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親の遺産がFXで消えた……大人になってから困らないために、発達が気になる子どもに教えてあげたいこと

親は子どもの成長の細かな点まで気になるもの。近年、メディアで「発達障害」が多く取り上げられていることもあり、子どもの言動にちょっとした違和感をおぼえたり、周りの子と比べて発育が遅く感じたりすると、「もしかして発達障害?」という考えがよぎるかもしれません。

実際にそう診断される子がいる一方で、診断基準には満たないグレーゾーンの子もおり、発達障害の線引きは難しいところです。ですが、子どもの成長の手助けは、診断の有無に関係なく行なうことができます。

また、問題を先送りにしたり、誤った方法を教えてしまったりすると、子どもが大人になったときに別の大きな問題に発展する可能性もあります。子どもの成長や発達に不安を感じたとき、親としては何をしてあげればいいのでしょうか。

そこで参考にしていただきたいのが、翔泳社から発売中の『誤学習・未学習を防ぐ!発達の気になる子の「できた!」が増えるトレーニング』です。

本書は発達障害グレーゾーンと思われる子どもが大人になってから困らないために、小さいうちから学んでおきたいことを網羅的に紹介しています。

著者の橋本美恵さんはこれまで療育の現場で多くの子どもたちと接してこられ、生活しやすくなるための学びについて多くの知見をお持ちです。

また、もう1人の著者である鹿野佐代子さんは30年以上も成人の障害者支援に携わってこられました。鹿野さんは困難を抱える大人と向き合うとき、幼少期に遡って経験させてあげたいと思うことがたくさんあると書かれています。

幼少期の経験や学習は、成長してからも大きな影響を持つといいます。だからこそ、いまご自身の子どもの発達が気になる方に読んでいただきたい1冊です。

今回は本書から、実際に著者のもとに寄せられた相談を紹介します。1つ目は親の遺産をFXで使い切ってしまった男性の事例、2つ目はゴミ屋敷となった自宅を片付けられない男性の事例です。

いずれも、子どもの頃に必要な学習機会に恵まれず、大人になってから困った状態に陥ってしまった方のエピソード。学び直しによって軌道修正は可能とのことですが、できればそうなることを事前に避けたいところ。

子どもが誤学習や未学習によって将来問題を抱えないために、親として何ができるのかを知っていただければ幸いです。

以下、『誤学習・未学習を防ぐ!発達の気になる子の「できた!」が増えるトレーニング』の「1章 「誤学習」「未学習」が大人になってから困る原因に?」の一部を抜粋します。掲載にあたって編集しています。

【事例】 親が遺してくれた財産がFXで消えた!

僕は46歳の男性です。以前は仕事をしていましたが、人間関係がうまくいかず、32歳の時に辞めました。それからは自宅に引きこもっています。

2か月前に父親が亡くなったのですが、僕のために残してくれた財産が3000万円あるということでした。母は80歳を過ぎているし、僕は仕事を辞めてから預金の残高がかなり少なくなっていたので、なんだかんだ手続きをして、父の遺産は僕の口座に振り込まれました。

母は僕が小学生の時から、手持ちのお金が少なくなると財布に足してくれたので、今回もそうしてくれたのだと思います。

ある時、インターネットで「FXが儲かる」っていう動画を観たので、試しに20万円やってみました。すると、簡単にお金が増えたので、これは儲かると思って金額を上げていきました。

でも、損をすることも多く、気がついたら父の遺産の3000万円をすべてFX投資でなくしてしまいました。

母は「これからの生活をどうするの……」と泣きましたが、泣きたいのは僕のほうです。僕もそろそろ働かないといけないと思いましたが、どうすればいいのかわからなくて、やはり動けませんでした。

先日、母がどこかの相談センターに行ったみたいで、僕の生活の相談や働く支援をしてくれると言いました。自分一人で考えなくてもいいと思ったら、少し気が楽になりました。

自分で判断する経験で柔軟な考え方が育つ

この男性は幼少期、人見知りが激しく、おとなしい性格だったそうです。親にとっては聞き分けのよい子で、お小遣いもあ自分で判断する経験で柔軟な考え方が育つまり使わず、必要な時に必要なぶんだけお金を渡してきました。

困ったことがあっても自分からは援助を求めず、ほとんどはお母さんが手助けしてくれていたので、自分で判断しなくても生活に困らなかったのでしょう。

しかし、父親の相続財産をすべてなくしてしまった今、万が一、お母さんがいなくなってしまったら、彼一人で生きていくことは困難だと思います。

ただし、今回の失敗をきっかけに、お母さんが「自分がいなくなった後」に思い至り、福祉機関に相談されたことは一つの前進でした。

〈やっておきたかったこと〉

このような事態になる前に、仕事を辞めた時点でハローワークに行き、障害のある人の職業相談や職業訓練を受けることができます。より早期に再就職できたかもしれませんし、相談や訓練で外出することで、完全に引きこもるのを避けることができたかもしれません。

