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シリーズ完結記念! 最終巻が100倍おもしろくなる「俺ガイル」語り【イベントレポ】

 ライターの豊福です。昨年11/23(土)に開催された小学館カルチャーライブ!の講座、「シリーズ完結記念!最終巻が100倍おもしろくなる『俺ガイル』語り」の様子をご紹介いたします。

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 9年間にわたって続いた『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』が、ついに完結! 記念すべき最終巻、やっぱり思いきり味わって読みたいですよね。今回のトークショーでは、原作者の渡航先生による解説、今だから聞ける裏話や、各所に込められた想いをたっぷり聞くことができました!

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 司会は、自身もライトノベルを執筆し、大の『俺ガイル』ファンでもある芸人・天津向さん。渡先生とのかけあいがまるで漫才のようで、笑顔と拍手の絶えない2時間でした。会場に来られなかった方もこのレポートを読んで、ぜひ最終巻を100倍味わっていただければと思います!

オープニング

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 会場は大盛況の超満員。みなさん限定グッズも購入し気合い十分です。渡先生が登場すると、割れんばかりの大きな拍手。出だしから軽快なトークが止まりません。
渡「9年かけて完結。0歳の子が9歳になったわけですよ」
向「いや下手な例えやめてください、当たり前やないですか」
渡「まあそのうち半分くらいは休んでたとか……そういう話二度と言うんじゃねえぞ!?」
向「急に怒るな!? でも、渡先生がこういう語るイベントに出るって珍しいですよね」
渡「やっぱり恥ずかしくて(笑)。最終巻なのに、他の媒体から一切インタビューの依頼が来てないんですよ。インタビューのたびに違うことを言っているのがバレた可能性がありますね」
向「ダメやないですか(笑)。でもじゃあ余計に、今日はここでしか聞けないお話が聞けるということですね!」

シーズンごとに振り返る『俺ガイル』前半戦

 『俺ガイル』は全部で14巻。執筆を始めた当初から、完結の大まかな着地点は見越していたのだそうです。主人公の八幡の変化を描ききるには、春夏秋冬1年間を12冊くらいで書こう、という構想があったのだとか。
ではこれまでの『俺ガイル』を、裏話も交えつつ振り返っていきましょう。

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▷「春」ファーストシーズン(1−3巻)
・製作のきっかけ
渡「僕のデビュー作『あやかしがたり』が、もう驚くほど売れなかったんです。当時はちょっと尖っていて『ライトノベルの歴史塗り替えたる』みたいな思いがあったのですが、塗り替えたのは売れなかった記録くらいです」
向「どんな記録やねん。そんなことないですよ(笑)」
渡「そこで、今度はもう少しキャッチーな形で勝負をしたい。ラブコメという枠の中で、自分が書いたらどうなるだろうと考えました」
向「なるほど。ラブコメへのカウンターというよりは、もうひとつ絞ったところで戦ってみたんですね」

・1巻:「ラブコメ」全部のせ?
 振り返ってみると、14巻からは想像できないほどのベタなラブコメをしている1巻。
渡「でも、気づくとベタなラブコメから渡航ワールドに、結局それていっちゃうんですよね……」
向「2巻からはもうそれてますもんね。早い!(笑)」

・2巻:「ビターエンド」の方向性が固まる
 2巻のエンディングを発表した時は、編集部に激震が走ったのだとか。
渡「いわゆる『ラノベの正解』はこれではないと思います。でも、ラノベの正解と渡航の正解は違うんだ、ということで(笑)。それを許してくれてこそのガガガ文庫じゃん!と」
向「たしかに!(笑)。でも、ここで衝撃のビターエンドだったからこそ、引き込まれた読者も多いと思います」

・3巻:伏線の回収、そして新たな伏線
 ここまでの八幡たちの出会いの話をうまくまとめつつ、新たな伏線を張っていく「渡節」と言ってもいい展開の仕方は本当に見事。
渡「ライトノベルは次巻発売までの期間が長いので、読者の方が読み返したときの楽しみや気づきを持てるように、伏線は意識して張っています」

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ファーストシーズンをまとめると……
全力でラブコメをやりつつ、結局はラブコメと似て非なる『渡航』というジャンルになっちゃった!

