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昔、『宇宙兄弟』を読んでた女が、 今は、『Dr.STONE』を読む話。

「 社内で流行っているから、同僚の女性から『Dr.STONE』を借りたんだけど、面白さが分からなくて困っている。」という相談を、女性の友達から聞きました。ということで、

『Dr.STONE』が楽しめない人のための『Dr.STONE』の楽しみ方の解説です。

素直に『Dr.STONE』が楽しめる方には、相性の悪い話です。ご了承ください〜 🌋

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目次 ➡︎

第一章 マンガの概念が違う!編
・『Dr.STONE』はジャンプ版なろう系
・  〇〇系ってなんですか?
・  なろう系は誰のため?
・  キャラクターとキャラの違い
・「ストーンワールド」ではなく、
   「ストレスフリーワールド」を楽しもう!

第二章 令和のインスタントな科学 編
・  庶民の科学ブームは昔からある
・『宇宙兄弟』とはなんだったのか?
・  東大生YouTuberというアイドル
・  元気先生というアイドル
・  薬物中毒者に科学という名の言いわけを!

第三章 『Dr.STONE』から学ぶ
                究極の現代ストレス配慮漫画  編
・  絶対に悩まない!
・  身体以外は傷つかない!
・  いつものパターンしかしない!
・  絶対にジェンダーを感じさせない!
・  頭脳戦をしても、難しい話にはしない!
・  殺さない! でも、スムーズに切り捨てる!

まとめ
『Dr.STONE』は、やばい!

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第一章  マンガの概念が違う! 編

・ 『Dr.STONE』はジャンプ版なろう系

「なろう系」とは、ラノベ作家の登竜門としても有名な「小説家になろう」という小説投稿サイトからブームの生まれた作品の総称です。「主人公が異世界に転生(または、転移)して、無双し、ハーレムを作る」というストーリーを扱ったものを、総じて「なろう系」と言います。こうした話が、多く作られるようになったのには、コンテンツに対して、読者と作者にかかるストレスが低いことが考えられます。

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・〇〇系ってなんですか?

  漫画やアニメを楽しむ際に、消費者のストレスことは、昔から考えられてきました。アニメ界では、『機動戦士ガンダム』と『新世紀エヴァンゲリオン』が、アニメの歴史を変えたと言われます。TVアニメ版のガンダムは、子ども向けだと思われていたアニメを大人も見れる難しいストーリーに変えました。キャラクターの精神描写が描かれ成長していくというストーリーは、ガンダム以降の流れです。エヴァは、TVアニメにおいて、さらに難解なストーリーと複雑な精神描写をし、後の「セカイ系」の基礎を作ったとされます。セカイ系とは、「少年少女の恋愛のような関係が、なぜか (国家などの中間項を挟まずに、) 世界の破滅へと繋がる」というストーリージャンルのことです。『君の名は』もセカイ系とされます。

  漫画やアニメの「〇〇系」というのは、セカイ系以降の言葉です。〇〇系は、これまでの作品とはジャンルや楽しみ方が全く変わってしまったときに、オタクたちによって名付けられます。つまり、楽しみ方を知らないまま出会ってしまっては、アレルギー反応がでるのは当たり前のことなのです。

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  アレルギー反応を抑えるためにおすすめの方法は、なろう系に至るまでの〇〇系を、大まかにざっくり押さえてしまうことだと思います。
 セカイ系は、「どうして世界が滅亡するのか?」や「どうして2人で解決しようとするのか?」を考えてしまっては、楽しめません。主人公たちの精神的な葛藤と成長、世界が救われるまでのドキドキ感を楽しむ大衆向けハリウッド映画のようなものです。
「日常系」は、メインのストーリーや、話の起承転結がないことが多く、そもそもキャラクターが現実的な社会の問題とは隔てられた社会で生活していて、社会生活のごっこ遊びのようにも見えます。複雑な話や現代的な話を求めては楽しめないので、主人公たちのほのぼのした日常を、ギャグのないギャグ漫画だと思って、癒されながら楽しむことがおすすめです。
「きらら系」は、日常系からさらに登場人物をかわいい女の子だけにしたものです。時に、百合のような要素が含まれることも多く、のんびり、のほほんととした女性キャラクターたちの日常を見守ることが好きな人だけが楽しめます。

  ここまでの流れを見てわかるとおり、〇〇系というのは、主に男性の消費者たちが現代社会でのストレスから逃れ癒しを求めた結果、変化してきました。『Dr.STONE』は、なろう系のフォーマットで作られていますから、たまたま読んでしまって、一体なにが表現したいのかがよく分からなかったというのは、当然の怒りとすら思えます。

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・なろう系は誰のため?

