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連載/商業空間は公共性を持つか vol.3_「食堂付きアパート」の自律した商いとは

商業空間が持つ公共性を調査・分析する本連載。多種多様な商業空間が多様な人々の受け皿になる一方、社会情勢に左右されやすく、公共施設に比べて安定した持続が難しい。そこで今回は、建築家の仲俊治さんに、集合住宅と食堂、シェアオフィスからなる「食堂付きアパート」について伺う。自律した「小さな経済」と、利用者同士の「自治」が埋め込まれた「食堂付きアパート」から、商業空間における持続可能性を考えたい。(文/西倉美祝、「商店建築」2020年7月号掲載)


食堂とキッチン:分節しつつ一体感がある空間

西倉 「食堂付きアパート」1階の食堂は、段差によって内部が二つに分かれていますね。

 段差上は住戸部分に近い空間です。店員がワインを時々注ぎに来るような、下の空間とは距離を取った特別な場所になります。時間帯によって住人が打ち合わせもでき、また段差があることで「ここから先はアパートだから静かに」という呼び掛けにもなります。

西倉 一方、シェフの存在がコアとなり、食堂全体が一体感のある空間にも感じられます。

 段差下からも上からもシェフの手元に注目できる空間を考え、カウンターの高さを930㎜と少し低めに設定しました。これにより、平断面的には距離がある段差の上下も、シェフの存在を起点にして等距離に感じられます。

西倉 キッチン全体が多角的に見られることでシェフと客との間に緊張感が生まれ、一体感のある食堂空間を形成していますね。シェフの人物像が空間の質に影響しそうです。

 そうですね。客との関係がシェフの評価に直結するCtoCを想定して設計しています。経済的な母体が別にあるBtoCだとこの空間に合わないこともありますが、その場合は入居者から、食堂運営に関して直談判するなどの自治的な動きも発生します。

住戸と食堂:反復される多彩な「小さな空間」

西倉 食堂の奥を上がっていくと1〜3階に五つの住戸がありますね。

 はい。いずれも仕事ができる空間(スタジオ)が前面に付き、職住一体で使えるユニットになっています。

西倉 住戸と比べると、食堂の面積があまり大きくないように見えます。

 事業面だけを考えると、食堂の面積を広くし、家賃を40万円に設定することもできるのですが、そうすると40万円を払える規模の事業者に借り手が限られ、CtoCから離れてしまいます。15万円ぐらいの、個人でも手が届く家賃と面積にすることが自治には大切で、建物内での需要をつくるためには小さい空間が多彩にある方が良いと考えています。

西倉 食堂の小ささは住戸と相同性をつくっているとも感じます。同じぐらいの面積に、食堂はパブリックな段差下とコモンな段差上、住戸はコモンな前面とプライベートな奥と、近しい割合で二つに分けられています。「住戸のような食堂」と「食堂のような住戸」の反復が、相互のスムーズな利用や建物の一体感、自治をつくっているのかもしれません。

食堂付きアパート_1

食堂付きアパート_2

「食堂付きアパート」の断面計画(作成/西倉美祝)

食堂と路地:そっと逃げ出せる空間

西倉 1〜3階をらせん状の路地がつないでいます。幅を広くとることで、各階に洗濯や駐輪などの生活機能が配置されています。

 路地の幅については、扉を開けても廊下に干渉しないよう、3m弱としました。そのため、住人同士でバーベキューなども行われています。また、3階にも小さな菜園があり、近所の人が見に来たりします。

西倉 3階まで色々な人が入ってくるのですね。現地に伺った際も、3階は行き止まり感がなく開放的でした。

 路地裏を抜けると空が開けるような、下町のシークエンスを意識したのでそう感じたのだと思います。実際、3階が路地の中で最も道路に近く、3階から地上にいる友達に声を掛けることもあります。同様に、食堂も流れの場として位置付けています。外から帰ってきて、朝頼んだパンを受け取って、そのまま対角線にあるドアから抜けていく。テーブル席は、その流れの中のよどみとして考えました。

西倉 流れの場は、人間関係が排他性を生まない方法に一つのヒントを与えている気がします。

 「そっと逃げ出しやすい」ことを大事にしました。人だかりが気になって見に行ったら抜け出せなくなった、ではなくて、右から左に流れていて、自由によどみに落ち込めるし、流れに乗って逃げ出すこともできる。パブリックスペースには、そっといなくなれることが大切だと思います。ふらっと立ち寄れるような、経路が複数あることや動線が膨らんだようなよどみのようなことです。

西倉 食堂と路地のシークエンスの開放性にもその思想がうかがえます。場所の質の向上だけでなく、場所から場所へ、自由に移動できることも重要ですよね。 (次回へ続く)

掲載号の、「商店建築」2020年7月号はこちらから!


西倉美祝さんのnoteも合わせてご覧ください。


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