MSR Internship アルムナイ Advent Calendar 2020 (8日目)

「Microsoft Research Internship アルムナイ Advent Calendar 2020」8日目の記事です。

はじめに

こんにちは、石渡です。Mantraというスタートアップで、マンガに特化した機械翻訳技術や翻訳支援ツールを作っています。世界中のマンガが、リリースと同時に様々な言語で読めるようになって、すぐに世界中のファンに届く。そんな未来を目指しています!
Mantraを始める前は東大の博士課程で自然言語処理を専攻していて、その間、マイクロソフトリサーチアジア(MSRA)でニューラル機械翻訳の研究をしたり、カーネギーメロン大学で定義文生成の問題に取り組んだりしました。

はじめての海外インターン

2016年、24歳の僕は焦っていました。「世界のどこでも活躍できる、優秀な技術者になりたい。」そうは思うものの、日本の外で働いた経験はないし、ためしに応募したアメリカの大学院は全部落ちる(注:つらい)し、国際会議で会った世界中の優秀な大学院生たちとの差が開く一方だ、という焦燥感が常に心の中にあり、毎日モヤモヤしていました。
そんな折、(MSR公野さんと東大の松井さんの紹介のおかげで)MSRAでの研究インターンの機会を得ます。当時、機械翻訳といえば中国とアメリカの2強時代。(注:主観です。最近は日本もめっちゃ強くて最高ですね!)その中国から最も目立ってトップ会議に機械翻訳の論文を通していたのが北京のMSRAです。ここに行けばきっと成果を出せる、いや絶対出すんや!!!強い決心と共に、北京に向かったことをよく覚えています。

当然すぎる、成功の秘訣

「とにかくACL(言語処理のトップ会議)に論文を通す」、それを滞在期間中の目標に定め、議論、実装、実験の日々。特にインターン最初の2ヶ月は、アイデアを練ってはボツにして、の繰り返しで、なかなか方針が決まらず毎日悩んでいました。ただ、MSRAの研究者たちは毎回トップ会議に論文を通す実力者揃い。2日悩んでメンターに相談して、を繰り返しているうちに、なんとか論文になるアイデアを形にする事ができました。
当時僕がいたチームでは、トップ会議締め切りの1ヶ月前に第一稿を書き上げる事が義務付けられていました。締め切りが近づくと、メンバー全員が一旦他の仕事をストップして、この期日に間に合うよう原稿に集中します。ここで、僕は「安定して成果を出すためには、早めに仕上げる計画性が重要なのか...」という(本来小学生の夏休みで学んでおくべき)教訓を得ました。
余談ですが、この経験以降、僕の人生で締め切りの1ヶ月前にドラフトが出来上がったことはまだありません.........この記事も締め切りの2分前に書き上がりました......

同年代の研究者との出会い

インターン当時を振り返ってみると、僕にとっては研究成果以上に、新しく友達ができたことの喜びの方が大きいです。当時、大学で所属していた研究室に博士課程の同期は一人もおらず、寂しい日々を過ごしていました。ところがMSRAには同年代のインターン生が大勢集まっています。日本からの学生も多くいた(参照:平木くんの記事)し、韓国やインド、台湾など他の国出身の友達もできました。マイクロソフトリサーチ「アジア」というだけあって、本当にアジア中から優秀な大学院生が集まっています。そういう人たちと毎日一緒に、研究の話やしょうもない話をしながらご飯を食べるのが楽しかったです。
同じような経験をしたことのある人は多いと思いますが、日本の話になると、話題の8割はマンガやアニメ、ドラマの内容についてでした。僕はエンタメコンテンツの制作に携わった経験はないのに、中国の友達から「君の名は。」の感想を聞かされたりすると、日本人として、なんだか勝手に誇らしい気持ちになるのでした。

未知のキャリア観

MSRAで会った中国の友人たちもみなインターン生なので、自分たちのキャリアについて話すことも多かったです。あまりに有名な事実ですが、中国ではIT(2016年当時は特にAI)領域で起業に挑戦する人が多いです。
MSRAが位置する北京・中関村はそんな潮流を体現するような場所で、古くからある電気街、小さい会社がギュッと詰まった「創業ストリート」、大小様々なインキュベーション施設、米中の大企業の研究機関、投資機関など、とにかくITやスタートアップに関連する組織が集中しています。
なるほどたしかに、これほどチャンスの多い環境で暮らしていると、「起業してみよう」という若者も増えそうです。実際、僕がMSRAに滞在していたとき、自席の両隣のインターン生は二人とも(!)博士取った後は起業する、と言っていました。「卒業後は研究者とエンジニア、どっちになろうかな〜」とぼんやり考えていた僕にとって、彼らが当たり前のように起業という選択肢を持っていることは驚きでした。

マンガの機械翻訳

時は流れ、2019年。紆余曲折あり、僕も大学院を修了すると同時に起業することになりました。共同創業者は、MSRAのインターン同期です。会社の名前はMantra(マントラ)。その名の通り、マンガの機械翻訳技術を研究開発するスタートアップです。

深層学習に基づく機械翻訳の黎明期に、トップクラスの研究機関でニューラル機械翻訳の研究に取り組めたこと。
中国で会った海外の友人たちが、口々に日本のマンガ・アニメ・ゲームの話をしていたこと。
僕の両隣に座るインターン生が、「卒業後?まずは起業するやろw」と口を揃えて語っていたこと。

後から振り返ってみると、MSRA滞在期間中の経験が、知らず知らずのうちに、僕の価値観や進路にも大きく影響を与えていたような気がします。いつの間にか、「世界のどこでも活躍できる、優秀な技術者になりたい」という気持ちよりも、「エンターテインメントの領域から、言語の壁を無くしたい」という気持ちの方が強くなってしまいました。それは、大学院生の間、国とか文化とか言語とか、そういうものを越えて、「シンプルに、面白いものの話で盛り上がる」ことの楽しさを感じる場面が多かったからかもな〜〜、と思っています。

おわりに

アドベントカレンダーの研圧が強すぎて失明しました。

おまけ

僕が好きなスタートアップの映像作品リストです!(純粋に娯楽として)面白いので、よかったら見てみてください。
- きっと、うまくいく(インド, 2009)
- アメリカン・ドリーム・イン・チャイナ(中国, 2014)
- シリコンバレー(アメリカ, 2014-2019)
- スタートアップ:夢の扉(韓国, 2020)

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