見出し画像

山田三千夫 (43)、脳天にフルスイング

山田三千夫は壊れてしまった。

「はーい、ホォムラァーーン!!」

道行く男性の脳天めがけて、金属バットでフルスイング。その感触。三千夫はかつてない解放感を覚えていた。

20代。
なんとなく始めた工場バイト。人生の目的なんてなかった。

30代。
いつしか転職するのは難しくなっていた。友人達は幸せな家庭を築く。

40代。
地下アイドルの追っかけが唯一の生きがい。しかし推しがファンの子を作って脱退。

そして昨日。
1か月後の工場閉鎖が告げられた。

後に残されたのは貯金無し、彼女無し、小太り眼鏡、禿が進行していて体臭が匂う、死んだ目の中年男だった。

ちょっとした甘えやボタンの掛け違えの連続。それもあって彼は今どん底にいる。しかし、世界には逆のボタンの掛け違えもきっとあるはずだ。

三千夫はいまだ、自分がフルスイングした相手が何者なのかを知らないでいた。彼には明日という日は存在しない。しかしここから、三千夫の最後の疾走が始まる。


【「もう一度、フルスイング」に続く】

きっと励みになります。