  なろう系が、ストレスの低いコンテンツといえるのは、読者の誰もが知っている話や、先の展開が想像できてしまう話を、とてもスピーディーに描いてくれるからです。
  YouTubeやSNSに代表されるように、映画や小説のような消費に時間のかかるコンテンツではなく、消費時間の短いコンテンツというのが、現在では求められています。日常系は、ストーリーがなく、1話自体も短かったり、短い話が繋ぎ合わされているので、消費時間の短いだったわけです。しかし、それではストーリーが作れないため、ドラゴンクエストのような誰もが知っているゲームの世界観で、初めから修行の必要のない最強の主人公が無双し、毎回、同じパターンを繰り返すというテンプレートが流行したのが、なろう系と言えます。主人公が、元々、現代の日本に住んでいて、転生(または、転移)するのにも、読者が作品の世界観を理解する負担が少ないというメリットがあります。

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  面白いのは、なろう系のストレスの少なさは、実は、読者よりも作者のほうにあるという点です。ラノベというのは、かつて、漫画では出来ないような複雑な表現を小説で実現しようと、流行っていた時期がありました。『デュラララ!!』や『涼宮ハルヒの憂鬱』、西尾維新の〈物語〉シリーズなどです。その後、話の難解さや会話劇の面白さよりも、読了感や疾走感が求められる時代へと移り、タイトルが長い系がラノベの主流へと変わります。
 なろう系というのは、「小説家になろう」というサイト名からも想像できるとおり、本業のある作者が、アマチュアなりに趣味でラノベを書き無料で投稿されることが下敷きになっている文化です。本来、小説を書こうと思えば、綿密なプロットが必要かもしれませんが、なろう系には、異世界のアイデアさえ思いつけば、簡単に書き始められるというメリットがあります。また、現代社会で働く中で辛い思いをしている主人公が、異世界に行ってしまうが、カルチャーギャップに翻弄されることなく、適応し、無双できる話というのは、作者自身も読者と同様にと感情しやすいテーマなのです。
 なろう系の特徴とは、現実世界で生きる自身への言いわけであり、現実世界のやり直しであるとも言えます。

( ちなみに、なろう系の中にも、主人公の性格だけでも、やれやれ系、俺TUEEE系、またオレ何かやっちゃいました?系、があり、近年では、追放系という復讐劇が流行っています。興味があれば、調べてみてください。)

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・ キャラクターとキャラの違い

  キャラクターとキャラの違いというものがあります。ストーリーの中で、キャラクターは人間的に精神面が成長していきますが、キャラは成長しないというものです。
  ガンダムやジブリ、ディズニーに出てくるようなキャラクターは、主人公が様々な経験をすることにより、精神的に成長していき、それ自体がストーリーになります。一方で、キャラとは、初めに作者によって与えられた性格が変わることはありません。お人好しのキャラは、お人好しであることが変わらず、甘え上手なキャラは、甘え上手なことが変わることはありません。人間的な成長を描くことが、ストーリーを描くことではないのです。
『Dr.STONE』は、キャラで構成されているので、そういうものとして見る必要があります。

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・ 「ストーンワールド」ではなく、
   「ストレスフリーワールド」を楽しもう! 

