超売れっ子イラストレーターとのコラボの舞台裏――『High-Impact Tools for Teams』著者・訳者トーク(2/3)
2022年9月14日刊行『High-Impact Tools for Teams――プロジェクト管理と心理的安全性を同時に実現する5つのツール』は、ベストセラー『ビジネスモデル・ジェネレーション』の著者陣が送る最新作。
著者のステファノ・マストロジャコモさんと、訳者の見形プララットかおりさんのオンライントークの続きをお届けします。
人気イラストレーターとの”イテレーション”、そして本書を訳す際の苦労などをうかがいました!
編集担当(以下、編):ビジュアルを重視したこの本で、ひときわ目を引くのがBlexbolexさんのイラストです。日本でも広告などの仕事をされている方ですね。
ステファノ・マストロジャコモ(以下、S):そう、最優秀絵本賞なども受賞している方です。彼が今回イラストを描いてくれることになって、ものすごく光栄でした。ファンだったから。
イラスト部分は5カ月かかったんですが、コロナ禍でつくっていったんですよね。これが、セッション中の僕らです。
僕はスイス、アラン(本書のクリエイティブリーダー、アラン・スミス)はカナダのトロント、Blexはベルリンで。イラストをつくり込むのにみんなで悩んでいるところです。感情が伝わるでしょ?
編:ものすごい“現場”感がありますね(笑)。
S:Blexは、僕らが伝えようとしていることを一生懸命理解しようとしていた。「でもでも、説明がよくわからない、イラストで何を伝えたいの?」と。
当初から、2種類のイラストを入れたいねという話をしていたんです。一方は、ダイナミックなキャラクターが出てくるパンチの効いたイラスト。これはセベリン・アスースが担当してくれました。ファッション業界でとても有名な、パリのイラストレーターです。
それでもう一方は、随所に映画のような体験を提供しようと思ったんです。本の途中で、読者がひと息つけるように。芸術性があって、詩的で、それでいて笑えるイラスト。それができる人って多くはなく、Blexbolexにたどり着いたわけです。
もう100回以上見ているけど、いまだに子供のように、細部に見入ってしまうんですよ。「ここにこんなのを入れたんだ!」とか。「このディテールすごい!」とか。
編:イラストのシチュエーションは、著者側から指定したんですか?
S:まずは自分で手描きしたスケッチを見せました。僕が描いた絵だから、子供レベルですよ。それから、僕がつくったのはセリフ部分。たとえば、「あの新入りが何でも問題を解決してくれるって」というセリフ。
それで、新人がスーパーマンみたいに登場する状況をスケッチして渡したんです。そしたらBlexbolexが、「それはあんまりいいメタファーではないね」と。それでイテレーションを重ねていって、頭が大きすぎてドアから入れない新人のすばらしいイラストを彼は描いてくれた。
編:編集者として、非常に興味深いですね。
S:なかには、10~15回のイテレーションを重ねたイラストもあります。でも最終的にすばらしい仕上がりになったと思います。
編:とても異なる強いキャラクターのイラストレーター2人の作品が共存しているのがすごいですね。
S:確かにとても異なるスタイルだけれど、その違いがほしいと最初から考えていたんです。でも、カラーパレットをあらかじめ決めておくなど、いくつかの決まりごとはありました。
見形プララットかおり(以下、K):セリフのウィットを日本語にするのは少し難しかったかもしれないですね。笑えないといけないし、話し言葉でないといけないし、誰にでも通じないといけないし。
S:ユーモア伝わったかな?
編:伝わっていると思いますよ!
S:誰にでも伝わる、児童書のような本にしたかったので、それはうれしいですね。
日本人にとって重要なことが書かれている
編:かおりさん、本書を翻訳してみてどうでしたか?
K:最初にこの本を受け取ったとき、初めての書籍翻訳でワクワクしていたんですが、「大変、300ページ以上ある!」と思ったら、実際のところ、訳す部分がそんなに多くない。3分の2がビジュアルで、訳すのは3分の1くらいかなと。ビジュアルが重要だというのが明らかだったので、そこにどう訳文を当てはめていくか。それが興味深い作業でしたね。
S:日本語に訳すのが難しいコンセプトはありましたか?
K:メインのチーム・アライメント・マップはとてもシンプルで、訳すのは難しくなかったです。わかりやすく説明されていたし、とても考え抜かれたツールだったので。簡潔に、的確に、そしてレイアウトにしっかりはまることが重要でした。
そういう意味では、「アライメント」という言葉自体がちょっと難しかったかもしれません。アライメントにはいろんな要素があって、日本語でそのまま置き換えられる言葉がない。方向性を統一するとか、足並みをそろえるとか、認識のずれをなくすとか。アライメントというカタカナ語も使えなくはないけれど、それを繰り返しすぎると、読者を遠ざけてしまうかなと。なので、カタカナの「アライメント」と、訳語を組み合わせて使いました。うまくいったといいんですけどね。
編:そんな試行錯誤があったとはわからないほど自然でしたよ!
K:もう1つ思ったのは、この本は日本人にとって重要だなということ。どんな状況であれ、声を上げて意見を言うのはとても難しいことです。黙っていれば何も責任をとらなくていいから、そのほうが安全。でもそれでは良いコラボレーションが生まれない。そんなときに使えるツールを提供してくれるのが本書です。
この本によると2つの社会的欲求があって、「立ち入られたくない」という欲求、そして「認められたい」「褒められたい」という欲求がある。日本人は後者のほうがどちらかというと苦手で、あまりおおっぴらに感謝したり褒めたりしないですよね。
S:なかなか声を上げられないとか、相手を褒めないとか、どの国でもある問題だから安心して!
もちろん、多文化的なチームを集めて何かを達成しようとすると、その人が育った環境による違いは感じられます。「面目を失いたくない」というのは誰にでも共通するけれど、「面目を失う理由」が文化によって違うんですよね。
K:そうですよね。私もロンドンに住んでいるのでいろいろ気づきますが、根幹の部分で言うと、国や社会によって大きな違いがあるとは思いません。人間は人間なので、どんな状況でも、多文化でも、ヨーロッパやアメリカの文化と異なる単一文化でも、本書で書かれていることは通じると思いますね。
S:ポライトネスは日本のほうが発達していると聞いていたから、この本の内容が日本で通用しなかったらどうしよう、とちょっと心配していたんです。でも表面上の文化の違いの下に別のレイヤーがあって、そこはみんな共通しているんですよね。
自分の出身地の文化がどうであれ、チームとして独自の新しいカルチャーをつくっていける、というのが僕の考えです。
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