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【題未定】進次郎の公約が投げかける課題:選択的夫婦別姓を考察する【エッセイ】

 自民党の総裁選が盛り上がっている。特にここ最近話題となっているのは、かねてからマスコミ人気の高い小泉進次郎議員である。先日の記者会見の受け答えが絶賛されているようだ。確かに機転の効いたそつない返答であり、機知を感じさせるものだった。仕込みではないか、という意見もあるようだが、質問者が田中龍作氏であればあの低レベルな質問はさもありなんであろう。

 その小泉進次郎議員が先日、公約の一つとして打ち出したのが選択的夫婦別姓の速やかな実現だ。正直なところ選択的夫婦別姓自体は議論を深めるべきであるイシューではあるが、総裁選≒総理大臣の指名選挙という場面で全面に打ち出すべきものかは微妙だろう。経済や国防に関する指針がメイントピックとなるべきだ。

 とはいえこの選択的夫婦別姓という問題は決して軽んじて良いものではない。事実この問題に関しては政治的な主義を跨いで賛否が分かれるものでもあるからだ。

 まず本問に対する私自身の立場を示すとするならば「消極的賛成」というスタンスになる。日本の旧来の夫婦同姓制度を現状のまま数十年も維持をし続けていくことはあまりにも現実的ではないからだ。同姓制に不便や不快さを感じる人は現在も一定数存在し、今は少数であるが今後その割合は無視できない数に増加するだろう。

 また別姓反対者が主張する家族の一体感や日本文化の伝統というものに説得力が低いということもある。そもそも姓が異なる家族は現状においてもいくらでも存在する。しかも選択的夫婦別姓制度を利用するであろう夫婦はそうしたものに一体感を求めない傾向の人間であろう。加えて日本文化、伝統と言っても現行の夫婦同姓制度は明治以降の習慣であり、家ではなく夫婦を家族の単位と見なすようになったのは戦後の事である。文化や伝統を主張するには無理があるだろう。

 では「消極的」である理由はどこにあるのかというと2点である。一つは社会的コストの増大、もう一つは子供の問題である。

 社会的コストの増大に関しては行政システムの対応、民間ビジネスのシステムの対応、社会保障や年金システムとそこに関わる法や制度の改正などが考えられる。これらは最終的に必要となるシステム改修ではあるが、これらが同時に改修が行われる場合、トラブルが頻発しまたその原因が不明確になることが考えられる。ただ、一方で現時点においては別姓利用者の数は少数派である可能性が高く、多数を占める前に改修に取り組むべきではという考え方も一理ある。

 子供の姓に関しての問題は非常にデリケートである。そして別姓を決断するような夫婦の場合、その子供の姓に関する選択でもトラブルになる可能性は高い。そのときに誰がどうやって審判を下すかは非常に大きな問題だ。裁判で決着をつけることに納得できる人がどれほどいるだろうか。そして姓という日常的に利用するもので係争になったのち、夫婦関係を円滑に維持することは果たして可能だろうか。難しいと考える方が自然だろう。

 また個人的には子供の姓に関しては職業柄、保護者と異なる場合の不安点が存在する。それは親子や兄弟関係の把握が難しくなる点だ。例えば山田太郎君の母親が木下花子さん、同じクラスの同級生には木下太郎君がいて、となるとなかなかに混乱してしまう。もちろん呼び出し時の確認を正確に行なえば問題は無いが、「木下と申します、いつも太郎がお世話になっています。」なとと声をかけられてしまうと、かなりの確率で別の生徒の話をしてしまいそうである。これは日常的な会話であれば笑い話で済む話だが、緊急時などの安否確認におけるミスの原因になる可能性は否定できないだろう。こうした事例が学校だけでなく、病院や公的施設でも発生することは十分に考えられる。

 以上のように、選択的夫婦別姓制度は一時的に日本社会に混乱をもたらし、尚且つある程度のコスト、負担が発生することは間違いない事実である。あとはそのコストを受け入れることを多数派が許容できるか否か、これにつきるだろう。一部の保守派が強硬に主張するような家族の絆を断つというほどのものではないし、そもそも家族制度の歴史を踏まえてもそこまでの重みのあるものではないだろう。

 ただ、少なくともこの改正を考える以上は、マイナンバーカードやそれに付随する行政サービスの一元化は必須であろう。家族単位での管理や把握が困難になる制度である以上、各種情報の紐づけによって個人を捕捉する精度の向上無しには行政サービスの円滑な提供や社会システムの維持管理は不可能だからだ。ところが、どうも選択的夫婦別姓制度を賛成する人ほど、社会管理などのマイナンバーに反対する人が多い印象があるのは気のせいだろうか。

 一先ずは現政権与党の総裁選だ。誰が選出されるかでこの政策の方向性も見えてくることだろう。しっかりと注視していきたい。

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