15年の試行錯誤を経てたどり着いた、究極のシンプルーー『High-Impact Tools for Teams』著者・訳者トーク[1/3]
2022年9月14日刊行『High-Impact Tools for Teams――プロジェクト管理と心理的安全性を同時に実現する5つのツール』は、ベストセラー『ビジネスモデル・ジェネレーション』の著者陣が送る最新作。
邦訳刊行を前に、著者のステファノ・マストロジャコモさんがジュネーブから、訳者の見形プララットかおりさんがロンドンから、オンライントークに参加してくれました!
チームを率いるリーダー、管理職、人事担当者は必読の本書。本を読むだけでは見えてこない、制作秘話を存分に語ってもらいました。
編集担当(以下、編):本書は、心理的安全性を確保しつつ、最適なチーム環境でプロジェクトを円滑に進めるツールを紹介し、解説しています。著者として最も大変だった部分はどこでしょうか?
ステファノ・マストロジャコモ(以下、S):ひと言で言うと、「十分なシンプルさ」を実現すること。それが一番難しかったですね。
この本を書くのに2年かかったんですが、本に掲載されているツールを作るのには15年もかかっているんです。
この本ができあがるまでの道のりを振り返ると、まさにこんな感じ。
本書の中心となるツールである「チーム・アライメント・マップ(TAM)」は、4つの欄に分かれています。「共同目標」「共同コミットメント」「共同リソース」「共同リスク」の4つです。
この 4つの要素にたどり着くために検討した要素は、200を超えます。核心に迫るために、しぼり込んで、しぼり込んで、しぼり込んでいったわけです。
「チーム・コントラクト」も似たような感じです。最初は、11の欄に分かれていたんです。名前も、「The Team Engagement Map」でした。探求に探求を重ねて、シンプルな「円と四角」にたどり着いた。それだけで5年かかりました。
「ファクト・ファインダー」も同じ。これは、良い質問をするためのツールで、良い質問というのは相手との認識ギャップを埋めるものなんですが、背景にあるのが、「神経言語プログラミング(Neuro-Linguistic Programming: NLP)」という理論です。
「NLP questions」で検索するとわかると思うけど、何百という質問が出てくる。それをしぼり込んでいったわけです。そして、4つの座標に分けて、真ん中に”レンズ”を思わせる二重円を配置する。ここまでたどり着くのが大変でした。
要するに、大変だったのは、安定して使えるツールを生み出すこと。簡単に理解できて、すぐに活用できるシンプルさにたどり着くのが、最も努力を必要としたことですね。
見形プララットかおり(以下、K):5年、15年って想像できないですね……。でも、長年の思考と実験の結果としてのシンプルさだというのは、訳していて伝わってきました。おかげで訳すのが楽だった気がします。すべてのエッセンスが明確だったから。
S:伝わった? それはうれしいな。
デザイン思考のプロセスにのっとっていたんですが、初期のプロトタイプは理解してもらえなかったり、途中でわからなくなったり……。たくさんの頭痛の種とたくさんのイテレーションを経て、今の形になりました。
実はみんな、対面のコラボが恋しい
編:ツールに書き込んだら、みんなが見えるように壁に貼っておくんですか?
S:覚えているかどうかわからないけど、世界でパンデミックみたいなものが起きてね……。
一同:(笑)
S:前は壁に貼っていたけれど、コロナ以降発見したのは、これらのツールはオンラインでも視覚的にうまくいくこと。今は、昔では想像もできなかったすばらしいツールがあって、MiroやMURALといったデジタルホワイトボードがあります。
こういったボードがオンライン上の“ホーム”となり、メンバーが一緒に考えることができます。単に一緒にドキュメントをつくるとか、保存するとか、個々でつくった部分を共有するとか、そういうことではなく、一緒に問題を解決することができる。
ただ、私たちは紙へのノスタルジーを持っているので、紙に回帰しつつもあります。今ではデジタル化に逆行する反応すらありますね。同じ部屋に集まって、付箋を使ったり、紙を使ったりしたいと。
編:そういうのがみんな恋しいんですね。
S:対面でやるときはコンピュータ禁止で、紙を壁に貼ってやります。そのほうが楽しいし、誰もこっそりメールをチェックしたりできないしね。
”スイスナイフ”のようなツールを
編:ツールを試してみる際は、実際のビジネス現場で実験したんですよね?
S:最初の頃の実験は、自分のチームでやっていましたよ。
というのは、私はずっと大学で教えたり研究したりする一方で、金融関係やラグジュアリーブランドなどの企業で、デジタルプロジェクトをリードしてきたんです。スマホ向けアプリやウェブサイトをつくったりするプロジェクトです。
その際、プロジェクトマネジメントの典型的なメソッドを使っていました。でも、メソッド自体はすばらしいんだけれど、それを補完するツールが必要だとわかってきたんです。
優れたメソッドはどれも、みんながうまくコミュニケーションをとり、良好な環境が築かれていることを前提としている。でもその前提をどう実現するかを教えてくれない。だから、既存のメソッドを補完するスイスナイフのようなツールを作ろうと考えたんです。
編:スイスナイフ!
S:そう。ささやかだけれど、コアの部分に関わる、多機能なツールです。
それで自分のチームで実験しはじめたんですが、最初のうちはひどかった(笑)。でも時がたつにつれ、どんどんチーム環境が良くなっていったんですね。そしてあるとき、自分のプロジェクトが、よそのプロジェクトよりうまくいっていると実感できるところまで達した。
言われてみれば当たり前だけれど、チームメンバーが互いに理解し合っていて、お互いの関わり合いをめぐる決まりごとを明確にすると、すべてのメンバーが本領を発揮して貢献できる環境が生まれる。それまでは、メンバーは貢献しようとしていたけれど、理解されていなかったとか、何かを恐れていたとか、いいアイデアがポンポンやり取りされる状況がなくて。
私たちには本来、ものすごい創造性と才能と、互いにコラボレーションしたいという意欲が内側にあるんです。それを自然に持っているのに、それが表出することを阻む障害に日々直面してしまう。では、その障害を取り除くにはどうすればいいか。
ちなみに、イタリアから戻ったばかりなんだけれど、夏にはイタリア人は海に行きたがるでしょ(笑)。
K:そんなイメージありますね(笑)。
S:砂浜を見ていると、初対面の子供たちが、集まって砂の城を作っている。見ていてびっくりしました。でも、それは自然に持っている才能なんです。では、それを仕事の現場でどう取り戻すか。自然に持っている創造性、能力、スキルにふたをする障害をどう取り除くか。
というのも、project(プロジェクト)というのはprojection(予想)であり、その定義上、イノベーションの道のりというのは、誰もたどったことのない道なんです。つまり、詳しい専門家などいない。だからできることと言えば、いいチームを集めて、やっていくうちに学んでいってくれることを信頼するだけ。そのためには、内なる才能を解き放たなければいけない。それこそが、本書の狙いなんです。
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