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『挑戦 常識のブレーキをはずせ』を読んで

iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥先生と、史上最年少四冠となった藤井聡太竜王の対談本『挑戦 常識のブレーキをはずせ』を読みました。

「iPS細胞という新しい技術をいかに患者さんに届けるか」という明確なミッションを持つ山中先生と、「数字とか記録よりも、自分自身としてより強くなりたい」という以前から変わらない目標を掲げる藤井さんの対談には、日本が誇るべき2人の探究者による珠玉の言葉がちりばめられています。

山中先生は「将棋音痴で、全然素人」と言いながらも藤井さんの活躍を称賛し、自分の体験談を基に失敗してもいいから新しいことにどんどんチャレンジして欲しいと語りかけています。動物の研究者たちがiPS細胞の開発を「絶対できない」と自分で勝手にかけていたブレーキが、植物の研究者との意見交換で外れたこと、生物学とはまったく関係のない工学部出身の学生の発想がiPS細胞を作るきっかけになったこと等、様々な興味深い話を聞いた藤井さんは、将棋の世界に置き換えて考え吸収しようとしています。

山中先生が藤井さんにもっとも伝えたかったのは、「やらずに後悔するよりは、やって失敗する方がいいですよ。何も挑戦しないのがいちばんの失敗だと思います」というメッセージかもしれません。「おそらくAIは過去の様々なデータから確率論で決めると思いますが、人間はそうでもない。今までの信念や勘から意思決定があって、それが成功につながったという例は山ほどあります」と人間の可能性を訴えています。将棋の世界でも研究者の世界でもAIと向き合わざるを得ない時代を迎えて、人間が何をすべきかという命題を考えています。

全体を通して感心したのは、若い藤井さんが山中先生の問いかけに対して、自分の考え方を自分の言葉でしっかり答えていることです。「将棋はゲームとしての面白さもありますが、伝統的な日本文化という一面もあるので、そういった魅力を発信していけたらいい」「今のAIは強化学習によって、人間とは違う価値観、感覚が進歩してきたように感じます。~中略~自分としてはAIを活用することで自分の将棋の新しい可能性を感じ、それで自分の棋力をより高めることができると思っています」等、普段から真剣に考えているからこその発言が、棋界の第一人者としての風格を漂わせ始めているように感じます。

この本は、何かに迷っている若い人たちに読んで欲しいと思います。お2人の今後のご活躍を祈念するとともに、応援させていただきたいと思います。

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