逆賊令嬢ライジング
曇天には瞬く凶星。西の地では白裳党の乱。北方、大地から業火が噴きだし、東、夷狄の侵攻。絢爛たる皇都は紊乱し、腐敗した宮廷のなか、豚は歌い狐は躍る。だがなによりも恐るべきは……
羅刹のごとき《令嬢》たちだ。
やれやれ。
と、ヂャンフェイは眉をひそめた。陣幕のなか、今、その令嬢が目の前にいる。ていのよい厄介払いで鎮西将軍を拝命し、辺境に着任早々この騒動だ。
令嬢の足元には血濡れた男。
「村に、ご慈悲を……」
「キャッハこいつ息くっさ!」
ヂャンフェイは舌打ちを抑え、艶やかな黒髪をかきあげ告げた。
「リエン様。そこまでです」
「はあ? 令嬢への直訴は死罪! よってこいつは」
「ドリャーッ!」
雄叫び。ぶっ飛ぶ陣幕。爆風と轟音。唸る拳がリエンの顔にぶちこまれ、あっと言う間に吹き飛び消える!
「は?」
ヂャンフェイは見た。風吹き荒れるなか、
「我こそは白裳党が党首ッ!」
白き令嬢装束なびかせて腕を組み仁王立ちした……
「バイフゥだッ!」
「バイフゥ!?」
幼馴染で叛乱軍の首魁バイフゥ。
なぜここに。いやそもそもその恰好はなんだ!?
「この人を、解放するッ!」
「ちょ待ておま……その恰好はなんだ」
「知れたこと。ボクは令嬢をやることにしたッ!」
ひとつ、令嬢とはみかどに選ばれし強者である。
ふたつ、令嬢とは皇国秩序の守護者である。
みっつ、令嬢とはうら若き乙女である。
「いやお前逆賊だし……」
ヂャンフェイは思わず叫ぶ。
「そもそも男だが!?」
「そのとおりだがッ?」
バイフゥは大地を踏み鳴らし叫んだ。
「ボクが何者であるかは、ボクが決めるッ!」
同刻、皇国西の境。
バイフゥ様、ほんとに大丈夫……?
シャオ老は嫌な予感に顔を曇らせていた。眼前には集結した白裳党員。全員身にまとうは令嬢装束。もはや賽は投げられた。シャオ老は……覚悟を決めた。
「皇国の暴虐ここに窮まれり! ゆえに」
自らもまた桃色の令嬢装束をひるがえし宣言する!
「《天翔ける令嬢計画》の発動ぢゃッ!」
【続く】
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