ショートショートバトルVol.3〜「窓辺のゼンマイ時計」東軍(大友青、遠野九重、最東対地)
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ショートショートバトルVol.3〜「窓辺のゼンマイ時計」東軍(大友青、遠野九重、最東対地)

冴沢鐘己

(お題:カンヅメ)

第1章(大友青)

 くるり。くらり。

 わたしの体がきしみながら、意思に反して回転する。

 わたしはバレリーナ。この窓に縛られたバレリーナ。

 わんわん、とケンちゃんの声が聞こえてきた。今日もどこの馬の骨かもわからないプードルの尻を追いかけているらしい。わたしはくすりと笑う。ケンちゃんとニンゲンは青いヒモで繋がっている。ケンちゃんがプードルに熱をあげるたび、ニンゲンはしょうもない奇声をあげて引きずられる。その光景がこの世界を象徴しているようで笑えた。

 かち、かち、かち、かち。

 ああ、またわたしの時が止まる。回転する視界がゆっくりと正常になる。それでもわたしの出番は終わらない。裏方にまわり、また時を刻み、ニンゲンにこの世界の時間を示し続けなければならない。そして時間がくれば、わたしのステージが再びはじまる。

 わたしは日に二十四回のステージに立つ。そのときだけ、外の世界を知ることができる。夕暮れが近づけば、またケンちゃんの声が聞こえてくるだろう。井戸端会議をするおばさんの群衆にまぎれ、おじさんが混ざっていた。おじさんは気まずそうに愛想笑いを浮かべている。

 ひとりのおばさんが合流して、白いビニールの袋から何かを取り出した。あれはなんだろう。まあるくて、金色に光ってる。おばさんたちはそれを嬉しそうに受け取る。おじさんも漏れなく嬉しそうだ。わたしはそれが何なのか気になって仕方がなくなった。

 

 観客は誰もいない。誰もわたしの名を知らない。わたしを求めてくれるひとはいない。ごく限られた時間にだけ、この部屋の主が姿を現す。

 主の名前は知らない。主はいつも独りだ。わたしは主の声を知らない。話してみたくて「おーい」って声をかけるけど、テレビに夢中で気がつかないみたい。

 テレビの中のオウムが鳴いた。

「もっとちょうだい。もっとちょうだい」

 もっとちょうだい。わたしをもっと愛してちょうだい。

 わたしの名を知ってちょうだい。

 わたしの名はサイトウタイチ。

 光輝くバレリーナ。

 この世の何よりも輝くバレリーナ。

 くるり。くらり。

 わたしは、あいも変わらず回り続ける。すると、いつもとは違う時間に部屋の扉が開いた。わたしはびっくりして大声をだした。


第2章(遠野九重)

 私の恋人は時計職人でした。

 サイトウタイチ、という名前です。

 世界的な有名人ですから、みなさん、よくご存知だと思います。

「タイチの仕掛け時計」といえば世界のあちこちの都市に設置され、たくさんの人々の目を楽しませています。

 ですが、実は彼が世界の平和を守っていたことをご存知でしょうか?

 世界終末時計というものがあります。

 アメリカのシカゴ大学に設置され、世界情勢に対して警鐘を鳴らすためのものーーというのが有名ですが、あれは表向きの偽物にすぎません。

 本物の世界終末時計は、止まってしまえば、本当に世界が終わってしまいます。

 私の恋人ーータイチはそれを管理していました。

 世界が終わらないように、ゼンマイ仕掛けの終末時計をメンテナンスしていたのです。

 けれど、タイチは昨年、亡くなってしまいました。

 彼は重篤な犬アレルギーを持っていたのにも関わらず、隣の犬のケンちゃんと、そのまた隣の家のプードルを可愛がり続けた結果、アナフィラキシーショックで命を落としたのです。

 それ以来、わたしが終末時計の管理を引き継いでいます。

 彼の忘れ形見ともいえる時計に向かって「タイチ」「タイチ」と呼びかけながら、毎日、心を込めてメンテナンスをしています。

 ですがーー

 困ったことに、修理のためのパーツがなくなってしまいました。

 このままでは程なくして時計が止まってしまいます。

 世界が終わってしまいます。

 私は色々と考えて、とにかく、今あるパーツを長持ちさせることにしました。

 これまでは1日に1回、決まった時間にメンテナンスを行っていましたが、その回数を増やすことにしたのです。

 そうして普段と違う時間に、終末時計の置いてある部屋に向かったところーー

 時計から、異音が響きました。

 ちょうど時計は8時を指していて、バレリーナがくるくる回っていました。

 その異音は、まるでバレリーナの叫び声のようでした。

 異音は5秒ほど続き、それが止んだあとーー時計の針が、ピタリと硬直しました。

 繰り返しになりますが、終末時計が止まると、世界が終わります。

 それがいま、現実になってしまったのです。

 果たして何が起こるのか。

 私は恐怖を覚えつつも、少しだけ安堵していました。

 だって私は、彼のいない世界でこのまま延々と生き続けることに、疲れ始めていましたから。

 彼のいない世界にあまり価値は感じられませんし、このまま終わってしまっても、わたしとしては悔いもありません。

 ただひとつ気になるのはーー

 世界の終わりとは、いったい、どのようなものでしょうか?

