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松本紹圭の方丈庵

このnoteマガジンは、僧侶 松本紹圭が開くお寺のような場所。私たちはいかにしてよりよき祖先になれるか。ここ方丈庵をベースキャンプに、ひじり仲間と対話と巡礼の旅に出ませんか? … もっと読む
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#仏教

バトンをつなぐ循環医療

どんな症状の時も、病院に行く度に大抵の場合は行われることがある。 検温する、聴診する、喉を診る。 医療の基本にあるシンプルな「検査」が町のクリニックから大学病院まで、全国、そして世界の診察室で行われている。診察室だけではない。施設や企業への訪問医療、在宅医療、定期検診、さらには山岳医療から災害救助まで、あらゆる医療の現場で行われている。 もし、絶えず世界中で繰り返される「喉を診る」経験を集めることができたならー。 各地の「喉を診る」医師たちと「喉を診られる」人たちから

仏教はOSか

人の行動や意識を司るような、身体や精神に染みついたあり方、考え方、行為など、よく、コンピューターのOS(オペレーティングシステム)やアプリケーションになぞらえて語られる。考え方をあらためることを「OSを入れ替える」と表現したり、人生の転機を迎えて「これまでの価値観をアンインストールして、新たにインストールし直す」ーーといった具合に。 宗教もまた、その人の世界観や死生観にダイレクトに紐づくことから、人が生きていく根底で稼働を続けるOSに喩えて説かれるシーンも度々ある。

生活しやすくて、生きづらい国。

インドへ行ってきた。10年前、留学の時に1年間住んで以来だ。この10年、インドの経済は成長し、人口は中国を抜き、目覚ましい発展を遂げているというニュースを見ることが多かったので、その変貌を目の当たりにすることを楽しみにしていた。 私がかつて留学していた都市ハイデラバードは、デリー、ムンバイ、バンガロールほど有名ではないが、インド国内のみならず、世界の都市の中でもトップと言われる成長率を誇る。インドの変化を見るには最適な再訪場所だ。 確かに、10年の変化は大きかった。当時、

念仏はソナー

浄土真宗の信仰構造について、自分なりに理解を深めている。 阿弥陀仏の「摂取不捨」は、やはり一つの大事なキーワードだ。SDGsのスローガンではないが、「誰一人取り残さない」という意味だ。 仏道には、色々な道がある。これまでにたくさんの祖師がいて、たくさんの宗派があり、たくさんの思想や実践が生まれてきた。それぞれ仏道であるかぎり、「私が仏になる」に通じているのだから、どの道を歩いてもいいだろう。自分に合わないなと感じたら、途中で道を変えることも自由だ。 しかし、張り切って歩

Mindfulness for shameful evils

マインドフルネスが世界に広まって久しい。先行して広まったヨガが個人のエクササイズやウェルネスとして広まったのに対し、マインドフルネスは「生産性」や「集中力」といったキーワードとともにビジネスの文脈でより広く受容されてきた。しかし、マインドフルネス実践者が増えるにつれて、その副作用も認識されるようになってきた。 (オリジナルの英語記事) (同内容の日本語記事) このところマインドフルネスの負の側面に関する論文を読み込んでいたのだが、さまざまな調査研究が示すところによると、

パーソンあるいは一無位の真人

東大哲学科時代の恩師の一人であり、現在、武蔵野大学にてもお世話になっている一ノ瀬正樹先生から、先生が地元茨城の新聞に寄稿された「人は個人かパーソンか」という論説をシェアしていただいた。大きなインスピレーションを受け取ったので、ここにシェアしたい。 ここに、産業僧の活動を通じて私の中で浮かび上がってきていた人間観が、具体的な言葉として表現されているように感じた。そうだ。産業僧として対話者と向き合うとき、そこで何が起こっているのかといえば、パーソンとパーソンの声の響き合い、なの

親鸞の「往相」と「還相」をベクトルで読み解く

親鸞の著作には「海」が山ほど出てくる。山ほどの、海。というのも、おかしいけれども。 浄土真宗というくらいだから、この苦しみに満ちた娑婆世界から阿弥陀仏の安養の浄土世界へと往生することを念頭においた宗教なのだけど、「功徳の宝海」とか「弘誓の智海」とか、浄土のことを語るときにも「海」を使う一方で、「生死の苦海」「愛欲の広海」など、娑婆のことを語るときにも「海」を使う。 その親鸞は、主著である『教行信証』の冒頭で、浄土真宗についてこう語る。 「つつしんで浄土真宗を案ずるに、二