『Dr.STONE』を楽しむポイントは、「なろう系」として理解することと、「キャラ」として理解することの2点が前提になります。舞台が未来の石器時代であることには、ストーリー上の意味以上に、「現代の常識の通用する異世界であること」と、「現代社会人がほとんど出てこないこと」が、構造的には重要になっています。脱ストレスな社会に想いを寄せて、令和のストレスフリーなストーリーを楽しみましょう。

しかし、なぜ、『Dr.STONE』は、女性にも人気があるのでしょうか?
→ 第二章へ

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第二章  令和のインスタントな科学  編

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・ 庶民の科学ブームは昔からある

  科学ブームというのは、昔からあります。科学雑誌ブーム、超能力ブーム、ロケットブーム、ロボットブーム、プラネタリウムブーム、IQクイズブーム、宇宙ブームなどです。そして、近年では、「科学実験ブーム」「東大クイズブーム」があります。どちらも小・中学生への自宅でのスマホ教育の流行りと関係が深いの特徴です。しかし、カルチャーとしては、もう少し深いと思います。ポイントは、「科学が好きな男性」です。彼らを推しとして見る気持ちが分かれば、『Dr.STONE』を見る目も変わるかもしれません。

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・ 『宇宙兄弟』とはなんだったのか?

 『宇宙兄弟』という漫画を覚えていますか? 宇宙飛行士を題材にした作品で、当時、社会人の女性からも人気があり、映画化され、宇宙ブームの火付け役となりました。今の『Dr.STONE』のように、小・中学校の教育にも良いと話題にされていたのも覚えています。
  どちらも、科学をテーマにした漫画で、社会人の女性からの人気もあり、ブームの背景には、現代社会のストレスが投影されたことがあります。しかし、比較すれば、『Dr.STONE』と現代の異質性が見えてくるのです。

『宇宙兄弟』というのは、今から考えると、真っ当に流行った漫画だと思います。青年誌で連載されていたことや、リストラされた31才の主人公がいかにして宇宙飛行士を目指すのかというドキドキ感、兄弟の精神面での人間的な成長が主軸として描かれていたことがポイントです。(もちろん、キャラではなく、キャラクターとしての話作りです。)  また、科学の中でも、特に宇宙という題材が、男女どちらともにフラットに興味が持てたことや、リーマンショック後の日本という環境も大きかったと思います。
  一方、『Dr.STONE』というのは、そもそも少年ジャンプの中でも、かなり低年齢から楽しめる漫画です。『宇宙兄弟』を小学生が読むのは難しいと思いますが、『Dr.STONE』であれば読むことが可能です。また、科学実験という題材は、どちらかと言えば、男性的なイメージで、宇宙のようにスムーズに女性人気を獲得できなさそうに思います。なにより、一番大きな違いは、『Dr.STONE』では、キャラの精神面での人間的な成長が描かれないところです。

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  これは、いろいろな解釈が可能で、『宇宙兄弟』がブームだった2012年当時、社会不安こそあったが、人間関係による不安やストレスは、あまり問題視されていなかったのかもしれません。対して、『Dr.STONE』では、コミュニケーションによる社会的なストレスを究極的に排除して描かれています。
  また、『宇宙兄弟』が個人の能力によるキャリアアップや、エリートな職業について描けたことも、現在では、あまり好まれない題材と言えます。社会の能力主義による格差や貧困、学生時代に東日本大地震を経験した世代の価値観の変化、努力してキャリアアップをする若者の減少、総じて、個人が長期的な目標を持ちづらい社会からくるものです。
『宇宙兄弟』にとっての宇宙飛行士とは、社会で生きる全員にとっての憧れの職業でした。一方、Dr.STONE』における宇宙飛行士というのは、千空たちのいる未来のために犠牲になって、希望を残してくれた旧時代の可哀想な人達という位置づけにされています。ロマンチックな話なんですが、エリート集団ゆえに、社会が失われた後であっても、世界に対して思い付くかぎりの社会貢献を、行い続けなければならなかった悲劇のキャラです。もちろん、息子である千空のためという名目はあるのですが、彼らは宇宙飛行士としての「労働」に作中で唯一従事しています。未来では、高校生が主軸のストーリーに移行するため、千空たちが何かをしていても、それはあくまで「サバイバル」としてであり、「労働」ではないところがポイントです。