 隕石が落ちてくるのか、それとも、大地震が起こるのか。

 不謹慎かもしれませんが、ちょっと楽しみです。


第3章(最東対地)

〜タイチの手記〜

「赤いリボン」
それがキーだった。きっとユリナは俺が死んだと思っている。
くすんだ柱のゼンマイ時計。くるくると回るバレリーナ。
あれには赤いリボンがついている。気づいているだろうか。
君が気づいているのなら、きっとこの世界は救われる。
バレリーナの赤いリボン、それを引き抜くことが世界を救うたったひとつの冴えたやり方なのだ。

ケンは元気なのか。高い窓からのぞく丸い月を思い出す。
あの時、君とした口づけはケンがよく吠える夜だった。
2度目のキスは事前に奴の好きな缶詰を準備し、黙らせてから口付けた。
昔、繋いでいた赤い首紐。あれが青くなっているのに気づいているか。
君は僕の、「犬アレルギー」という嘘をまだ信じているのかい。
あれはたったひとつの僕の嘘だ。
あとは真実。
世界終末時計が止まれば世界は滅ぶ。

時計が止まるのはぼくの意思ではなく、アカシックレコードに最初から載っていることなのだ。
動かない。
ただルールを犯せばいい。
僕たち「終末時計管理機関」の職員、、、ユリナはきっとそれを時計職人だと思っているようだが。

ルールを犯せないように徹底的に躾けられている。
自分の意思では謀反できないようにできているのだ。しようとすれば、世界が滅ぶ前に死ぬ。

死ぬのが怖い?
バカな。

僕は世界が滅ぶより君との記憶が滅ぶのが怖い。
死んだ。僕は死んだ。

そうか、死んだことにすればいい。違う。本当に死ぬ。

そうして僕は意識をクラウドに移し、肉体を殺した。
僕が死んだとマザーコンピューターは認識した。
だから、僕は初めて自分の意思でルールを犯した。解除のスイッチ
それが赤いリボンである。

終末時計が止まる。それは決定されている。滅日は動かない。
それを犯した。赤いリボンに気づき、君が世界を救うんだ。ユリナ。

だが、あんな小さな窓辺のゼンマイ時計のバレリーナに巻いた赤いリボン、それに気づくなんて奇跡だ。
だからヒントを置いてきた。
ケンの好きな缶詰を白い袋にいれてきた。

君なら気づくだろう。
あれは僕があの日、ケンを黙らせた缶詰だ。
あの缶詰に君が気付けば世界は明日も平和だ。

君は女神になれるか、僕は賭けてみる。
缶詰と消えた赤い首紐。気づかなくてもいい。
ただ、僕とのあのキスを思い出してくれ。

最後になる。あの缶詰、人が食ってもうまいんだぜ。
僕はもう食えないから君が食ってくれ。

 あとがき

 ここまでお読みいただきありがとうございます、最東対地です。
 今日はちょっとだけカンヅメの話、とくに、おもちゃのカンヅメについて話をしようと思います。キョロちゃんのやつですね。 

作家といえば締め切り前のカンヅメですね。まさにこれはそんな最中に書いた作品です。カンヅメ部屋ってご存知ですか?本当にあるんですよ。
なぜならいま僕はそこで原稿を書いています。
もういまで57時間が経過しています。死にそうです。
でも人間不思議なもので、カンヅメされていると缶詰のことばっかり頭に浮かぶものですね。

さて、おもちゃのカンヅメですが、皆さん持ってます?
僕チョコ嫌いなんでそもそもキョロちゃんマークが集まらないんです。っていうか、あれに入ってるおもちゃってそこまでしてほしいですか?

あ、ノックが聞こえる。担当が来たようだ。
ではこのへんで。9月に新刊でるので買ってね。

最東対地

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7月20日(土)16:00から、京都 木屋町「パームトーン」で開催される「fm GIG ミステリ研究会第9回定例会〜ショートショートバトルVol.3」で執筆された作品です。

顧問:我孫子武丸
参加作家陣:延野正行、尼野ゆたか、円城寺正市、木下昌輝、遠野九重、稲羽白菟(イナバハクト)、今村昌弘、最東対地、水沢秋生、大友青ほか

司会:冴沢鐘己、曽我未知子、井上哲也

上記の作家が、東軍・西軍に分かれてリレー形式で、同じタイトルの作品を即興で書き上げました。

また、それぞれの作家には当日観客からお題が与えられ、そのワードを組み込む必要があります。

当日の様子はこちらのアーカイブでご覧になれます。

タイトルの「窓辺のゼンマイ時計」はこんな曲です。

「窓辺のゼンマイ時計」籾井優里奈
作詞・作曲・編曲/冴沢鐘己

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冴沢鐘己
京都のシンガーソングライター、ロッカー。 https://www.showky.jp/ ネットラジオ「fm GIG(エフエム・ギグ)」代表。 http://www.fm-gig.net/ TIME FOR LOVE リーダー。http://www.palmtone.com/