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香りの効果、使えていますか? なりたい気分になれる「香りマインドフルネス」とは

甘い匂いのするクッキーショップの近くだと、人は親切な行動を取る傾向がある──アメリカで行なわれた実験の結果だそうです。

私たちは普段、さまざまな香りを嗅ぎながら生活しています。嫌な香りなら不快になってストレスが溜まりますし、好きな香りなら気分がよくなってリフレッシュできます。

そうした効果には科学的な証拠(エビデンス)があるものも多く、香りを利用して「いま必要な気分になる」こともできます。

例えば、誰かとコミュニケーションするときには穏やかな気分に、計算など論理的に考える必要があるときにはシャープな気分に、根気のいる作業をするときは落ち着いた気分になれれば、目的を達成しやすくなります。

リフレッシュするためにアロマやお香を炊いたり、嫌な匂いを消すために消臭スプレーを使ったりすることはあっても、上記のように進んで望ましい気分になるために香りを使うことはあまりないかもしれません。

しかし、香りには人の気持ちや行動に大きな影響を与える力があります。その力を活用する方法が、「香りマインドフルネス」です。

この香りマインドフルネスを提唱するのが、20年にわたって香りの研究を行なってきた松尾祥子さん。公認心理師でありアロマセラピストでもある松尾さんがその知見をまとめた本が『プロカウンセラーが教える香りで気分を切り替える技術~香りマインドフルネス』(翔泳社)です。

松尾さんによれば、世界的にも香りの研究はまだまだ始まったばかり。自身もメンタルコンディショニングに香りが有効だという仮説を立てて、多くの人の気持ちに寄り添ってこられたとのことです。

本書では松尾さんがこれまで培ってきた臨床経験をもとに、心理や嗅覚の研究成果を活用した香りの活かし方を解説。特に大事なのが、香りを嗅ぐための呼吸法とイメージトレーニング。その方法を、匂いと嗅覚の生理学と合わせてしっかりと説明しています。

また、東京大学の大学院農学生命科学研究科教授で、匂いやフェロモン、動物の嗅覚コミュニケーションの理解や食生活空間における香りの活用について研究されている東原和成さんが、本書の内容を監修してくださっています。

何事も気分に左右されることが多いですから、本書を読んで香りの力を知り、自分にいま必要な気分を自由に引き出せるようになっていただければ幸いです。

なお、今回は本書の「第1章 今すぐはじめる「香り」を使って気分を変える練習」から、香りマインドフルネスの基本を解説したパートを抜粋して紹介します。難しくなく、誰でもすぐに実践できるため、ぜひ試してみてください。

以下、『プロカウンセラーが教える香りで気分を切り替える技術 ~香りマインドフルネス』から「第1章 今すぐはじめる「香り」を使って気分を変える練習」の一部を抜粋します。掲載にあたって内容を編集しています。

「香りを感じる」体験で日常が変わる!

知り合いにグラスに入った液体を渡され、「これ、匂いを嗅いでみて」といわれました。グラスを受け取ったあなたは、どのようにして匂いを嗅ぐでしょう。

よくわからないもの、得体の知れないものに対して、「これはどんな物体だろう、どんな匂いがするのだろうか」と試す時、私たちが自然に行う動作があります。それは「くんくん」と、匂いを嗅ぐ動作

これは「この匂いは何か」「この匂いを発するものは安全なものか」を判断することを目的とした動作です。判断の対象となるのは、物体や環境など、自分という存在の外部にあるものです。つまり、この時の意識や関心は自分以外の「外部」に向けられています。

全く別の匂いの嗅ぎ方

本書では、このように普段している「匂いを嗅ぐ」やり方ではなく、自分の内側に意識を向けるための全く別の匂いの嗅ぎ方、「香りマインドフルネス」を解説します。「香りマインドフルネス」では、自身の周りにある、心地よいと感じる香りを使います。

淹れたてのコーヒー、緑茶や紅茶、ハーブティ、ワイン、植木の葉や新鮮なトマト。私たちが日常的に接する心地よいと感じる香りは、通常、その香りを体内に取り込んでも危険性のないものばかりです。

このため「くんくん」と嗅いで、その物体が何なのかと安全性を確認する必要はありません。意識すると、日常の香りは、常に私たちの心や身体にはたらきかけています。

本書は、「香りマインドフルネス」を、気分を変える技術として紹介し、その理論的な背景を説明しています。「香りマインドフルネス」とは、香りに接する時の呼吸と意識の使い方です。

最初は「何だ、こんなことか」と思うかもしれません。ですが、続けてみると、感覚の違いや生活の変化を実感できると思います。「香りマインドフルネス」を日常に取り入れると、香りによって気分を切り替えたり、気分を利用したりなど、生活での利点を感じられるようになるでしょう。

香りがお腹に入ることをイメージする

「香りマインドフルネス」は心地よいと感じる香りで行います。あなたが心地よいと感じる香りならば、自然の植物でも、食事や飲み物でも、外気でも何でも構いません。鼻呼吸とともにお腹に入る香りに意識を向けましょう。

実際にはお腹に香り(空気)は入りませんが、そのようにイメージします。自然に繰り返される腹式呼吸の中で、静かに鼻呼吸を続けます。

最初は、「口から吐くのか、鼻から吐くのか」「空気が入るのを感じるとは、吸うことと違うのか」「お腹に入る感覚、とはどういうことか」「何も変化など感じられない」などと混乱したり、効果をとらえられなかったりすることもあるでしょう。