Dr.STONE』で千空たちが作りなおす世界とは、個人の能力に見合った専門職自然と確立され、個人が長期的な夢や目標を持たなくてよくコミュニケーションにも悩まないミニマルな社会実現と言えます。

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・ 東大生YouTuberというアイドル

  QuizKnock (クイズノック)というYouTuberは、知っていますか?  何となく、テレビのクイズ番組を見ていたら、唐突にでてくる知らない東大生、彼らがだいたい所属しているのが、QuizKnock というYouTubeで早押しクイズをする集団です。大学や高校で早押しクイズに取り組む、クイズ研究会という部活やサークルが、昔からあります。彼らがYouTubeチャンネルを作ったところ、いつのまにかお茶の間の人気者になったわけです。その人気を侮るなかれ、彼ら QuizKnock が登場する漫画が、雑誌『なかよし』で女子小学生向けに現在も連載されています。
  では、QuizKnockのYouTubeのコメント欄を見たことはありますか?

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  QuizKnockのコメント欄を見ると気が付くのは、女性ファンが多く、約10人いるメンバーのそれぞれに推しのような文化があり、アイドル的な人気があるのです。ちなみに、「イケメンだから」ではありません。毎日見ているうちに、アイドルのように応援したくなるのです。そもそも、どうして、早押しクイズの動画なんて毎日見てしまうのでしょうか。
  科学ブームと言っても、現代では難しいコンテンツや、消費する時間の長いコンテンツは流行りません。その点、早押しクイズをYouTubeでやるというのは、かなり相性が良いのです。一時期、謎解きブームみたいなものがありましたが、リアル脱出ゲームのような体験型のコンテンツにしても、自分で問題を解かないといけません。問題を解くこと自体を楽しむわけですから、当たり前です。しかし、YouTubeで早押しクイズを見るだけというのは、かなり気楽ですし、動画の展開自体が早いのが心地よさに繋がります。なによりも、視聴者は、一切、問題を解かなくても、解けない問題への罪悪感を抱かずに、知的コンテンツを消費した風の感覚だけが残るのが気持ちよいのです。
  リアルで嫁にはなりたくないが、「夢や特定の趣味に対して一直線で夢中な男性」というのは、ちょうどYouTubeで観てるぐらいの距離感だと、好きになってしまうというのは、よく起きていることだと思います。例えば、声優の花江夏樹さんは、毎晩、叫びながら友達とゲームをしていますが、冷静に考えるとそんな人、旦那にはしたくないのわけですが、YouTubeで見ていると、「ピュアな男は、たまらん」となるわけです。
  まあ、それは、個人の好みとしても、性的な意識や演出がない男性というのは、女性にとって、ストレスなく認識できる男性像といえます。また、それが、一般的な仕事(YouTuberという仕事中なのですが)からは縁遠い特定の趣味に熱中している男性であれば、限りなくストレスフリーで認識できる男性像です。
  本来はモテ属性にない趣味に熱中系YouTuberこそ、令和のストレスフリー男性アイドルになれるという現実がそこにあります。

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・ 元気先生というアイドル

  同様の事例をもう一つ見ておきましょう。市岡元気先生という実験系YouTuberです。日々、科学実験をわかりやすくYouTubeで紹介するため、彼こそリアルDr.STONE』の千空かもしれません。元気先生には、小学生に人気という特徴があります。科学実験というのは、教育コンテンツになりやすいので、親が意識的に子どもに見せやすいYouTuberと言えるでしょう。
  また、元気先生もQuizKnockと同様のアイドル的視線というのが、コメント欄では見受けられます。元気先生と同じくらいの人気があるのが、助手の伊藤くんです。彼は、顔出しやプロフィールを公表していない学生なのですが、伊藤くんの助手としての成長を日々見守る親のような視点のファンも多く存在しています。

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  元気先生というのは、言わば、仮面ライダーに若手イケメン俳優が抜擢されることで、子ども以上に親がハマり、消費が促されるという構造に似ています。子どもに流行るコンテンツというのは、得てして、親に流行るコンテンツです。親が子どもに見せたいと思う将来像や職業像の投影されたロールモデルのような商品であるパターンと、そもそも親にしかターゲットが絞られていないパターンがあります。ポケモンやクレヨンしんちゃんやドラえもんなどの夏休み映画が、実は親のためのストーリーラインしか用意されていないように、実験系YouTuberやDr.STONE』というコンテンツがあるのです。
  もちろん、Dr.STONE』は、日本語がおかしかったり、成長するストーリーがなかったりするので、国語の勉強や精神的な成長には繋がらないという指摘はあります。

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・  薬物中毒者に
    科学という名の言いわけを!

