note_diagram-1_図表記_ここ

ここだからこその建築

「ここにしかない建築」という発想は、地域で活動する設計者にとって、世の中全体に目を向けた良質で普遍的な回答を、社会へ提示するためにはとても良い目標なのだと思います。
しかし一方で、この発想には少し難があるようにも思っています。そして、実際的に現実世界ではたどり着く事が非常に困難な場合が多いようにも思います。
そこで私は、それに代わる設計アプローチとして「ここだからこその建築」という発想を持って設計を行うようにしています。

「ここにしかない建築」という発想はとても限定的です。建築が「ここ」以外の場所ではありえないものである必要があるからです。しかし一方、「ここだからこその建築」は『ここだからこそできる事』を積み上げられできあがった建築で、部分的にあるいは全体的に、「ここ」以外の環境にも同じものがある事を許容します。重要なのは、「ここ」の環境(施主との関係性も含む)の良いところを建築に取り込んでいくことであり、唯一無二の独自性ではないと思うのです。

更に、「ここ"にしかない"建築」は、「ここ」の範囲を明確にしないと成り立たない概念で、「ここ」を構成する要素の範囲は明確な境界をもったものですが(図1)、「ここ"だからこそ"の建築」の場合は、必ずしも範囲を限定する必要がないため、構成する要素の範囲も、緩やかな境界であったり、複数領域を持った一か所に限定されない境界でも、魅力があるものは全て良しとすることができます(図2)。

そしてそんな、範囲を限定しない「ここだからこその建築」は、実際世界での" 切れ目のない存在 "である「環境」とも、とても相性の良いものだと思うのです。

このように、微妙な言葉の違いではありますが、建物のカタチを方向づける上で、とても大切な違いがあるように思います。そのため今の私は、「ここだからこその建築」をつくるため『ここだからこそできる事の積み上げ』を設計アプローチの一部として試みています。
ただし、このアプローチは、積み上げが低すぎると「どこにでもある建築」に成り下がってしまうため、十分な注意が必要なわけですが。

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