不定形突発超短編小説

 ふと、空を、というかその手前の高層ビルの窓を眺めると、何も無かった。何かを見つけようと見上げたはずなのに。期待を抱いたのはこっちの勝手すぎるとは思うが。落胆は隠せない。
 ふと、底を、というかそれ以前の暗黒に焦点が合った。普通暗闇に焦点が合うことなどないが、確かにそこに対象物があった。落胆があった分、うつむく動作とは食い違う、妙な達成感があった。
 何も見たくはなかった。まぶたを落として、全身を圧縮するように膝を曲げ、前腕で耳をふさいだ。全身に回っていたはずの感覚のベクトルをすべて内側に向ける。外界にあるものよりも、内側にため込まれたものの方が多く思えてしまった。耐えきれなかった。
 自分と対岸に位置する高層ビル群、間を埋めてくれるのは谷、というにはあまりに人工的な欠落。果てにあったのは不老不死の秘薬でも、大切な仲間との絆でもなかった。悔しくはない。求めたのは何かを得たかったからじゃない。
 もうここまで来てしまっては、これまでの工程など思い出せない。虚ろの結果だけを認識できるだけだった。
 ふと、後ろを、見た。何もなかった。今までの自分を否定するだけの空白があるだけだった。否定、では生温い、これまでのほとんどをなかったことにさせるだけの説得力そのものだった。
 それに背中を押させるだけの力はあったか。下にあったはずの黒さは目の前にあった。怖くはない。自然なことだと受け入れられるぐらいにはもうすでに自分にはなにも無かった。
 死の直前のエピローグなど無かった。


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