▷「夏」セカンドシーズン(4−6巻)
・4巻:キャンプに行くか問題
 4巻でまず問題になったのが、「八幡、絶対キャンプ行かないなあ」ということでした。そこから「どうすれば行くだろう」と考えて話を膨らませていったのだそうです。
 当時、意識したのが「八幡のキャラの芯を通すこと」。そこで八幡と対比するキャラとして葉山が登場しました。葉山は「一般的な感覚」の代表例。ある意味「主人公の正解」のようなキャラですが、そんな葉山がいるからこそ、八幡の性格がより浮き立っています。

・5巻:異質な「連続短編」スタイル
渡「5巻のプロットは直しに直して、最終的に、捨てました」
向「ええ!?」
そんな中で生まれたのが、この短編スタイルだったのだそうです。それぞれの短編では、「雪ノ下雪乃」が各登場人物にとってどんな存在なのかが描かれています。「ヒロインが不在なことによって、その人物像を明確に際立たせる」という手法を、結果的に取ったのだとか。
向「構想10年はかかりそうな構成ですよ!」
渡「でも時間をかけたぶん、構成的には一番好きな巻になりました」

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・6巻:学園モノのライトノベルラブコメを描き切った
 前半の総まとめ的な6巻。ここで登場する「相模南」について、向さんが言及します。
向「相模はなんか……バチとか当たらないんですか? 人より多く転ぶとか(笑)。他のラノベでは描かれないような、すごくリアルなキャラですよね」
渡「タチが悪いんですよね(笑)。でも、相模南はすごく好きなキャラクターなんです。相模って実は他のキャラクターからすると『こいつ哀れやな』という存在だったりもして。だからこそ八幡が相模の気持ちに寄り添える部分もあるんです。相模は相模なりに孤独を抱えていて、そこに八幡が殴ってでも寄り添うべきだと思ったので」
向「なるほど、そういうことか……」
渡「あと、(アニメでこの役を演じた)寿さんの芝居が最高」

セカンドシーズンをまとめると……
相手のことを「知る」ターンだったセカンドシーズン。そして「疑う」ターンのサードシーズンへ

 6巻まででお互いのことを知ったからこそ、見えるものもこれまでとは変わってくる。ダークな展開の後半戦へと突入していきます。

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担当編集:ガガガ文庫・星野編集長と語る製作秘話!

 ここで後半戦に移る前に、担当編集の星野さんが登場。渡先生とはデビュー当初からの仲で、酸いも甘いも共にしてきたそうです。そんな星野さんが、一番身近な存在だからこそわかる執筆の舞台裏を語ってくださいました!

・「小学館に監禁」でおなじみの作業ブース
 渡先生はよく「小学館に監禁されている」なんておっしゃっていますが、一体どんな場所なのか? 星野さんが写真を用意してくださいました。
 小学館の作業ブースに、一箇所だけなぜか生活感の溢れるスペースが(笑)。

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渡「奥に置いてあるのは僕の着替えですね」
向「完全にネカフェだ」
星野さん「最近社内でも『住んでる人いますよね?』と噂になっています」

・ストーリー作りに欠かせない「大量のふせん」
 続いての写真は、ストーリーの流れをトピックごとに書いた大量のふせん。

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 ふせんにすることで、足りない部分を追加したり、順番を入れ替えたり、削ったりしやすいのだそう。それをノートにまとめて可視化します。
 手書きのふせんにこだわるのは、考えていることを机いっぱいに広げられるからなのだとか。
渡「デュエルマットみたいなものですね」
向「デュエルマットって言っちゃった」

・緻密すぎる「俺ガイルノート」
 続いて見せていただいたのが、大量の「俺ガイルノート」。びっしりと文字が書き込まれています。

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 しかし、このほとんどが本編の原稿には出てきません。キャラの行動理念に落とし込むための様々な知識や情報を、渡先生が把握するためのものなのです。実はそれぞれのキャラに履歴書まであるのだそう。(ちなみに履歴書が一番おもしろかったのは材木座さんだそうです)
 このノートがなんと、ファイナルシーズンだけで12冊もあるんです! 見えないところの作り込みがここまで緻密にあるからこそ、本編の物語やキャラクターにも深みや説得力が出るのだろうな、と圧倒されました。

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・モチベーションを上げるには「アイカツ!」
 渡先生の執筆の必需品は、冷えピタ・湿布・目薬・ヘッドフォン。過酷な作業であることが窺えます。
向「作業は音楽を聴きながらされるんですか?」
渡「聴かないとスイッチが入らないですね。頑張るって決めたときは常に『アイカツ!』を」
向「本当に『アイカツ!』好きですね」

