なぜ人は詐欺にあう? その2

私は残念ながら結婚詐欺の刑事弁護をしたことがないので、これはあくまで人から聞いた話です。

警察官が結婚詐欺で被害にあった人たちに事実を説明して事情を聞こうとしても、多くの被害者が「騙されたこと」を認めようとしないことがあるそうです。

同じ手口で騙された被害者が複数人存在し、数百万円のお金を実際に渡し、告げられた職場も住所もデタラメだということを説明しても、「彼は他の人たちには悪いことをしたのかもしれませんが、私だけは本気で愛してくれていたのです。(「身の危険を顧みず私を助けてくれた」等、本気を裏付ける事実)ですから、私は本気で愛した人にお金を貸してあげただけなのです」と、多くの被害者が口を揃えて言うそうです。

私たち人間は、認知不協和を起こすと、それを解消するために自分の決断を正当化する情報を無意識に求めてしまうものなのです。

「カモにされてお金を騙し取られた」という極めて不快な事実を突きつけられて認知不協和に陥った被害者は、彼が本気で自分を愛してくれたことを裏付ける事実を無意識にかき集め、自分だけは彼に本気で愛されていたと思い込みんでしまうのです。

この現象は誰にでも生じることです。

ホンダ車とトヨタ車をどちらにしようか迷った末にホンダ車を買った人は、「車は機能性よりスポーティさだ」「ホンダはジェット機も開発した」などという情報を無意識的に集めては安心しますし、地方公務員とベンチャー起業家のどちらかを迷った挙句地方公務員と結婚した人は、ベンチャーが上場する確率が僅か数パーセントしかないという情報を聞いて安心します。

東京の住みたい街ランキングで、恵比寿が吉祥寺を抜いたときに一番喜んだのは、恵比寿にマンションを買ったばかりの人でしょう。逆に、吉祥寺にマンションを買ったばかりの人は無意識的にランキング情報を遠ざけるようにしているはずです。

以前、木嶋佳苗という中年の太った女性にお金を貢いだ男性が複数人いたという事件がありましたよね。

あのケースでも、お金を貢いだ男性が冷静になって「どうしてあんな女に大金を渡したのだろう?」と思っても、「いやいや彼女はとてもよく気がつく女性だ」「緊張する美人より安らげる女性が一番だ」「老後の面倒も見てくれそうな信頼できる女性だ」というように、大金を渡した自分の行動を正当化する情報を無意識的に集めてはより一層彼女を好きになり、結果としてのめり込んでいったのではないかと私は考えています。

つまり、被害者が最初の決断を実行すれば、「慣性の法則」のように後はどんどん詐欺師にとって都合のいい心理状態になってしまうのです。ですから、最初に大サービスをして(たとえ大金でなくとも)お金を引き出せるかどうかが詐欺師にとって勝負の分かれ目となるのでしょう。もちろん、前回ご説明したように詐欺師は「数打って」いますので、お金を出してくれた人だけをその後の相手とすればいいのです。

すでに実行してしまった決断を正当化することを私たちは日常的に行っています。買った株の損切りができないのも、「その株が上がる」と決断して実行した自分の間違いを認めたくないからでしょう。上がるのを待って自分の決断が正しかったことを確認したいという心理が強く働くのです。

よく、「好きだからSEXしたのか?」それとも「SEXしたから好きになったのか?」などという話題が上がることがあります。それに対して、私はどちらも「アリ」だと答えるようにしています。もちろん人によって異なりますが、相手とSEXをしたという自己の決断を正当化するために無意識的に相手のプラス面の情報を集め、その結果好きになることだってあるのでしょう。木嶋佳苗事件の被害者たちのように。

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