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モノを売らずに、人を集める店とは

「商店建築」1月号(12/28発売)の新年特別企画「モノを売る前に、人を集めよ!」。Part1では、企業の思いや商品のコンセプトを発信し、体験を提供する店舗を、Part2ではコミュニティー拠点となる銭湯や薬局を掲載しています。
今回は、Part1「売ることを前面に出さない体験型ショップ&発信型空間」についてご紹介します。

なぜ店に足を運ぶのか

SNSが浸透し、オンラインショッピングへのアクセスがとても多様になった今、単に欲しいものを買うのであれば、ECの利便性を感じることが多いかと思います。一方で、情報過多社会と言われるほどの現代では、ネット上で自分が本当に欲しい情報を選別することや、普段は目を向けない新しい情報を得ることが難しくなってきています。こうした状況下で求められる店舗とは何か。それは、そこに行かなかれば知り得ないことがあり、出会えない人がいる。五感に訴え掛ける情報を発信し、客がそれを主体的に体験できる場だと考えました。昨年、私たちの生活を一変させたコロナ禍によって、「リアルな体験」は、より大きな価値を持つようになったのではないでしょうか。

掲載ラインナップ

・SKINCARE LOUNGE BY OPBIS(コスメショップ、設計/MMA)
・SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE(コスメショップ、設計/乃村工藝社)
・YUBUNE TOKYO(コスメショップ&カフェ、設計/西沢立衛建築設計事務所 tomarc)
・OGAWA COFFEE LABORATORY(カフェ、設計/YUSUKE SEKI)
・VERMICULAR VILLAGE(複合施設、設計/LINE-INC.)
・T-HOUSE New Balance(コンセプトストア&デザインスタジオ、設計/スキーマ建築計画+オンデザイン)
・NewsPicks GINZA(複合スペース、設計/電通)

体験を通して自分自身を理解する

ビューティーブランドORBIS初のコンセプトショップとして、東京・表参道にオープンした「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」。この店は、“自分自身の肌を知る”ということに重きを置いており、正しいスキンケア方法を体験しながら学ぶことができます。

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入り口を入ると、目に入るのは商品がずらりと並ぶ什器ではなく、曲線を描く大きなカウンター。更に、購買を打ち出し過ぎずに心地良さを体感してもらうため、店内には植栽や水、光などゆらぎのある自然素材が多く採り入れられています。また、2階のワークショップエリアはトークイベントなどにも利用され、発信拠点としての機能を持っています。新商品のプレス発表をオンライン配信する場としても使われているそうです。
誌面では、「心地良さ」をつくり出す店舗の計画手法やデザインについて、オルビス・クリエイティブディレクターの小椋浩佑さん、ディレクションを手掛けたTakramの緒方壽人さん、設計を担当したMMAの工藤桃子さんにお話していただきました。

“自分自身を理解する”。デジタルデトックスという言葉が生まれるほど常にネットとのつながりを持つ私たちは、日常的に自分自身と向き合う機会が減少しているように感じます。店に行くことで自分自身を改めて知るという体験は、今後ますます求められていくのではないでしょか。

日常生活まで延長する店舗体験

反対に、そうしたデジタルとの強いつながりを活用しているのが「SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE」です。グローバルブランド「SHISEIDO」初の旗艦店として東京・銀座にオープンしたこの店は、3つのフロアを持ち、各階で異なる体験を提供しています。

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1階はセルフ体験に特化し、デジタルテスターやメイクアップシミュレーターを導入。2階ではビューティーカウンセラーによるカウンセリング、地下1階ではメディテーションカプセルを利用するインナービューティーチャージ体験ができます。
1階でシミュレーションして気になった商品や深い悩みは、2階で相談する。このように、ニーズに合わせたコンテンツを提供しつつ店内での体験を連続させることで、より本質的な需要にアプローチしています。
また、デジタルを活用した体験結果は全て専用のリストバンドに記録でき、いつでもどこでもオンラインで確認できる仕組みです。こうして店内での体験を日常生活まで延長することは、消費者の利便性を高めるだけでなく、企業にとっても顧客とのエンゲージメントを持続できるファクターになります。

デジタルと聞くと一見冷たい印象を受けますが、この店舗では、人のぬくもりを感じられるサービスや自然素材を用いたデザインによって、デザインコンセプト「ジャパニーズデジタルガーデン」を実現しています。
デジタルコンテンツを店舗に導入する際のポイントとは何か。店舗開発の背景やデザインスキームについて、 SHISEIDOマーケティング担当の平山友哉さん、店舗デザインをディレクションした堀景祐さん、設計を手掛けた乃村工藝社の中村寿考さんにお話いただいた記事を掲載しています。

フィジカルな出会いを創造する

改めて店に行く意味を考えると、実店舗の強みは、「実際に体験できること」に加えて、その空気感を誰かと共有できることも挙げられます。その誰かが、共通の趣味や似たような関心を持つ人であれば、より一層わざわざ足を運ぶ理由になるのではないでしょうか。そこで重要になるのが、何を発信し、どうやって人を集めるかということ。
東京・桜新町にオープンしたカフェ「OGAWA COFFEE LABOLATORY」には、焙煎や珈琲に興味のある人が利用できるシェアロースターやバリスタトレーニングスペースがあります。バリスタが利用者に知識を共有しつつ、その場に集った人々とのコミュニケーションを通じて、お互いが新たな気づきを得られるようなオープンイノベーションの場です。

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店内は、中央の蔵やバリスタの所作を美しく見せるよう設えられたカウンターを囲むように客席が配置されています。落ち着いたトーンでまとめられた空間の随所に、「所作」を感じる要素が散りばめられているのも魅力的です。

小川珈琲にとっては、東京初出店かつ新規業態の旗艦店。設計時に伝えられた要望はかなりのボリュームがあったそう。企業の思いを、どのように整理しデザインに落とし込んでいったのか。その過程について、開発プロジェクトを担当した小川珈琲常務の宇田吉範さん、クリエイティブディレクターの南貴之さん、建築デザイナーの関祐介さんにお話を伺いました。


今回ご紹介した3つの事例を振り返ってみると、どれも回遊性のある緩やかな動線計画が印象的です。商品を床面積いっぱいに並べるのではなく、一人ひとりが自分に合った豊かな時間の過ごし方を見つけられる、余白のある空間が、主体的な体験を誘発しているようにも感じました。余白をどうつくり、どんな仕掛けを施すのかで、店舗での体験はより多様になっていきそうです。
その仕掛けとは一体何か。詳細は誌面でご確認ください。

ここではご紹介しきれなかった物件も、誌面で詳しく掲載しています。
1月号はインタビュー記事も盛り沢山です!〈金子〉

1月号はこちらから↓
https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=376

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