開教か、追教か

前回に続いて、アメリカの西海岸 バークレーと、旅の最後に立ち寄ったカナダ バンクーバー訪問を振り返りたい。 -- 浄土真宗本願寺派には、世界各地で教えをひらく「開教地/開教区」と呼ばれる支部があり、そこに身をおく僧侶のことを「開教使」という。アメリカ大陸ではカナダ、北米、ハワイ、南米とそれぞれに本部が置かれ、各地に広がる拠点の中心として機能している。 今回の旅では、バークレーで北米開教区本部のマービン・ハラダ総長に、バンクーバーではカナダ開教区本部の青木龍也総長にお会い

AWEのいしずえ

仕事でニューヨークやプリンストンなど、アメリカ東海岸の都市を訪ねた。それを機に北米を探索しようと、西海岸にも足を伸ばしてサンフランシスコにほど近い街 バークレーへ。目的は、BCA(Buddhist Churches of America)浄土真宗センターの訪問と、心理学者ダッカー・ケルトナー教授にお会いすることだった。ケルトナー先生とは、近く書籍の仕事で関わるご縁をいただいている。 彼が研究を行うカリフォルニア大学バークレー校は、浄土真宗センターから歩ける距離にある。一度カ

方丈庵 Latest News!|2023.6.27

◉ Web連載のご案内 朝日新聞デジタルの言論サイト『Re:Ron』にて連載が始まりました。 『Re:Ron』連載「松本紹圭の抜苦与楽」 第1回:仏教を産業界に翻訳する 僧侶・松本紹圭が企業で進める「社内巡礼」 *本連載は有料記事となりますが、期間限定で全文公開されています。ぜひこの機会にご覧ください。 [ 期間限定 全文公開URL:〜6月28日(水) AM9:30 ] https://digital.asahi.com/articles/ASR6R3JDTR6QUL

挨拶できる範囲

産業僧の事業を始めるにあたり、立ち上げた法人の名前をInterbeingとした。ベトナム出身の偉大な大乗仏教僧、故・ティクナットハン師の「人間(Human-being)は、関係性によって表れる存在(Inter-being)である」という言葉からいただいたもので、大乗仏教の根本思想である縁起・空の世界観を表している。 「産業僧」という文字が表す通り、この事業の主な対象は「働く人」を想定している。しかし、なぜ、働く人なのか。あらゆる人間があらゆる場所においてInterbeing

成功しても、失敗しても、停滞しても。

とても久しぶりに、大阪の(だけでなく日本を代表する)イノベーション寺院、應典院に呼んでいただき、これからのお寺、これからの應典院について、議論に参加する機会を得た。應典院の秋田光彦さんは、比類なき幼稚園の経営者でもあり、比類なきお寺の住職でもあり、その両方を成り立たせつつ、やはり、僧侶の原点も大切にされている。 秋田さんは、仏教界のアイデアマンであり、コピーライターであり、あらゆる変革派僧侶にとってのグッド・アンセスターだ。私も、秋田さんから学んだことがたくさんある。例えば

「はじまりの集い」振り返り

東京・武蔵野大学の主催で京都・西本願寺にてGW中に開かれた、カンファ・ツリー・ヴィレッジのシンポジウムが無事、終了した。その数日前には、海外から招聘した登壇者数名と共に熊野古道の巡礼も実施し、盛りだくさんの数日だった。運営チームの皆さんには感謝しかない。 今回のシンポジウムを振り返ってみると、登壇者お一人お一人のお話も素晴らしかったし、仏教精神を建学のルーツに持つ武蔵野大学がオリジンである西本願寺にて100周年を記念するイベントを行ったのも感慨深いものがあった。近いうち、実

カンファ・ツリー・ヴィレッジのはじまり

実はここ一年ほど、大きな大きな難問を抱えながら、水面下で仲間とともに試行錯誤を重ねていた。 いよいよ機が熟し、4/29にその「はじまりの集い」が開催されることとなったので、このタイミングで自分の思いを書いてみたい。 カンファ・ツリー・ヴィレッジ(武蔵野大学100年記念プロジェクト) その難問とは、突き詰めると「ブッダ・ダルマ(仏法)を中心に据えて、現代世界の諸課題の解決に貢献すること」だ。 私はここ5年以上、武蔵野大学で非常勤講師として「現代仏教特殊研究」という講義を