  スマホ依存症というのは、薬物依存症よりも、恐ろしいという研究が、近年よく話される話題としてあります。ポケットにスマホが入っているという認識があるだけで、集中力の低下が見られるそうです。前提として、働く世代にとって長期的な夢や目標が持ちづらいという社会問題は、背景として存在します。ただ、それ以上に、消費時間の短いコンテンツというのが圧倒的に強いのです。スマホでYouTubeを見ている時や、なろう系漫画を読んでいる時であっても、どこか頭の良さそうなことをしているというのは、消費のきっかけになりやすいのかもしれません。

第三章 『Dr.STONE』から学ぶ
        究極の現代ストレス配慮漫画  編

お待たせしました! Dr.STONE』のプロットのスゴさを考えていきましょう!

・ 絶対に悩まない!

 Dr.STONE』の登場人物には、全員が共通して、絶対に悩まないという特徴があります。少し考えてみてほしいのですが、主人公のみが3700年後に飛ばされて、同級生のヒロインを復活させる(正確には、ヒロインとは言いづらいのですが、) 設定だと、どんなストーリーになりそうですか?
   
 あんな何も無い世界に、自分の意思ではなく、強制的に復活させられて、世界には同級生の男2人しかいないわけです。普通のストーリーであれば、ヒロインが一時的に傷付いて、「どうして私を復活させたの?」と主人公にセリフを吐き捨て、でも、結局、主人公の男らしさに助けられ、自分も強く生きていこうと決断するみたいなこと、やりそうだと思いませんか? 実際のDr.STONE』の話では、ヒロインは一切、悩むことがありません。

 それどころか、その後、何人復活させても、誰一人として、「どうして私を復活させたの?」なんて、弱いセリフは吐かないんです。登場キャラが、誰一人として悩むことなく、起承転結のあるストーリーを作り続けるというのは、かなり意識的でないとできませんし、そもそもそんなプロットは、難しいものだと思います。というのも、決断するという行為は、悩みや葛藤があるからこそできる行為なので、ストーリー漫画において、キャラが何かを決断するというのが、描けません。いかにも漫画風に、「決断した」らしく描かれていますが、彼らがいつもやっているのは、実は「決定」です。キャラによる「決定」のみの話を面白く描いているのが、Dr.STONE』とも言えます。

Dr.STONE』の楽しみ方の一つ目は、「絶対に悩まない彼らを発見し続ける」です。どんなに悩みそうな展開であっても、彼らキャラは、悩んだり、落ち込んだりすることはありません。また、ちょっと悩みそうになって、読者に不安を与えてからの、「やっぱり全然悩まない!」という復帰の早さも注目ポイントです。


・ 身体以外は傷つかない!

  キャラが悩まないのであれば、Dr.STONE』におけるストーリーの軸になるべきトラブルというのは、どのように発生しているのでしょうか?  多くの場合は、身体のトラブルを科学の力で解決するというものです。病気ケガ視力、(まだ伏線しかないですが老化も) などのトラブルが、作中で描かれていきます。少年漫画というのは、加速度的に話のレベルが大きくなっていくのが、王道です。つまり、千空たちキャラが、抱えなければならない身体トラブルのレベルも上がっていくということに、気が付くとなかなか興味深いと思います。大きな構造的には、Dr.STONE』の世界での「死の定義」というのが、変わっていくことに注目です。

Dr.STONE』は、キャラが深く悩まないのに加えて、なにかとオーバーに表現しがちなので、科学のための原材料が見つからない等の小さいトラブルに目が行きがちです。しかし、ほとんど全ての行動決定が「千空たちの生命の危機」に基づいたストーリーが展開されていきます。

 2つ目の楽しみ方、「身体のトラブルが、どんどんレベルを上げて、起こり続ける」でした。

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・ いつものパターンしかしない!