・担当編集・星野さんの、完結への思い
星野さん「『俺ガイル』はライトノベルとしての強さを持っている作品だと思います。こんなにしっかり完結までいける作品力は、他ではなかなかありません。1巻から14巻までブレていない。それを渡さん一人で、孤独な作業の中で生み出すというのがまた、小説の面白さだと思います。まあ、一人なのでなかなか締め切りを守れないこともありましたが……」
渡「あれっ」
向「せっかくいい話だったのに、最後!(笑)」

 やっぱり一番近くで伴走してきた星野さんの言葉は、愛と重みがありました。ここからはいよいよ、シーズンごとに振り返る『俺ガイル』後半戦です! 

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シーズンごとに振り返る『俺ガイル』後半戦

▷「秋」サードシーズン(7−9巻)
・積み上げてきた「6巻まで」、掘り下げていく「7巻から」
 7巻からの後半戦では、「今まで積み上げてきたキャラクターの関係値を、一度壊さないとダメだと思った」という渡先生。知ったからこそ見えてくる相手の嫌なところや疑念を、しっかり描くことを意識したそうです。八幡も雪乃も結衣も、お互いを深く知ったからこそ、余計に傷ついてしまう。そんな人間のリアルでダークな部分が描かれていきます。

・サードシーズンからの登場にも関わらず、最重要キャラとなる「一色いろは」
 サードシーズンから登場する一色いろは。実はボツにした2巻のプロットには、すでに出ていたのだそうです。いろはは、八幡の考えをある程度理解しているキャラ。
渡「いろはを最も端的に表す言葉は『小賢しいクズ』です」
向「確かにそうですけど!(笑)」
渡「作中で唯一器用と言っていいのが、いろはだと思います。7巻からのキャラクターたちの、くっついたり離れたりを繰り返す微妙な関係の中で、うまく立ち回れるのは、いろはしかいなかった」
向「だからこそ、物語をすすめてくれる。本当にキーパーソンですよね」


・社会人経験が余すところなく活かされる
渡「特に8、9巻あたりでは、ぼくのプライベートでのイベント運営や社内政治みたいな部分での、日頃のうっぷんをぶつけました(笑)」
向「本当にすごくリアルですもんね」
渡「高校生や大学生でも、そういう経験ってあると思います。そこを読者のみんなと一緒に『ある〜』って言いたいなと思って、そういう要素も入れてみました」

サードシーズンをまとめると……
「知ること」から「疑うこと」へ。積み上げてきたことを壊すターンへ

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▷「冬」ファイナルシーズン(10巻〜)
・10巻から始まる「青春群像劇」
 10巻から、八幡以外の視点が登場しますが、それに該当するキャラクターは明確に誰とは定まっていないのだそうです。だから、読む人が一番思い入れのあるキャラの視点で読むことができる。逆に誰の視点で読んでも違和感がないように意識して描いたとのことです。

・酸っぱいぶどうを手に入れたら、本当に酸っぱかった
 本来なら穏やかに完結することもできたのに、そこで終われないのが主人公・八幡。「手に入れたところで、それを本当に信じきることができるのか?」と自問自答してしまいます。
 次第に、「青春」的なものを嫌っていた過去の自分の言動に縛られはじめます。そんなとき、彼はどう決断するのか? 苦難の展開になっていきます。

・「諦め」から誰かにゆだねる物語 そしてラストは……
 「このまま停滞していたほうが幸せなんじゃないか」と思い始めるキャラクターたち。でもやっぱり「誰かに与えられた答えで終わらせてはいけない」というのが、シーズンの軸でもあります。
向「14巻、本当に素晴らしかったです。過不足がないというか、どの文章も絶対に必要で、これじゃないといけない最終巻でした」

 ここで渡先生が話してくださったのが「八幡モノローグ長すぎ問題」。
渡「八幡はたった一言のために、余計なことをものすごくしゃべります。気持ちと違うことを言ったりもする。でもそれが、八幡の人間性なんです。あと八幡の語りを長くすることで、作中の時間の流れと、読者の現実の体感時間とを合わせたいというこだわりもありました」
向「14巻の最後の平塚先生のシーン、最高でした」
渡「あのシーンも実は一度やり直したんですよ。ね、星野さん」
星野さん「そうですね。締め切りは過ぎていましたけど」
 綺麗なオチに、会場は大爆笑と拍手に包まれました。

