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連載/商業空間は公共性を持つか vol.5_都市の公共性、ユニクロパークの公共性

今回赴いたのは、「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」(20年8月号)。屋上を階段状のパーク空間とした、公共的な商業建築だ。公共的空間をどう実現するか、実践面での学びを得るべく、都市戦術家の泉山塁威さんと共に伺った。商業空間は「人の流れ」があるという意味で、泉山さんの実践の場であるストリートにも近い性質がある。都市の視点からユニクロパーク、そして商業空間の公共性はどう映るのかをひも解いていく。

ユニクロパークを読み解く

西倉 まずユニクロパークについての感想を伺えますか。

泉山 旗艦店として同時期にオープンした「UNIQLO TOKYO」(20年8月号)はデパートへの提案であるのに対し、ユニクロパークはショッピングモールへの提案だと感じました。

西倉 施設内の1テナントとしてではなく、独立した建築を持とうとしているのも印象的でした。

泉山 ECが発達した現状では、ただ物を買うためだけにわざわざ店に来る、ということが成立しにくくなっています。公園的な空間を持つと、家族連れをメインの客層として想定するショッピングモールに付加価値を与えますし、ユニクロパーク自体が目的地になり得るとも感じました。

西倉 家族という客層が建築全体の在り方を決めているという指摘もされていましたね。

泉山 現代ではシングルマザーを含め多様な家族形態を想定できますが、ユニクロパークは父、母、子供の3人以上で来ることを前提とした建築だと思いました。お父さんは子供と屋上で遊び、その間にお母さんは店内で買い物をする。屋上に遊び場があったかつての百貨店に形式が近い気もします。滞在時間が長くなるので、出口付近でお花を売っているのもお土産として良いですね。

西倉 一方、屋上は滞在する公園というよりも動きを伴うものになっています。

泉山 オーストラリアの公園の事例に近い印象でした。遊びながら運動をすることで健康な体をつくったり、インクルーシブな遊び、つまり障害者の子供と一緒に遊ぶことで助け合いを学ぶということが展開できるかもしれません。

商業空間とストリートは似ている?

西倉 泉山さんが普段実践の場とされているストリートにも商業空間は多数面していると思いますが、ストリートから見た時、商業空間の良しあしを感じることはありますか。

泉山 大規模商業施設にありがちな話ですが、ガラス張りでも外に対してアクティビティーが閉じているとか、通りに面している機能が全部物販で一様だと扱いが難しいですね。

西倉 それは、グランドレベルがヒューマンスケールで砕かれている必要がある、とも言えるかもしれませんね。建築側で公共的空間をつくる上でも重要な話だと思います。喫茶ランドリーで田中元子さんからも、通りの交通量が抑えられた方が公共的空間を実践しやすいと伺いました(本連載第2回)。

泉山 他にも、商業空間を運営される方が「この土地に今後根を張っていこうと考えられる人」かどうかも大きいです。池袋のグリーン大通りでオープンカフェの社会実験を3回(1回目:オープンカフェ、2、3回目:オープンカフェ+マーケット)行ったことがありますが、店長によってもモチベーションや問題意識に温度差がありました。

西倉 建築家の仲俊治さんも、「食堂付きアパート」にて、持続的にその場所との関係性に責任を持てるCtoCのシェフを想定し空間を設計されていました(本連載第3、4回)。公共的空間の設計のキーワードかもしれません。

アクティビティーを進化させる

西倉 ストリートと商業空間で異なりますが、同じく公共性を志向すると類似点が見られるのが興味深いです。特に、アクティビティー調査を次の実践に活かすストリートの手法は、商業空間の公共性を設計する上でも重要だと考えています。グリーン大通りの社会実験では、アクティビティー調査がどう活かされたのでしょうか。

泉山 1回目のオープンカフェは駅側から遠くアピール力が足りなかったので、2回目は駅に近い銀行が並ぶエリアでマーケットを展開しました。そこでアクティビティー調査をすると、多くの人がマーケットに立ち寄るだけで帰ってしまい滞留しないのですが、その内のピザ屋さんだけすごく繁盛していました。そうした結果もあったので、3回目は良い点を活かして飲食特化型のマーケットを実験しました。

西倉 線形プロセスによる積み上げ型の手法ですね。

泉山 この手法を「社会実験進化論」と呼んでいます。実験の効果をデータとして記録することで、うまくいった小さなことを徐々に大きくし、できることを少しずつ増やしていくことができます。

西倉 なるほど。では再度ユニクロパークの話に戻りますが、アクティビティー調査の視点からはどう映りましたか。

泉山 ヤン・ゲール※的に言うと、商品を買うなどの必要活動は室内に、空間の良さの指標となる家族同士の会話や遊び、休憩といった「任意活動」「社会活動」は全て屋上に想定されていて、内外で役割がハッキリと切り分けられていますね。3階キッズコーナー正面の内外を隔てるガラスを、開放できる設えもあり得たかもしれませんが、店舗と子供の遊び場を連続させるのは、管理上難しい気もします。

西倉 他にも、店内の必要活動によるサーキュレーションを屋上まで持っていければ、建築全体で人の流れをつくることもできると感じました。

※コペンハーゲンに拠点を置く建築家、都市デザインコンサルタント。歩行者を主体とした都市の提唱で知られる。

インフラとしてのユニクロ

西倉 実は僕の卒業設計が「ユニクロ建築を世界中につくる」というもので、公共空間を内包したユニクロ建築を世界中につくったら、国家とは別のユニクロ王国ができると、当時は考えていました。現実はそこまででないにせよ、ユニクロのような企業が僕たちの生活を支えるある種のインフラであると見ることもできるかと思います。そういった企業が持つ公共性についてはどう思いますか。

泉山 パークとは言っても都市公園法上の公園ではないので、公共性を求める必然性はないと思いますが、子供がここで遊びつつ滞在するというのは、都市の中で一定の公共性を担っていると言えます。また、ユニクロパークは周辺が倉庫街なので考えにくいですが、別の場所でユニクロの建築を考えた時、周辺地域への経済的効果も期待できそうです。

西倉 ユニクロパークは滑り台のような形状が際立っている一方、他の場所にあるユニクロは別の方向での公共性が際立っていて、そういった個性的な拠点を選択することで営むライフスタイルは想像しやすいですね。

泉山 その視点だと、海外のキオスクのような、道路内建築物による商業空間の公共性は今後あり得るかもしれません。道路内建築が(2020年道路法改正、歩行者利便増進道路により)20年間建ち続けられるようになるので、民間も投資回収できるようになる。歩道の中に建ち、掃除や治安維持などで地域社会に貢献することが商業空間の運営につながるというビジョンがあり得そうです。

西倉 その結果顧客層を拡大できれば、公共性と商業性のシナジーと言えるかもしれませんね。

泉山 あと、道路内建築物は広告になり得ます。コンビニもそうですが、街なかに当たり前に存在するというのには意味がある。

西倉 確かに、当たり前にあるという安心感も、公共性には大切なことかもしれません。


掲載号の、「商店建築」2020年9月号はこちらから!

話題に上がった「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」は、2020年8月号で掲載しています。

西倉美祝さん、泉山塁威さんのnoteも、ぜひ合わせてご覧ください。


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