Dr.STONE』は、少年ジャンプ版のなろう系漫画です。つまり、意図的にいつものパターンというのが、繰り返し表現されていきます。科学で解決したら、その次も科学で解決です。これに関しては、つまらないと思ってしまっては、楽しみようがありません。こういうものだと割り切るか、深く考えずに、読み飛ばす感覚で読んでいくのが正しいです。読了までの疾走感を楽しみましょう。

 3つ目の楽しみ方、「意識的に読み飛ばす」でした。

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・ 絶対にジェンダーを感じさせない!

 Dr.STONE』のジェンダーを感じさせない配慮というのは、なかなか群を抜いています。例えば、男女比がわりと平等な集団にもかかわらず、誰一人として、裸を恥ずかしがらないというのが、前提とされています。裸をなるのを恥ずかしがらなければ、裸を見るのも恥ずかしがる描写が意図的に控えられています。ジャンプの少年漫画なので、そういう描写をしそうなんですが、キャラの表現としてはしないように考慮されています。一方で、露出度の高い衣装や、コスプレ人気が高くなりそうな要素というのは詰め込まれています。これは、YouTubeのQuizKnockや元気先生の話と構造が同じです。コンテンツの中の人物は決して性的な振る舞いをしないことで、逆説的に、消費者は性的な視線を向けやすいというポイントで構成されています。

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  また、Dr.STONE』では、ストーリー上の重要なキーマンをヒロインにさせないという構造を取っています。ヒロインが空気というのは、少年漫画では昔からある方法です。ドラゴンボールではチチもブルマも登場が少なくなっていきますし、ブリーチでもルキアは出てきますが、織姫はあまり出てきません。( ワンピースは、基本的にゲストヒロイン方式です。) ヒロアカでは、連れ去られるのも、悔し涙を見せるのも、お茶子ではなく、かっちゃんです。ただ、Dr.STONE』ほど、ヒロインが特別扱いされないのは、少し珍しいかなと思います。


  そもそも、『Dr.STONE』のヒロインって、誰か分かりましたか? 杠は大樹と両思いなので、千空のヒロインとは言いづらいです。ルリもクロムと繋がりそうなので、千空のヒロインとは言いづらいでしょう。では、コハクなのでしょうか? コハクにしても、千空にしても、恋愛には疎いです。どちらも作中で最も、恋愛という概念を持っているのかが怪しい2人と言えます。ドラゴンボールやワンピースでは、いくら悟空やルフィが非常識で恋愛に鈍感であっても、ヒロインだけは常識人という特徴がありました。しかし、Dr.STONE』というのは、千空と同じくらいコハクも鈍感という前代未聞のヒロイン像なのです。


  しかし、なろう系というのは、構造的にヒロインがいないと書けない話と言えます。主人公が異世界で無双することを描きつづける話なので、主人公の強さを読者にわかりやすいよう客観視するキャラが必要なのです。なおかつ、主人公の活躍によってハーレムを築いていくのですが、その際も、コミュニケーションのストレスを読者に抱かせてはいけません。つまり、どれだけパーティの規模が大きくなってたしても、メインストーリー自体は、常に少人数のキャラのみで、展開させていく必要があります。それが、なろう系におけるヒロインの役割なのです。たいていは、正妻とあだ名の付けられるヒロインがいて、主人公に翻弄されたり、逆に翻弄したりを繰り返します。
  結論を言いましょう。ヒロアカのヒロインが構造的にかっちゃんであるように、Dr.STONE』のヒロインは、ゲンなのです。


