見出し画像

ラーメンを「美味しい」と言えるその日まで。


「ラーメンを美味しいと思えない」
そう書くと、反感を買うのだろうか?

「ラーメンなんて大嫌い」
そう書くと、非国民だと言われるのだろうか?

そうなんです。僕はラーメンを国民食とする日本に生まれた日本人でありながら、ラーメンを食べない、ラーメン嫌いな反逆的な日本人なんです。

ラーメン好きな皆さん、いや、日本全国の皆さん。
この記事は大方そういう記事になりますので、先に謝らせてください。ごめんなさい。

反旗を翻す記事を書く以上、理由をしっかり説明するのが礼儀だと心得ているので、まず嫌いな理由を述べさせていただく。

ラーメンを好きになれないのは、単調な食事だからである。
ラーメンは麺とスープで構成される。以上。そして、それをすする。初めから終わりまでズルズルズルズル……とひたすらすすりまくる。同じ味のものをすすりまくる。
食べる途中で飽きが来る。

別の食事例として、定食について考えてみよう。
主菜、副菜、汁物と、彩りや味のバリエーションが豊かで、まずこれを食べよう、次はあれを食べよう、と箸が机の上を旅行するようでとても楽しい。おかずをご飯に乗せるもよし。サラダで巻くもよし。色んな組み合わせを試すのも最高である。でもラーメンにはそれができない。初めから終わりまで同じものをズルズルズルズル……とすすり続ける。そんな食事方法に僕は全くワクワクしないのだ。

これだけでも充分ヘイトを買いそうだが、実はこれに輪を掛けてもう一つ大きな理由が僕のラーメン嫌いを強めた。それは「ラーメンを好きになってはいけなかったこと」だ。これはある種のトラウマと言える。

話は高校時代に遡る。当時の僕は反抗期真っ只中。特に父とは何年も話をしておらず、仲が悪かった。そのため、なるべく父を遠ざけようと、彼が好きなものや構成するものを徹底して排除していた。考え方、方言、雰囲気など、いくつかあった中で一際父を象徴したものこそ、ラーメンだった。

以上二つの理由のうち、特に反抗期のラーメン敬遠は大きく、高校時代はとにかくラーメンを避けた

友人から「ラーメン食べに行こうぜ!」と誘われたら「やめとくわ」と断り、「ご飯どこ行く?」と誘われたら「ラーメン以外で」と答えた。時折家で自炊をしなければいけなくなった時でも、ラーメンだけは食べなかった。

嫌よ嫌よも好きのうち、意識しすぎて逆に好きなのでは? という声も聞こえてきそうなほど、当時はとにかくラーメンを遠ざけた。

そんな反抗期も大学生になる頃には終わり、父とも至って普通に会話をするようになった。
それに伴いラーメンに対する拒絶感も消え、手軽に食事を取りたい時のインスタントラーメンや、仲間内でラーメン屋に行くなど、ラーメンと接する機会が増えた。

しかし、それでも美味しいとは思わない。
どんなラーメンを食べても大して差を感じない。「美味しい気がする」「美味しくない気がする」「味濃いかな」「薄いかな」程度の感想しか出てこない。もう一度食べたいと思えるラーメンとも出合ったことはない。

「根本的に自分と合わない」そんな風にも思い、再びラーメンを遠ざけた。

それから数年経った最近、とあるライターのイベントに参加した際、こんな話を聞いた。

「私は昔から言いたいことが言えない性格で、人と口喧嘩ができない人間だった。でもそれは短所ではなく、本当に大切なことを言うために言葉を汚さない努力だったのかもしれない。私は今、言葉で人を照らす仕事をしているが、子どもの頃からの自分の性質が今に導いてくれたのかもしれない」

グッとくる話に、心惹かれた。
続けてこうも話した。

「自分を導いてくれる性質は、きっと皆さんの中にもあるはず。一度、昔からの自分を思い返してみてはどうでしょうか」

なるほど。
もしかすると、僕のラーメン嫌いもそうなのかもしれない。

僕はラーメンを食べないように生きてきた。なるべく……なるべくラーメンを遠ざけてきた。それをポリシーにしていたし、自分らしさだとすら思っていた時期もある。反抗期が終わり、ラーメンを遠ざける理由がなくなった今でもまだラーメンに抵抗感があったり、ラーメンを食べて幸福感や満足感を感じたことが一度もない。

それは単にラーメンが嫌いなのではなく、本当にうまいラーメンに出会い、感動するその瞬間を心待ちにしている表れであり、その時までの準備期間なのかもしれない。

そう思うと出会ってみたいものだ。
人生を変えるような「うまいラーメン」と。

「こんなに美味いのか!」と感動し、
「人生損してたわ!」と嘆き、
「生きててよかった!」と満足感を得られるような、
心を動かされるような「うまいラーメン」に。

きっと本当にうまいラーメンなら「すするだけで面白くない」ではなく、「うますぎてすすりが止まらない」になるんじゃないだろうか。「ワクワクしない」ではなく、「ワクワクするほど美味しいラーメンにまだ出会っていない」だけなのではなかろうか。そもそも本当に美味しいものに、食事方法なんて関係ないのでは? と、今では考えている。

驚くほどうまいラーメン。
心から感動するラーメン。
人生を変えるラーメン。

そんな最高のラーメンと出会える日を、ワクワクしながら待つことにしよう。

※今回の記事は天狼院書店のHPでも掲載していただいています。

http://tenro-in.com/mediagp/170895


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?