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答えのない数学【津田塾大学 原隆先生 ロングインタビュー】

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2024年7月某日,津田塾大学小平キャンパスを訪れた.歴史ある建物,芝生の刈り込まれた西洋庭園,豊かな緑.美しいキャンパスである.ここに立つと,筆者はケネディ大統領の1963年の…
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答えのない数学#7 【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

ライフワークとしての数学 編集者:次にお伺いするのは出来合いの質問ではないというか,ちょっと答えに迷ってしまう質問なのかもしれないんですけれど,よろしいですか. 原先生:はい. 編集者:数学を続ける上で,あるいは,数学者としてなにか一つのテーマを考え続けたりですとか追っていく中で,「続ける」ことってすごく重要だと思うんです.その一方,休みたくなるときとか,もうこれはやめたいという風に思うときもあったりするのでしょうか. 原先生:そうですねぇ(しばし考える). 編集者:

答えのない数学#6 【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

全く違った対象を結びつける原先生:普段からいろんな数学にアンテナを張り巡らせるようにはしていて――.うん,そうですね.これさえやればという風にはやっぱり思ってないというのはありますね.やっぱり境界領域っていうんですかね,分野の境界じゃないですけど,そういうところの話が結構好きだったというのはあるんです.岩澤理論なんてまさに($${p}$$進)$${\bm{L}}$$関数の特殊値という解析的なものと・・・・ 編集者:代数的なものをつなぐ? 原先生:そう,代数的な対象であるセ

答えのない数学#5 【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

いろいろな同期の存在編集者:高校のときにガロア理論の存在を知って,大学で本格的にやってみようと思われたとのことですが,その中で例えば書籍ですとか,直接面識があるかどうかは別として数学者の先生ですとか,たぶんその当時は論文はまだ手に取られることはなかったかもしれないですけど,なにかそういうものとの出会いやきっかけのようなものはありましたか. 原先生:あんまり1~2年生に関しては,そんなに.うーん,どうだろうな. 編集者:これは私の勝手なイメージなんですけれど,原先生はすごく

答えのない数学#4 【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

「大根を正宗で切る」編集者:突然こんなことを言うと変かもしれませんが,原先生は私なんかが気軽にお話してよい方ではないと,私は自分自身を戒めておりまして. 原先生:いやいやいや,そんなことないですよ(笑).なにをおっしゃいますか(爆笑). 編集者:そのことは最近,はっと気づいたんですけれど,本の宣伝として小社のX(旧ツイッター)のアカウントで『手を動かしてまなぶ 群論』のことをポストさせていただいたんですね.そうしましたら,東京理科大学の加塩朋和先生(東京理科大学創域理工学

答えのない数学#3【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

数学で赤点を取ったことも原先生:実は,中高のときは数学はそんなに得意ではなくて,赤点を取ったこともあったりで.数学自体は好きではあったんですけどね.秋山仁先生(東京理科大学栄誉教授,2016年度日本数学会出版賞受賞)の――. 編集者:有名な数学者の? 原先生:ええ.最近もちょっと出ておられますけど,昔は結構,NHKとかでいろいろ算数とか数学の番組をやっておられて,あれ,割と好きだったんですよ.そういうところから数学も好きというのはあったのかもしれないんですけど,別に高校の

答えのない数学#2【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

読書遍歴と文体を巡って編集者:話は少し変わりますが,編集を担当させていただいている間,原先生の書かれた文章には機会があればなるべく目を通すようにしていました.『数学セミナー』さんで書かれたご原稿にしても,『手を動かしてまなぶ 群論』のご原稿にしても,原先生の個性が十二分に出ているなと.数学の本というのは個性を消すといいますか,”定義 - 定理 - 証明“ のスタイルの中でなるべく客観的に書くという感じかなと思っていたんですが,今回は原先生ならではといえる解説の仕方ですとか,文

答えのない数学#1 【津田塾大学 学芸学部 数学科 原隆先生 ロングインタビュー】

2024年7月某日,津田塾大学小平キャンパスを訪れた.歴史ある建物,芝生の刈り込まれた西洋庭園,豊かな緑.美しいキャンパスである.ここに立つと,筆者はケネディ大統領の1963年の演説を思い出す.今日は数学者・原隆先生にインタビューする日である. 『手を動かしてまなぶ 群論』誕生秘話編集者:この度は『手を動かしてまなぶ 群論』を出版させていただく運びとなり,大変ありがとうございました.まずはじめに,どうしてこの本のご執筆をお引き受けくださったのか,原稿を依頼された当時の心境な