「OLD ROOKIES」 第6話 -スタイル-
「まずはオフィス探しだな」
森の最初の仕事は、引っ越しだった。これまでは港区・芝浦にある親会社ワークスコーポレーションのオフィスを間借りしていたが、フューチャーワークスが名実ともに森の会社になった今、どこかに新しくオフィスを構えなければならない。
青山や六本木などの物件を一通り見た後、森は新たなスタートの場所として赤坂の地を選んだ。
契約したのは「赤坂 TK ビル」というオフィスビルの15畳ほどの小部屋。白いタイル張りの壁に外階段がついた個性的なビルだった。赤坂駅からたった徒歩数分で、立地も申し分ない。
「オフィスが決まれば、営業開始だ」
森は、「コンピュータと通信」のキーワードを軸に、とにかく業界ナンバーワンの企業から順にアプローチした。
ソフトウェア会社なら「マイクロソフト」、通信キャリア会社なら「 NTT コミュニケーションズ」、通信機器メーカーなら「シスコシステムズ」…誰もが知るような大手企業を相手に普通なら怖気づいてしまいそうだが、これはリクルート時代に培った営業スタイルだった。
「小さい会社だからこそ、ダメ元の精神が大事なんだ」
そう自分に言い聞かせながら森は営業先へと向かった。
リクルート出身の知り合いを伝手に「なんでもやります!」というスタンスで、単発の仕事はすぐに受注することができた。
文字通り、森は本当に“なんでも”引き受けた。
「お客様用にメロンを買わなきゃいけないんだけど、時間がないんだよなぁ」
「じゃあ、僕が買ってきますよ!」
イベントの運営やビラ配り、受付の手伝いなどの雑用からパシリまで、日夜構わず森は走り回った。
しかし、森は不思議とそのような仕事に対して辛さや悔しさを覚えるという感覚はなかった。
仕事は来るもの拒まず。選ぶということはしなかった。
でも、森は唯一、お客を選んでいたのだ。
「自分が選んだお客様が右と言えば右だし、左と言えば左だ」
そして、ついに、念願のシスコシステムズから初めての受注を獲得した。
わずか15万円のルータ製品のチラシ制作の依頼ではあったが、世界ナンバーワンの通信機器メーカーからの受注は大きい。シリコンバレーのサンノゼに本社を構える同社は、当時からインターネットのインフラ部分を牛耳っていた。
さらに、森は「なんでもやる」ことに加え、もう1つ意識していたことがあった。
それは“スピード”だ。
来週いっぱいと言われたら来週の頭。来月と言われたら今月中。
森は、とにかくスピード重視で仕事をこなしていった。
刻々と変化する「コンピュータと通信」の業界。その中で、頭一つ抜きん出るためには、森はスピードが命だと考えていた。
そんな姿勢が信用へと繋がり、徐々に単発の仕事から全体を任される仕事を依頼されるようになっていったのだろう。
独立からあっという間に、森の生活は猫の手も借りたいほどに忙しい日々となった。
つづく。
株式会社ショーケースの「これまで」と「これから」を描くノンフィクション小説『OLD ROOKIEs』は、毎週1話ずつ公開中!
第1話 -卒業- https://note.mu/showcase/n/nd305564958cc
第2話 -挑戦- https://note.mu/showcase/n/n2b1a8afc07fc
第3話 -犬のウン- https://note.mu/showcase/n/nfb96f0b7d7ee/edit
第4話 -予感- https://note.mu/showcase/n/nb2813ef9f60d
第5話 -スタートライン- https://note.mu/showcase/n/nebefa72c6269
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