白のナダレと花のテオ
夕陽によって空が赤く染まりはじめると、空にゆらゆらと白みがかった巨人の影が浮かぶ。陽炎のごとき巨人が踊る神話的な光景は、しかしサの村の人々にとっては見慣れたものであった。村の古老は子ども達に語る。あれは山の精霊。あの踊りは創世の神話を再現したものなのだと。
バチバチと音をたてて燃えるサの村。それを見下ろしながらテオは嗚咽を抑えていた。ムの領主が野心を抱き兵を集めている。その噂は辺境のこの村にも届いていた。しかしまさかー。
テオは走り出す。白き山の精霊が住まうというあの山へ。一人逃げ出し、全てを失いつつあった少女にとって、縋れるものはもはやそれしか残っていなかった。
「あっ」
木の根に足を取られたテオは手をつく間もなく転倒していた。くすくすと森の精霊たちの声が木霊する。
「なにが悲しいの」
突然の呼び掛けに驚き、テオは顔をあげた。白い髪、そして白みがかった瞳。人とは思えぬ美しい少年がそこには佇んでいた。
【続く】
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