また、働いていない時期は、家の手伝いなど何らかの役割を担うことです。「自分のことは自分でする」が少しでも身につくと、将来への備えになります。

「すべてをつぎ込んでしまう」という背景には、「○か、×か」という極端な思考が子ども時代から続いていたことも考えられます。例えば、周囲の大人が「できる」「できない」という評価を求めると、子どもの判断基準も
狭くなります。「だんだん〜になる」「少しずつ〜していく」など積み重ねによって段階的に状況が変化していくことの経験とそれらを学ぶ必要があったのでしょう。

〈今できること〉

仕事を辞めてから12年のブランクがあることを考えると、すぐに再就職を目指すよりも、就労支援制度を利用して、事業所に毎日通うことからトレーニングをしたり、体力づくりをするとよいでしょう。支援を受けながら「できること」を増やしてほしいと思います。

もし、彼がこのまま何の支援も受けることをせず、生活困窮に陥ってしまった場合、要件を満たしていれば、生活困窮者自立支援制度で自立相談、就労相談、住居確保給付金、家計相談など解決に向けた支援を受けられます。しかし、そうなる前に、一歩踏み出してほしいのです。

【事例】 ゴミ屋敷になったのはカレンダーが難しいから?

私は相談支援センターの職員です。うちのセンターに登録して、サークル活動などを利用されている30代の男性がいます。

ある日、男性が住むアパートの大家さんから、「おたくを利用している○○さんの家からゴミが溢れて困っている。そちらでなんとかしてもらえないか?」とセンターに相談がありました。

驚いて男性の家に行くと、部屋の中はゴミだらけ。事前に訪問時間を伝えていたので、男性はなんとか玄関だけでもきれいにしようとしたそうです。

また、部屋はゴミだらけですが、分別はきちんとしてありました。「こんなにきちんと分別できているなら、回収日に出しましょう」と言うと、男性からは意外な答えが返ってきました。

以前、回収日だと思った日にゴミを出したら、近所の人に「今日は燃えないゴミじゃない!」と注意され、ゴミを出すのが怖くなったそうです。

実は、男性はカレンダーの読み方がわからなかったのです。カレンダーの日付と曜日は毎月同じではないので、今月の第1木曜日は7日だけど、来月の第1木曜日は4日という具合に変わります。また、週の始まりが日曜日のものと月曜日のものがあります。

親が生きていた時は、「今日は空き缶の回収日だよ」と教えてくれましたが、今は指示してくれる人はいません。

「また注意されたらどうしよう」と怯えた結果、いつ出せばよいのかわからないゴミが部屋を占領してしまったのです。

一連の行動を「実体験」で学ぶことの重要性

〈やっておきたかったこと〉

おそらく彼の親は、彼がきちんと暮らせるように、ゴミを出すことや分別することを教えていたのでしょう。ただ、彼に「カレンダーの読み取り方を教わったり、わからないことは人に聞くという経験」があれば、「今日は○○ゴミの日だよ」という声掛けがなくなっても、誰かに聞くことができたと思います。

ゴミの日をその都度知らせるのではなく、カレンダーを一緒に確認してゴミを捨てに行くなど、小さい時からカレンダーの見方や使い方を実体験で学べていれば違っていたかもしれません。そうした意味では、学びのチャンスや教えてもらう機会が少なかったとも考えられます。

もちろん、教えられてすぐに理解できないこともありますが、ゴミの分別やリサイクルなどを根気強く教えた結果、空き缶や紙パックの処理を率先してやるようになった子どももいます。何度も繰り返すうちに「自分でできること」が少しずつ増えていきます。

〈今できること〉

この男性の場合は、まずゴミで一杯の部屋をどうにかする必要があったので、民間の片付けサービスを利用しました。費用はかかりますが、プロの手により、ゴミだらけだった部屋は見違えるほどきれいになりました。ゴミの量がそこまで多くなければ、本人や支援者で片付けてもよいでしょう。

ただ、中には「お金を使いたくない」「この(ゴミに囲まれた)生活を変えたくない」という人もいます。孤独な暮らしで心を閉ざしている場合もあるので、サークル活動への参加などを促しながら、本人を孤立させない支援も必要です。

部屋を片付けた後、支援センターの職員は、市役所からもらったゴミ出しカレンダーに、ゴミを種類別に撮影した写真を貼って、分別とスケジュールを視覚化しました。そして、本人には日時も表示されるデジタル時計を購入してもらい、時計の日付とカレンダーの日付を一致させながら行動することをアドバイスしました。



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