やり方に混乱する時は、通常の呼吸で大丈夫です。香りがお腹に入ることをイメージし、香りをお腹で感じることを意識してみてください。

◎香りを感じる導入「香り腹式呼吸」―呼吸に意識を集中する

(1)口から息を吐ききる。

(2)息を全て吐ききったら、唇を閉じる。

(3)香りを鼻先に携える。鼻から少しずつ、空気が入るのを感じる。(空気が身体から抜けたことで、代わりに空気が鼻から入り、受動的に吸う)

(4)鼻から息を吐ききる。代わりに空気が鼻から少しずつ入るのを感じる。

(5)鼻から入る香りが喉を通り、身体の内部を下降し、お腹まで届くのを感じる。

(6)鼻呼吸を続ける。鼻から空気が出るとお腹がへこみ、鼻から空気が入ると香りでお腹が膨らむのを感じる。

◎これが基本「香りマインドフルネス」をはじめよう

(1)「香り腹式呼吸」の1〜6を行う。

(2)腹部に注いでいた意識を、身体全体に広げる。

(3)自分の内側にある身体や心の変化を感じる。

(4)感じていることを考えるのではなく、感じていることをただ受け取る。

「香り腹式呼吸」で腹部へ向けた意識を、身体全体へ広げます。身体に広がる変化を味わいましょう。背中や肩が緩んだり、胸のあたりが開いたりするように感じるかもしれません。

余分な力が抜け、頭がスッキリする方や、自分の中心に力が宿るように感じる方もいます。「疲れているようだ」「頑張りすぎていたかも」などの言葉が浮かぶこともあるでしょう。

「香りマインドフルネス」に慣れてくると、「香り腹式呼吸」を省略しても、意識を内側に集中させることができ、香りによる身体感覚や心の動きが容易に得られるようになります。

「導入」が必要なくなり、「香りマインドフルネス」にすぐに入ることができるようになると、瞬時に、香りで気分を切り替える技術が身につきます。

「香りマインドフルネス」では「好きな香り」を利用する

嫌な匂いを嗅いだ時、身体はストレス反応を示します。これは、敵などの危険と遭遇した時に身体がとる防御反応です。脳の扁桃体や視床下部を介して全身へと情報が伝達され、戦うか逃げるか、すくむ(凍りつく)かの反応を示します。

この状態では、気分を容易に変えることはできません。

このため、「香りマインドフルネス」では、生活上、身近にある匂いのうち、少なくとも嫌だと思わない匂い─できれば「自分が好きと感じる香り」を利用します。まずは、「心地いいな」「好ましいな」と身体が緩み、胸のあたりが開くように感じられ、呼吸が容易に行える香りを探しましょう。

慣れてきたら「必要としている気分を導く香り」を選ぶ

「香りマインドフルネス」に慣れ、気分の変化が得られるようになったら、好きな香りの中でも、「あなたがいま必要としている気分」が感じられるような香りを選びます。

「あなたがいま必要とする気分」とは、周囲の人とコミュニケーションをする時に保ちたい穏やかな気分や、論理性が求められる時に必要なシャープな気分、根気がいる作業に適した落ち着いた気分など、いまの状況に対してあなたが必要だと思う気分です。

香りによってもたらされる記憶や想起されるイメージは、あなたにもたらされる気分の質に影響します。詳細については、第3章で「匂いサイン」として説明しますが、この匂いサインにより、あなたが「いま必要としている気分」を導くことが容易になります。

こうなると、良い香りで良い気分に切り替えるだけでなく、香りによってもたらされる、多様な気分を利用する生活が可能になります。しかし、最初は香りの使い分けは困難に思うかもしれません。そこで、まずは、好きな香りで、心地よい気分を促し、生活の変化を実感することからはじめましょう。

◎瞬間で整える「香りマインドフルネス1回呼吸法」

所要時間 10秒から45秒程度

(1)導入「香り腹式呼吸」を行う。

(2)「香りマインドフルネス」で鼻呼吸を1回行う。

(3)内側の変化を感じる。

「香りマインドフルネス1回呼吸」は、導入の「香り腹式呼吸」からはじめても、1分弱。口から息を素早く吐いて、導入を省略すれば10秒です。

短時間であっても、骨格筋の緩みや呼吸の変化が感じられ、「香りマインドフルネス」による身体の変化が気分の変化を促し、心と身体が相乗的に作用します。効果が感じられないという方は、「香り腹式呼吸」を3回繰り返すことからはじめましょう。

日常の中のほんのひととき、身近な香りでそっと心を整える習慣を身につけましょう。

◎変化を感じやすい「香りマインドフルネス3回呼吸法」

所要時間 45秒から1分半

(1)導入「香り腹式呼吸」を行う。

(2)「香りマインドフルネス」で鼻呼吸を3回行う。

(3)内側の変化を感じる。

この方法は、初心者の人でも変化を感じられやすい方法です。身体の変化や呼吸の深まりを自分自身が体験するだけでなく、人が外から見ていても確認できる程、心身に変化が現れる人も出てきます。基本となる、継続しやすい方法です。

まずは、導入に香りをお腹で感じる「香り腹式呼吸」を3回繰り返し、続いて、「香りマインドフルネス」を3回行います。所要時間は、「香り腹式呼吸」を入れて1分半程、導入を省略し、「香りマインドフルネス」だけならば45秒程です。

多忙を極めていても、意識的に安らぎをつくり出せるということに気づくでしょう。

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