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音の基準点

発声や発音をする際に、どれくらいのボリゥムで声を出せばいいのか?と気になることはないだろうか。

いくら大は小を兼ねるとはいえ、何でもかんでも大きな声を出せばいいというものではない。それが無理をして出している声ならばなおさらだ。もっとも、最低限聞こえたいボリゥムがある事もまた事実なのでこのへんは素養の話になるかもしれないが…。

そしてこの基準点なるものはトレーナーによっても変わってくるし、演出家によっても要件が変わってくる。それぞれの演劇的表現に照らし合わせた価値判断なのでそりゃそうだというところでもあるが、なんの指標もなくトレーニングすることほど心細いものはない。
というわけで、VORPALではひとつの指標として音の基準点を提唱している。

情動の方向
以前の記事で、感情は存在しない旨を記した。感情は体験している瞬間には存在せず、記憶し思い出すために記銘されたものが感情であると。しかしながら気持ちが向かう方向はある…といったらまた混乱をさせるかもしれない。
喜怒哀楽
感情の話になったときに、まず出てくるのがこの喜怒哀楽ではなかろうか。音の基準点を探るには、このムードを使う。ムード…すなわち気分だ。感情そのものは記銘語なので気持ちがベクトル方向に向かっていることを感情ではなくムードと呼ぶ。ムードのレベルが低ければ気持ちの動き幅が小さく、ムードのレベルが高ければ気持ちの動き幅は大きくなるということだ。
【喜】は、有頂天やら、天にも登るやら、浮かれるやら…上方向に気持ちが向かう事を言う。【怒】は、腹が立つ、臍を曲げる、はらわたが煮えくりかえる…と腹、とくに丹田を意識するような蓄積の気持ちだ。【哀】は、胸が痛いや、心が空っぽ、胸が締めつけられる…といった、胸のエネルギーに関した気持ち。【楽】は、自分の内というよりも外の世界への興味や反応といった気持ちである。少し図で表してみよう。

【喜】は上に、【怒】は腹に、【哀】は心に、【楽】は前に。これらの方向を線で結んでみると、心の少し前方向に交差する場所が見つかるだろう。その場所をゼロの情動という。喜怒哀楽どの情動にもふれていない…要は向かっていない音を探すのだ。ただしこのままでは、発声練習には向かない。

ひとひとりぶん
パーソナルスペースという言葉を聞いたことがあるだろうか?1966年、アメリカの文化人類学者のエドワード・T・ホールが分類した空間名称のことである。
会話対象の表情が読み取れる距離〜相手に触れられる距離である個体距離を基準に考え、ゼロの情動から45cm〜120cmほど前に音を飛ばした距離をひとひとりぶんとする。具体的には自身の手を真っ直ぐ前に出したくらいの距離と覚えておけばよいだろう。
ここに声が集まるよう意識して発声のトレーニングを行ってみよう。
対象との距離が離れればより遠くまで音をかけるようにし、縮まれば音を引き寄せればよい。
まとめてみよう。

発声練習などに使用する音の基準点は、喜怒哀楽のムードを喜←→怒、哀←→楽で結んだ交差する箇所をゼロの情動とし、そこから個体距離ぶん前に出したひとひとりぶんの位置を意識するとよい。

参考にして、トレーニングに活かしていただきたく思う。

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