見出し画像

四十代からの路地裏生活 chapter10

TRENDとSCENE。そして、星野源。時々、桑田佳祐。

 『ポップカルチャーは、どこから来て、どこに行くのか?』

 この疑問にぶち当たったのは、深夜三時を過ぎた頃だった。なかなか更新されないYouTube-Radioの収録中。深い時間の雑談は思わぬ方向に舵を切り始めた。『TREND』と『SCENE』このふたつの言葉が表すジャパンカルチャー。それは今だに解けない自己との呪いと、お米に隠されたこの国の構造を浮上させた。

----------------------------------

 ナカヤマは成人を迎えてから『BAR』という場所で生きてきた。足を踏み入れた二十年前、まだ夜の世界は煌びやかで、妖しく、封建的だった。各アルコール飲料には神話的な蘊蓄が、使い古したホーローの鍋のようにこびりつき、カウンターについたタバコの焦げ跡は、ある種の伝説として語り継がれていた。
 新入りの頃、誰よりも早く店に来て、誰よりも遅く帰宅した。〇〇保険や〇〇保障などは当たり前に無い、一般的な社会とは隔離された場所で、ドラッグ的な幻想と(今となれば)有りもしない人間的な優しさのゆりかごで夢を見ていたのだろう。

 売り上げが伸びている店には、お客の他に各メーカーの営業が来る。自社の商品を(あの頃は)経費で飲みながら、社内会議で決めた『TREND』をレジュメと共にプレゼンして帰っていった。
 時には、卸しの酒屋も一緒に来て上下逆転した接待をする。よく飲み、よく食べるものだから、店としてもその日の売り上げが上がるので、多少の騒ぎようでも悪くは言えない。
 ともなれば、頼まれたボジョレーヌーボーや〇〇ハイボール(!?)のキャンペーン(お酒三本注文すれば、一本タダ)のような、明らかに世界の流れに乗れてない『TREND』の手伝いをすることになる。

 そうやって、内容のない空洞化した『TREND』で夜の世界は満たされてしまった。BARの扉の向こうはグロテスクで文化的な色彩は無くなり、資本主義とイデオロギーが蔓延して、ある意味では分かりやい、とりあえずの答えが用意された。

 ナカヤマは店を辞めた。

 もう、夜の闇には切り取られた『SCENE』しかなく、そこにはただただ退屈なワイドショーと怠惰な時間が流れていた。

----------------------------------

 星野源の話をしよう。

 正直、彼にはルサンチマンしかなかった。近年、最もポップカルチャーの舞台で上手く踊っている彼の姿は、分かりやすく、時には嫌らしくさえ映った。彼を取り巻く印象と現象を疎ましく思い、見ないようにしていた。
 『TREND』の波にのまれて、深海へと沈んだ自分にはあまりにも眩しく、その強い光は自身の影を色濃く映した。だからなるべく………その光に当たる面積を小さくするため、角度をもって斜めの世界に立っていた。

 彼の狂気と優しさに気づくのには時間が必要だった。

 空洞化したポップカルチャーと、消費されるポップスター。この構造はこの国そのもの。殺人よりも、自殺の方が多い国。不安を売って、お金を稼ぐ経済。そもそもが閉鎖された島国なんだから、右も左も同じ肌の色、同じ言葉で話すんだから、グローバル化なんて一部の特権でしかない。

 彼は「そんな国なんて捨てちゃえ」と、世界のポップカルチャーとボクらを繋ぐハブの役割を自ら担っているかのよう。それは人生の可能性と世界の広さを実感し賞賛し、自身は24時間365日、そのために魂を削っているのだろう。それはこの国において消費されるポップスターの定め。まるで、スケープゴート………でも彼を踏み台に高く飛べるのは一部の人だけ。
 だから彼は、踊らせる。夢を見させてくれる。それはドラッグに似た幻想。なるべく痛みを感じさせずに、沈みゆく国と一緒にボクらと心中する役も演じている。そうだ。人間なんて平等ではない。でもせめて、その日が来るまでは、一緒に踊ろうって。

----------------------------------

 かつては、桑田佳祐がそうだった。

 茅ヶ崎に住んでると、いやでも感じる。サザン通り、サザンビーチ、サザン神社(もう神)、最近は高級食パン(!?)まで。もう…彼が帰れる故郷はここにはない。ここまで消費され尽くした彼が、『男はつらいよ/おかえり寅さん』のオープニングで歌っていたのを思うと、胸が痛む。

 なんで、一人の人間にいつも背負わせる?

 生け贄を求めているのはボクらでもある。それは祭りと血。バビロンと化した巨大な消費社会。育てられる『SCENE』は無く、有るのは配給される『TREND』だけ。理解できない事柄は、もうすでに好奇心の対象では無く、恐怖と迫害の対象へ。

 河合隼雄はこう記した。

 「この国は真ん中に行けば行くほど、密度が薄くなる。」

 それに対して、ボクの友人はこう答える。

 「食卓の中心(主食)にお米をすえるんだもの。ただ白い、味や香りに主張がないご飯に焼肉をバウンドさせて味をつけるでしょ。だから、この国はフィジカル的に空洞なんだよ。」

 そう、だから、呪いは解けない。自己の空洞を埋めるために、もしくは色(味)をつけるため、意味をつけるため、誰かの借りもので満たされた空洞にアイデンティティなんて無い。

----------------------------------

 ナカヤマは店を始めた。

 それまでの業界との関係性は薄くなった。今では、気の合うメーカーの人間が営業とは名ばかりの世間話をしに来る程度。まあ、売り上げも仕入れも少ないから、営業する意味なんて無いに等しいのだろう。
 もう誰も彼に『TREND』を配給しなくなった。スタンドアローン………焼け野原。地平線の彼方には巨大なバビロンの塔が、そこでは天の裁きを免れるための祭りと生け贄を捧げている。

 もう一度、初めてみようと思う。ナカヤマは荒れた大地に根付いた名も知らない草を見つめて考える。

 『うたみたいだ』

 この『SCENE』は切り取らないで、育てよう。明日晴れたら種を蒔こう。時間はかかるだろうけど、いつかは、実りの季節がやって来るだろう。未来は分からない。だからこそ人生の可能性に参加できる『ポップカルチャー』と、それを賛歌する『ポップスター』が、この焼け野原に恵みの雨をもたらしてくれる。

----------------------------------

 この文章を書くにあたり、素朴な疑問点が一つ。

 ムーブメント(Movement)?

 それとも、ブーム(Boom)?

 ………まあ、どちらでもいいけど w

画像1


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
5
見っかんないBAR蜜柑の店主。ときどき歌ったり、日々の礫をぽちぽちと。Twitter : 原田晶平(BAR蜜柑の店主) Facebook : BAR蜜柑 Instagram : barmikan

こちらでもピックアップされています

四十歳からの路地裏生活
四十歳からの路地裏生活
  • 10本

歌詞の断片だったり、日々のつぶてをぼちぼちと

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。