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「モテない」語りの最終兵器は奥田亜希子が撃つ!

2020年5月26日に発売予定、小説家・奥田亜希子さん初のエッセイ集『愉快な青春が最高の復讐!』。
今回は、書店員であり、また著書『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 』『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』が話題の、花田菜々子さんに、本作への書評をいただきました。本作を「読み進めるうちにこのただごとでなさに震撼した」「本物のダサさ、イタさがここにはある」「最終兵器」とまで評してくださいました!ぜひ、ご一読ください。

また、『愉快な青春が最高の復讐!』、10章あるうちのおよそ6章分を、noteにて順次公開しております。こちらもよろしければぜひご覧ください。
■青春という言葉に気持ちが明るくなる方にも、絶望に似たなにかが湧き上がる方にも。(まえがき)
■青春を味わうには資格が必要だと思っていた。(第1回)
■「会社の人とは友だちになれないよ。ある意味でライバルなんだから」(第2回)

奥田亜希子『愉快な青春が最高の復讐!』
装丁:川名 潤 装画:池辺 葵

愉快な青春が最高の復讐! 書影表1 帯有


「モテない」語りの最終兵器は奥田亜希子が撃つ


 自分が「モテない」ことを前提として、劣等感や自虐をまじえながら面白おかしく自分を描く文化というのは、この20年でほとんど出尽くした感がある。江川達也や古谷実によって描き出された「モテなさ」はやがて男子だけのものでさえなくなり、かつては選ばれる側でしかなく声を持たなかった女子へも、オタク界隈の「腐女子」や能町みね子の「モテない系」というワードとともに大きな共感を持って一気に広まった。そして時代の変化とともに自虐は廃れ、最近ではモテなくても楽しい、という部分の方が強調されているように思う。

 さて、奥田亜希子のこの問題作についてである。初めてこの本の話を聞いたとき、「はいはい、それ系ね」と感じたのもまた事実である。だがしかし、読み進めるうちにこのただごとでなさに震撼した。面白おかしく脚色したエンタメ的なモテなさではなく、ダイヤモンドの原石のような本物の輝きがドテッとそこに転がっていたのである。本物のダサさ、イタさがここにはある。

 しかしながら、この本の主軸はそのダサさイタさではなく、そんな暗黒の学生時代を過ごした著者に遅れてやってきた、友人たちとの楽しい日々の記録である。だがそれは、モテなさや垢抜けなさを克服する、という種類のものではない。ダイエットをして、メイクを覚えて、おしゃれな場所でデートして……といった今や古臭い成長物語とは真逆の方向へ著者は突っ走っていく。モテない人たちの仮想敵になりやすい「リア充」「パリピ」「ウェイ系」の人たちとの闘いもない。もはや敵視する必要もない。20代中盤で訪れたピュアな人生の喜びは、誰かの性的承認やカーストの上にいる女子たちとの競争の必要もなく、自立した喜びなのだ。まるでガンジーのように、誰かを攻撃しなくても闘うことができると教えてくれるのである。

 それでも。この本のタイトルには「復讐」という言葉が入っている。

 先日webで悲しい記事を見かけた。女性の社会学者による対談の記事で、「エロス資本」という言葉を用いながら「女性の価値は20歳前後で頂点に達し、35歳でくらいで消失する」という説が誰にとっても事実であるかのように話が進められていた。なぜ社会学者を名乗りながら、そのエロス資本なるものを持つことすらできず、価値のスタートラインにさえ立つことができずに苦しめられた20歳前後の女子の存在をなかったことにできるのだろう、と怒りが湧いた。スタートラインに立てないのは、もちろん外見の問題だけではない。

 もちろん彼女の意見には多くのフェミニストたちがまっとうな反論をするだろう。だがしかし、どうだろう、奥田亜希子のこの、そんな価値観と闘うことすら放棄して、みんなでダサいお揃いのつなぎを着て、カラオケで深夜に「はたらくくるま」を熱唱する姿こそ、彼女に対して最高の復讐になるのではないか。彼女がどんなに「若くて綺麗な女子にしか価値はない」という呪いを擦り込もうとしてももう無駄だ。だって著者たちの「ゆうびんしゃ!」「せいそうしゃ!」というコール&レスポンスがにぎやかすぎてもうそんな呪いの声は聞こえないのだから。

 時代の変化とともに、モテない語りはそろそろ終わりを迎えると思う。私には、時代が作り上げたこの大きなジグソーパズルの最後の1ピースを、奥田亜希子が置いてくれたように感じられた。
                          ――花田菜々子

奥田亜希子(おくだ・あきこ)
1983年(昭和58年)愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒業。2013年、『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞。著書に『透明人間は204号室の夢を見る』『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『リバース&リバース』『青春のジョーカー』『魔法がとけたあとも』『愛の色いろ』がある。本作は著者初のエッセイとなる。


単行本には、同期旅の模様など、写真を多数収録!

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