 『Dr.STONE』の世界観は、「千空」「ゲン」「その他の仲間」三者で完結しています。あとは、「敵」と「旧時代に生きた宇宙飛行士たち」がいるのみで、構造的な役割を持ったキャラというのは、それ以上は存在しません。コハクにしても、杠にしても、大樹にしも、千空が協力を仰ぐ「その他の仲間」に収まっているのであり、ゲンのみが千空と同じレベルで物語に関わっているキャラなのです。
  千空も、ゲンも、男性的に見える要素が極力排除されていて、一方で、コハクは、ヒロインになってしまわないよう、逆に男性的な調整されているのが、興味深いポイントです。

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Dr.STONE』のジェンダー論でいうと、さらにもう一つ特徴的なことがあります。自身のジェンダーを魅力的に扱う女性を、敵キャラであったり、露悪的に描いていることです。誘惑を試みることや、恋愛に翻弄されやすいことについて、ギャグにするか、ネガティブよりのニュアンスで扱っていることは、注目しても面白いかもしれません。

 4つ目の楽しみ方、「徹底的にジェンダーを感じさせない工夫を楽しむ」でした。

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・ 頭脳戦をしても、難しい話にはしない!

 Dr.STONE』の見どころを一般的に考えるなら、敵との頭脳戦心理戦と言えます。男性的なキャラでない千空にとって、科学以外で唯一戦える部分が頭脳戦なのです。ただこの頭脳戦、決して、難しくはならないよう工夫されています。「論理的に考えたらこうなる」みたいな簡単な推理の場合や、アイデア勝負のようなことも多いのが特徴です。『名探偵コナン』や『憂国のモリアーティ』のような複雑な作品が好きな方にとっては、毛色の違う作品かもしれません。

 5つ目の楽しみ方、「決して、複雑にはならない頭脳戦を演出から楽しむ」でした。


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・ 殺さない!
   でも、スムーズに切り捨てる!   

 Dr.STONE』は、キャラで描かれていると解説しました。言わば、作者が最初に与えた職業や属性どおりにキャラたちが動いていくのを見る漫画です。これは、かなり徹底されていて、キャラの心情の変化を決して描かないことは当たり前として、そもそもキャラの掘り下げをほとんどしません。読者の読むストレスを減らすためです。

 しかし、そうすると、新キャラを次々に出していくことでしかストーリーが作れないという問題が起きます。また同時に、キャラ数が増えてしまうことで、コミュニケーションのストレスと読みづらさのストレスを、結果的に、読者に与えかねず、本末転倒になってしまうのです。

 それを避けるため、流行したなろう系ジャンルでは、初めからクセの強いキャラを配置していたり、一時的に味方になるキャラをすこし嫌味な性格にしていたり、味方の新キャラが殺されてしまうことで、主人公がハーレムを広げていきながらも、キャラ数の増えない調整がされてきました。

Dr.STONE』も、キャラ数を減らす工夫がされていますが、その方法はかなり大胆と言えます。

Dr.STONE』では、科学技術の進歩のために、次々と職人的な素質を持った新キャラたちが必要になります。そして、味方になるキャラには嫌味なキャラというのは、ほとんどいません。敵キャラと休戦することはあっても、あくまで敵キャラであることは変わらず、敵キャラの心情変化もほとんど起こらないように調整されているからです。
 つまり、Dr.STONE』とは、次々と増えていってしまう純粋で親切な良い人たちと、千空とゲンは、どうやってスムーズに距離を取りながら、話を進めるかという問題を常に抱えているのです。

  千空とゲンによる良い人たちとの距離のとり方は様々ですが、まとめて置き去りにしたり、牢屋施設の奥深くにいたり、石化させてしまったりと、よく見ると扱いに容赦がなかったりするのが、プロットとしては面白いポイントです。

 6つ目の楽しみ方、「良い人キャラの流れるようにスムーズな退場方法に注目してみる」でした。


まとめ

『Dr.STONE』は、やばい!

  一見、雑な話のようで、実はすごい難しいことを戦略的にとっているというのが、Dr.STONE』のすごいところだと思います。しかし、純粋に面白いかと言われれば、「人を選ぶ作品」としか答えられないのも、この漫画の興味深いところです。一体、教育的なのか、全く教育的でないのかは、もはや、判断がつきません。
 ジャンプ版なろう漫画Dr.STONE』、皆さんも試してみてください。

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