2017年R&Bアルバム・ベスト10

2017年に何をもってどんな音楽がR&Bなのか?というのも難しい問いですが、ここではぼくの15年来のR&Bリスナーとしての耳から判断した「R&Bファンなら楽しめるであろうヴォーカル・アルバム」をメインストリームからアンビエント系から南部ソウルからジャズまでごちゃ混ぜにして10枚選んでみました。ランキングではなく順不同ですが、どのアルバムも2017年を代表し得る作品だと信じています。bmrがレビューも年間ベストもやらなくなり、ミュージックマガジンのR&B部門が微妙だったりするので、これを機にR&Bリスナーの方々から賛でも否でも反応いただけたらいいなと思っています。


Dwight Trible "Inspirations"

カマシ・ワシントン『The Epic』に参加していたLAのベテランシンガー、ドワイト・トリブルがUKの若手トランペッター、マシュー・ハルソールと組んでリリースしたカバー曲集。R&Bシーンでは久しく聴かなくなった力強いヴォーカルを洗練された生演奏が引き立てている。同じく『The Epic』で印象的な歌声を聴かせていた女性シンガー、パトリス・クインはカマシ・バンドのトロンボーン奏者ライアン・ポーターのソロ作『Spangle-Lang Lane』でほぼ全曲に渡って参加しており、そちらも聴き逃せない。



Boyz II Men "Under The Streetlight"

2017年最大のサプライズ。ボーイズIIメンは往年のソウル/コーラスグループをカバーすることで輝きを取り戻した。暖かいコーラスに馴染みのヒット曲で、歌うことの喜びに溢れたようなアルバム。3曲で参加しているブライアン・マクナイトが今年リリースした新作『Genesis』も、インディに活動の場を移した過去10年でベストの出来。


PJ Morton "Gambo"

クリスティアン・スコットやトロンボーン・ショーティ、プリザヴェーションホール・ジャズバンドとニューオーリンズ勢の充実が目立った2017年。前作『New Orleans』に続きし新作を『Gumbo』(ルイジアナを代表するスープ)と名付けたPJモートンは外せない。メッセージ性も備えたジャンルごった煮の音楽性を極上のポップネスで料理した充実作。



Don Bryant "Don't Give Up On Love"

1970年代にハイ・レコードのソングライターとして活躍したメンフィスのベテランシンガーによる48年ぶりのセカンドアルバム。シンディ・ローパー『Memphis Blues』も作ったメンフィスのソウルジャズ・バンド、The Bo-Keysが演奏を担当している。ひと昔前なら単なる南部ソウルだったかも知れないが、今ならヴィンテージ・トラブルやアラバマ・シェイクスの流れでも楽しめるはずだ。


Lizz Wright "Grace" 

南部で生まれ育った女性シンガーの通算6作目は、シンプルな生演奏をバックにレイ・チャールズやニーナ・シモンからボブ・ディランまでをカバーをしている。これまではアルバムの焦点が合わないこともしばしばだったが、このアルバムはブレイクスルー。否が応でもゴスペルを感じさせる深い歌声がアメリカの恩寵を美しく飾り立てる。ジャンルの枠を超えて聴かれるべきヴォーカル・アルバムだ。



V.A. "Hidden Figures The Album"

『ワイルドスピード』シリーズのサントラは流行のヒップホップを捉えた優秀なコンピレーションだが、R&Bでは『Hidden Figures』が女性シンガーたちのショウケースだ。アリシア・キーズ、メアリーJブライジ、レイラ・ハサウェイ、ジャネル・モネイにキム・バレルと錚々たるメンバーを、ゴスペルをテーマにファレル・ウィリアムズのベースレスでスカスカしたパーカッシヴなプロダクションが引き立てる。昨年の『ムーンライト』に続き映画女優として重要な役を演じ、サントラではアップの"Jalapeno"とスロウの"Isn't This The World"の2曲を見事に歌い切ったジャネル・モネいが素晴らしい。


Kehlani "SweetSexySavage"

1月にデビュー作『SweetSexySavage』をリリースし、4月には『ワイルドスピード Ice Break』サントラに参加、夏にはサマソニで来日と、2017年前半はケラーニの印象がとにかく強かった。全身タトゥーにタフな生まれ育ちと話題にこと欠かないが、ライヴでも歌える確かな歌唱力にキャッチーな曲を書けるソングライティング能力を備えた実力派。メインストリームでの今後の活躍が一番楽しみなシンガーだ。


Amber Mark "3:33 am"

配信時代になると何をもって「新人」とするかも難しいが、2017年の「新人 賞」はこのアンバー・マークだ。ニューヨークを拠点に活動する23歳。親の都合か世界各地で暮らした経験があるようで、生まれ育ったベルリンではハウスやテクノ、10代を過ごしたインド〜ネパールではチベット仏教のマントラからも影響を受けたと語っている。それでいて初めて行ったライブはマイケル・ジャクソンのHIStoryツアー。少しかすれた歌声も特徴的で、アンビエント以降のサウンドを自身のエキゾチックな感覚でオリジナルなものに作り上げるセンスは抜群だ。



Kelela "Take Me Apart"

昨年からクラムス・カジノにダニー・ブラウン、ソランジュ、ゴリラズと立て続けに客演をこなして注目を集めたエチオピア系アメリカ人のデビュー作は、イギリスのエレクトロニク系レーベルWarpから。ジャムシティとアルカによる浮遊感漂うビートはアルバムの雰囲気をアンビエントR&Bとは似て非なるものに仕立て上げている。2017年を代表するアルバム。


SZA "ctrl"

2017年に最も"いま"を感じさせてくれたのは間違いなくSZAだ。アンビエント以降のR&Bを消化しつつ、ケンドリック・ラマーらヒップホップのトップMCとも難なく共演する。かといってアーティスティックな尖った感じはなく、むしろ等身大の感覚を詩的に表現して同世代からの支持を得ている。ジェネイ・アイコ『Trip』とシド『Fin』も外せないが、それでも今年のベストはSZAだろう。


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音楽ライター /『Jazz The New Chapter』シリーズ、『Miles Re:imagined』にて編集補助、翻訳 / 『JTNC4』掲載「ネオソウル×フィラデルフィア特集」担当 / 『100年のジャズを 聴く』(編集とレビュー執筆担当)発売中です!