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Life is good. And we become better ancestors.

『グッド・アンセスター』の出版記念イベントをオンラインで開催したところ、60名を超える方にご参加いただけて、とても嬉しく。半分以上は色々なつながりからの友人たちであり、そしてこれをご縁に新たにつながった方々も多くいらした。

途中、zoomのブレイクアウトルームで少人数での対話の時間も設けたが、各部屋で深い対話がなされたであろうことは、顔ぶれだけ見ても想像ができた。「自分が先人から受け取った”恵み”について話してください」というお題を出したけれど、自分にとっては、人のつながりが何よりも大きな恵みだと思った夜だった。

ご参加下さったあなた、ありがとうございました。

『グッド・アンセスター』に親しむことで、色々な気づきがある。

例えば、お坊さんが発するべきメッセージは「ご先祖さまを大切にしましょう」ではなくて、「自分は祖先からどんな恵みを受け取っているのか、意識を向けてみましょう」なのだということが、よくわかった。「大切にしよう」という気持ちは結果として内発的に起こってくるものであって、外から無理矢理押し付けることはできないからだ。

「恵み」に意識を向けてみると、実にいろんなものが浮かんでくる。今、目の前にある景色の中にあるものだけでも、到底、数えきれない。そして、目に見えるものだけでなく、目に見えないものも、無数にある。先に存在していたものを介さずに、無からいきなり生まれるものなどないということに、気づく。そうすると、私の意識があらゆる人や物事とつながっていく感覚になる。

グッド・アンセスター思考では、過去から未来へ、という時間軸を鍵に意識を拡張していくわけだけれど、つまるところ、これは人間の意識変容の話なのだろう。

都会で会社と自宅の往復をする日々の中でどうしようもなく孤独を感じる人がいる一方、山奥で一人ひっそりと生命のつながりの豊かさを味わって暮らす人もいる。周りに人が多ければ孤独を感じないわけでもないし、逆もまた然り。やはり、意識が周囲との関係性に開いていること、すなわちマインドフルであることが大切だ。別の言い方をすると、それは、自他の間に立ち現れる分人(dividual)を満喫することでもある。

どんなにSNSでfriendやfollowerの数を増やしたところで、それは孤独を埋めてくれるどころか、数字に依存し始めると、人はますます孤独になっていく。つながりの感覚に対して、数字はフィクションに過ぎない。同じように、あまりにも過去の人や未来の人を強く意識するがあまり、「彼らのために」生きることに一生懸命になり過ぎて、自分が疎かになってしまうと、これまた苦しい人生になってしまう。

グッド・アンセスター思考は考える良いきっかけを与えてくれるけれども、やはり同時に「Life is good」あるいは「生まれてきてよかった」と自らを肯定できるマインドフルネスが満ちていればこそだろう。

オードリー・タンさんと話したとき、彼女は正確にはこのような問いかけをしてくれた。

“How can we shape the social norm and build the infrastructure to encourage all the participants to become better ancestors?”

面白いのは、Good Ancestor、ではなく、Better Ancestors、となっているところ。

「Good」と表現してしまうと、どうしてもその反対に「Bad」を想起してしまい、善悪のジャッジメントが入りこんできてしまいがちだ。しかし、多分、オードリーさんは、彼女の日頃のコミュニケーションからも感じられるように「Life is good」がベースにあるのだろう。

正解なんて誰にもわからない世界を、僕らは生きている。かつての世代と同じように、僕らが良かれと思って一生懸命やったことが、蓋を開けてみれば未来の世代にとっては負の遺産となることだって、あるだろう。でも、だからと言って、僕らがかつての世代のことを「Bad Ancestor」だなんて呼ばないように、兎にも角にもなんであれ、僕らは自分たちの人生を生き切って、Good ancestorになっていくのだ。

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このnoteマガジンは、僧侶 松本紹圭が開くお寺のような場所。私たちはいかにしてよりよき祖先になれるか。ここ方丈庵をベースキャンプに、ひじ…

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