ファイナルシーズンをまとめると……
自分だけの「言葉」を探す物語。答えを、諦められない。それが青春。

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渡「今日お話ししたのはあくまで僕の解釈です。だから、この作品を読んでみなさんがどう思うかは本当に自由です。この物語からみなさんが受けた自分だけの思いを大切にしてほしいと、今みなさんを目の前にして思います」

質問コーナー

 ここからは参加者のみなさんから寄せられた質問へ、渡先生にお答えしていただきました! いくつかピックアップしてご紹介します。

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Q.
アニメは尺が決まっていますが、小説の内容をどうやってアニメ向けに調整するのですか? また、その際に原作者の先生はどこまで発言できるのですか?
A.
渡「アニメには見ていて気持ちのいい尺があるので、そこは本読みからコンテまで脚本家さんや監督さんと話し合って決めています。原作者が発言することは全然可能です。アニメはさかのぼって直すことができないので、後悔しないようになんでも言うようにしています」

Q.
高校生の心情や関係性を書く上で、どのようなことを参考にされていましたか?
A.
渡「電車で高校生の会話を聞いたりします。どんなことを、どんなテンションで話しているか、この二人はどんな関係性なのかなどを考えます。旅行先でも人の会話は聞いてしまいますね。一般の人を見て想像して、キャラクターに落とし込むということを、結構日常的にしています」

Q.
今後、俺ガイルの外伝やアウトストーリーなどはありますか?
A.
渡「アンソロジーノベルは出ます。短編集も出せたらいいなと思っています。たまには八幡たちに会えるように、後日談みたいなものも書けたらな、とは」
向「え! じゃあ、待っていていいんですか?」
渡「何年後とか・・・令和中には出します(笑)」
向「遠い!(笑) でも、そう言っていただけるだけで嬉しいです。」
渡「みなさんも、たまには俺ガイルのこと、八幡たちのこと、気にかけてくれると嬉しいです」

エンディング

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 質問コーナーの後は抽選会もあり、会場は大盛り上がりで幕を閉じます。最後は、渡先生のこのお言葉で締められました。
「9年間続いた俺ガイルも、みなさんのご声援のおかげで完結を迎えることができました。本当にありがとうございます。この後も、短編集やアニメ3期など、俺ガイルはまだもうちょっとだけ続きますので、またみなさんと、このようなイベントや、作品を通してお会いできればと思います。これからもひとつ、よろしくお願いします。本日はどうも、ありがとうございました!」

最後は、抽選でポスターが当たった方にサインを入れる場面も。一人一人丁寧に応対される姿が印象的でした。

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 今回のイベントで渡先生のお話を聞いて、『俺ガイル』が本当に魂を込めて、大切に丁寧に作り上げられた作品なのだと改めて感じました。特に「あの子はこういう子で」とキャラクターたちの話をするときの渡先生はとても楽しそうで、それぞれのキャラクターにすごく愛情を持たれているのだなというのが印象的でした。
 最終巻をもう読んだ人にとっても、まだの人にとっても、『俺ガイル』が100倍おもしろく、そして100倍好きになれるイベントでした。渡先生、司会の向さん、そして参加者のみなさん、本当にありがとうございました!

カルチャーライブ!今後のお知らせ

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<アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』をみんなで見て振り返り!【第1夜】>
●日時:8月4日(火)20:00~21:30
●受講料:2500円+税
●詳細・お申し込みはこちら

ベストセラー作家+マルチアニメ芸人+大人気声優!!
真夏の一夜を熱く、暑苦しく彩る奇跡のコラボイベントがここに!

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』アニメ第三期に合わせて、
なんと原作の渡 航先生と比企谷 八幡役の江口 拓也さんをお迎えして、アニメを見ながら作品を振り返ろう、という前代未聞のビッグイベント!

渡先生が原作の想いのたけを語れば、江口さんがアフレコ裏話や、キャラクターについてなどを語ります!

ここでしか聞けない本音トークや、制作秘話満載!
司会は吉本のアニメ芸人、ライトノベルも執筆している天津向さん。

一体どのような振り返り配信になるのか?
これは絶対に見逃せないっ!
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みなさまのご受講をお待ちしております。

最後に、渡 航さん、天津 向さん、参加してくださったみなさま、このレポートを読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました!!

撮影・編集/小川利奈子 文/豊福未波
2020.7.16 作成

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