。なので、これは断じてネタバレではない!

犯人(?)は比較的早い段階で「いや、こいつだろ」ってわかってしまったので、僕は「サプライズ感」という意味ではこの物語を舐めくさって読んでいたわけですよ。ところが終盤、あの展開だもんなぁ。一瞬、物語がバグったのかと思った。マジでビビった。そして、楽しかった!

次は何を読む?

以上が、僕のここ数日の読書ライフだったわけです。おい、人が死ぬやつしか読んでないぞ。

そして次はなんとなくSFを読みたい気分がある。SFをまったく理解していない僕が適当にジャケ買いするなら、たぶんこの辺のどれかかな? という気分。

あと最近ディッグアーマーさん書評してたこれも気になってる。

どれにしようかなぁ。あぁ、そうだ。SF以外にも中国武侠ものも履修したい気分がある。それもいいな。あ、あと井上夢人と殊能将之は、他の作品も読んでみたいと思ってる。

いずれにしても長年、小説を読んでいなかったおかげで、僕の目の前には無限のフロンティアが広がっているのだ! 凄い! やったぜ! 当分、退屈とは無縁で過ごせそうだ!

【おしまい】

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