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松浦茂之(三重県文化会館)さんより

今小劇場を含む劇場を取り巻く社会環境は、未曾有の危機にあります。未曾有というのは、今目の前の危機と同時に将来展望が描けないという不安があまりにも大きいからです。3密、座席数の削減、そしてそもそもそんな場所に行くべきではないというネガディブな顧客心理・・・数え上げたらキリがありません。同時に新生活様式と言われる他人との接触を極力避ける生き方、なんでもオンラインやバーチャルに寄せていく傾向はどんどん加速しています。

と、ここまで悲観的なことばかりを挙げましたが、それでもなお私はいつの日か劇場文化は以前の形に戻ると信じています。(信じることにしています。)

恋愛、祭り、スポーツなど、生きるためだけの行為や経済活動以外のこれらの活動は、人間の根源的欲求であることは歴史をみても明らかです。‘人はパンのみにて生くるものに非ず’ です。そして恋愛にしろ、祭りにしろ、私たちが愛する舞台芸術にしろ、必ず激しい身体接触が生まれます。人が楽しいと思う、ワクワクする、ドキドキする、そうした根源的欲求には激しい身体接触を伴うと人類は理解すべきだと思います。それら全てが未来永劫オンラインやバーチャルに置き換わるとは心底思えません。新生活様式で永遠に生きていくことは不合理で不可能だと思います。

そう考えればあとは半年後になるのか、2年後になるのか、5年後になるのか、劇場文化を普通に楽しむ明るい未来に向けて、今はとにかく官民総力を挙げて知恵を絞る時期なんだと思います。三重県文化会館もまずは現状のガイドラインでも開催可能な、オンライン配信でもない、無観客でもない‘LIVE’の開催について、日々協議を重ねています。もちろん現状では座席数削減や県外移動ができない制約はありますが、それでもそれらをクリアしてまずは‘LIVE’を開催する、劇場はそもそもお客様に‘LIVE’体験を提供する場所なんだということを世に示したいと考えています。早ければ音楽と演劇で7月にそうした新企画の開催を目指しています。

「公共は採算ラインが緩いからできる」

事実そうなので、この声に抗う根拠は持ち合わせていません。この我慢の時期に座席数削減に民間劇場がどう立ち向かうのか、そして買い控えとなり落ち込むであろうチケット収入をどうカバーするのか、民間劇場の課題は山積みです。がしかし、今が明るい未来に向けての我慢の時期であるとすれば、この期間はなにがなんでも総力戦で乗り越えるしかありません。公的支援、民間支援、企業メセナ、あらゆるファンドを模索することは必須ですし、例えば三重のように地域の官民劇場が連携して事業を企画し、公共劇場が民間劇場やフリーランス事業者に一定の仕事やギャランティを生み出していくようなことも生き残りに有効かもしれません。

そしてそのような資金面の不安に立ち向かいつつも、日々刻々と変わっていくガイドラインに沿いながら、とにかく早く‘LIVE’を再開する道筋をつくる、稽古場利用を開始する、1日でも早く劇場が動いていることを業界一丸となって世に示していければと願います。

死んでいる時間があまりにも長いと、なくていいものと思われる可能性もあります。私には残りの人生で小劇場演劇がない人生は考えられませんし、考えたくもないです。津あけぼの座に至っては私の第三の家でもありますし、テアトル・ド・ベルヴィルは第七劇場がわざわざ東京から津市へ拠点移動して来てくれた大切な場所です。もちろんアゴラ劇場をはじめ全国の小劇場も私にとって大切な場所です。このクラウドファンディングの動きや、ネットワークの今後の活動によって、私のような人が一人でも増えることを切に願っています。

松浦茂之(三重県文化会館 副館長兼事業課長)
・三重県文化会館
https://www.center-mie.or.jp/bunka/


津あけぼの座との共催 M-PAD2019 このしたやみ「洗濯機の悲劇」

M-PAD 2019 このしたやみ『洗濯機の悲劇』@喫茶tayu-tau
主催:特定非営利活動法人パフォーミングアーツネットワークみえ(津あけぼの座)・三重県文化会館)

【表紙写真】
三重県文化会館 produce 第七劇場 日台国際共同プロジェクト『1984』@三重県文化会館小ホール/2017年11月


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