「おとあそび」から、言葉になる前の表現と響き合いを引き出す──写真で知ろう!小規模保育【遊び】
乳幼児保育の価値を掘り下げ、保育士自身が認識していく機会の一つとして、9年前から取り組む「おとあそび」のプログラム。月毎に変化していく子どもの姿から、言葉が生まれようとする時期の子どもの育ち、一人ひとりの表現を大切にしていく重要さを学んできました。
<おひさま保育室/東京都東久留米市>
■ ねらいと配慮
2012年、家庭福祉員制度(東京都)のもと定員10名でスタートしたおひさま保育室。2015年には12名の小規模保育園として認可を受けましたが、当時はまだ乳幼児に特化した保育がほとんど広がっておらず、その価値を自分たちで確認していく必要がありました。
低年齢の子どもたちが、小規模保育園という場で非認知能力をいかに育んでいるか。それを認識できる場になればと、音楽療法士さんと始めたのが「おとあそび」のプログラムです。障害のある子どもたちへのプログラムを応用して、言葉が生まれようとする時期の0〜2歳児に音を楽しんでもらい、音を通してモノや他者と応答し合える時間をつくってきました。
とはいえ初めての試みだったので、試行錯誤の時間も長くありました。同じ椅子を横に並べみんなで一斉に活動したこともありましたが、今は子ども一人ひとりが自由に自分の表現を行えることを大事にしています。子どもたちが見たくなる、触りたくなる、音を聴いてうれしくなるような、操作が簡単な楽器を用いて意欲を引き出すようにしています。
■ 振り返り
「おとあそび」は月1回の活動です。それを0歳からコツコツと積み重ねるなかで、日々の保育だけでは見えづらいが確かに育っている変化を確認できるのを感じています。
月齢10カ月の時は、演奏する音楽療法士や他の園児の活動を遠くから見ていた子どもが、次第に「自分もやりたい」と関わるようになり、2歳児にもなると、自分なりの表現をしようと体を動かし応答していく。以前に経験したことが記憶の中にとどまり、自ら積極的に活動に参加したり、その準備をしたりする姿が見られるようになります。
また、活動の積み重ねは、子どもだけでなく保育士にも大きな変化をもたらしています。初期の頃は、サポートしようと保育士が子どもの後ろから「ほら、前見て!」「何してるんだろうね」などと声をかけることがあったのですが、それが子どもの活動の妨げになるとわかり、一歩引いて待つように心がけてきました。
すると、子どもが今何に興味を持っているのか、その瞬間何を求めているのかが見えてくるようになります。仮に「ドアの陰から眺めているだけ」に見えても、その子の視線や体の動きを捉えていくことで、確かにその子の中に音が生まれ、表現が育っているのを感じられるようになってきました。
「おとあそび」は子どもとの活動時間だけのプログラムではなく、音楽療法士さんが事前に送ってくれる計画書を元にした「準備会」と、活動後すぐに写真を交えてつくってくれる報告資料を元にした、当日の「振り返り会」がセットになっています。子どもの姿や保育士の関わりをみんなで共有する時間を持つことで、日常でも「子どもたちはこういうものを秘めているかも」と想像しやすくなり、言えない言葉を聞き取ろうとしたり、こちらも語りかけたりと、保育が循環していくのを感じます。
また、当初は音楽療法士さんに計画を一任していたのですが、次第に保育士側からも「園庭で音を自由に作るお祭りをしたい」「水で音を作ったり聞いたりするあそびをしては?」などのアイデアが出るようになり、カリキュラムを共につくるように変化してきてきました。日々丁寧に試行を積み重ねているなかで、「おとあそび」の実践を取り入れることが、保育士にとっての大切な自己評価の機会となっています。
■ 「小規模保育」としての視点
本園では、規模が小さい園としての特性を生かし、学年でクラスを区切ることをせず、それぞれの月齢・年齢に応じて個別の保育をしています。食事も午睡も、一人ひとりのタイミングで始まります。
そうした個々の育ちに合わせることのできる環境の中で、「おとあそび」は全員で同じものに集中し、お互いに関わり合える貴重な時間になっています。それも、一斉に何かを強制するのではなく、一人ずつ異なる興味のまま、異なる距離感で活動に入ることができます。
自由が守られているからこそ、他の子どもの異なる関わり方も受け止められたり、互いの姿を確認しながら譲り合ったりする姿を見ることができる。異年齢で小規模という環境は、個の表現を支えながら響き合いを促していく、重要な要素になっていると感じています。