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実ある名 〜計画の再考〜 @無倦会

ひと月に1度、播州の小京都、龍野に古典を学ぶ勉強会に足を運んでいます。倦むことなかれ。との論語の一文をとった無倦会と言う名の会で、30代から60代の主に経営者が集い、古典に触れて人としての道、あり方を学び深めています。

言志四録に学ぶ

論語の素読から始まり、松下幸之助翁の「道を開く」から一節を朗読し、西郷南洲が生涯右に置いた言葉をまとめた『人間学言志録』の一節について各々が感じたこと、身近な事例に置き換えて気づいたことなどを発表し、様々な解釈を理解することで短い漢文に込められた先達の思いに思いを馳せます。

私が熱心に古典に学ぶのは、悠久の時を経て受け継がれてきたものには本質があると信じているから。
時流や流行に沿ったやり方ではなく、不易な人としてのあり方や自然の摂理がそこに抽出されていると考えています。
世の中が大きく変わり、国が栄え、滅ぶのを繰り返している中でも変わらないものだと大事に守られてきた概念や思想、在り方がそこにあります。
そもそも、産業革命以降、近代の科学や技術の進歩発展は著しいですが、人の営みは根本的に10,000年前から変わっていないと言われます。長い時を超えてきたものにこそ原点があると思うのです。

今回のテーマは「実ある名」

人間学言志録より

古典に示される最先端のビジネス概念

この漢文を素直に読み下すと、
・求めずに来るものは実
・利の貪らず至るのは義
・名利は厭うべきにあらず
・求める、貪るは病と為すなり
となります。

目先の利益を追い求めると信用や信頼を失い、事業は長続きしないのは、マーケティングの世界でもずっと変わらずに言われ続けてきたこと。
在り方から目的を明確にして、なんのために?との問いに向き合い、自利に塗れる事なく、世の為人の為になる事業こそが持続可能性を担保するのは最近、ソーシャルビジネスの高まりで大きく認知が広がったCSV経営の基本。
また、「貪る」という言葉に込められているのは、私利私欲にまみれ、欲求を満たすことに利益を費やす所業を指しています。
数千年の時を経ても変わらないどころか、現代の最先端のビジネスモデルの在り様が言志四録に書かれていたということになります。

この戒めを現代に生きる私たちの行動に置き換えると、病と謗られる「求める」意識が作るのが計画となります。
無計画では事業が成り立たないし、KPIを設定して進捗管理を怠れば、目標は達成できない。これは今の経営者の共通の意識ではないでしょうか。利益を上げるには不可欠だと。

ゐの劇場

利益計画を手放す

名実ともに、との言い回しは今でもよく使われますが、名のある実と言うタイトルが私たちに問いかけているのは、「実」とは何か?だと私は感じました。

計画が利益を求める方法論に陥った視点となればそれは病であり、本来目指すべきは、求めるのではなく人が勝手に称賛してくれるような名声を伴う実践である。求めずにやってくるものは実と書かれてあるように、実(本質的な人の幸せに寄与する取り組みへの結実)に対して真摯に向き合う、誠実に行動することができたなら、自然と千客万来するようになり、細かい計画など本来なくても良いのかもしれません。

実は、計画と言う概念自体、そんなに古くから親しまれてきたものではなく、事業計画が立てられるようになったのは、ほんのこの100年ほどのことです。

資本主義社会において金銭的なリターンが価値の全てになった時から綿密で事業計画が必要となり、世界中に広まりました。株式会社は株主の投資に対する配当の最大化が事業の目的になりました。
しかし、世界を席巻した資本主義・自由主義は現在行き詰まりを見せており、利益至上主義の弊害がもたらした問題や課題は、格差と分断を巻き散らし、世界中で戦争を巻き起こし、この日本も解決困難な複雑な社会課題が溢れるようになってしまっています。これは、利を求めて貪る計画を立てまくったからに他なりません。

利ではなく実、名は後からついてくる

言志録には利益を享受するのは悪とは書いていません。
まずいのは利を貪る稼ぎ方、使い方であり、「実」と言う目的を持つのが重要だと教えています。正しい使い方をするのであれば、それは利ではなく義を求める行為となり、実になるとの教えです。

計画を立案することが決して悪いことではなく、それは文明の利器の1つだと私も思っています。しかし、義を忘れ、実に向かわない計画は世の中を悪くするばかりだと、この短い漢文に込められていると私は受け取りました。

折しも年末も迫ってきて、来年の事業計画を考えるタイミングでこのような深い示唆をいただけたことを本当に嬉しく思います。
来年の計画は明確に義をどうやって果たすか、人の幸せや喜び、地域社会の課題解決に焦点を当てた計画をスタッフと共有したいと思います。

時代の大転換期を迎えた中、今まで通りの方法論は全く通用しない大きな環境の変化が押し寄せてきています。それにどの様に向き合うのか、その計画こそ、時代の荒波を乗り越えて上がれてきた固定の中に書かされている本質に基づいて考えてみるべきだと思うのです。

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日本の未来を憂いて、短期的。表面的には全く利益を生まない教育事業に踏み込んでいます。
先義後利の精神で未来に向かうことで、志が自然と持続可能な事業へと転換すると信じています。繋がってください。

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