Partner 第一章~出会い~

この世界には何十億人という人が住んでいて何十億通りの生き方がある。

それは果てしないようなことに思えるけど宇宙規模で見てみればプランクトンなんかよりも小さい何やらただウジャウジャとしているだけの無機物のようなものに見えるのかも知れない。

ただ、そんなこの星でまた一つ思い出は生まれるのである。


東京都内のとある劇場。最寄り駅の繁華街からは少し離れていて後10分も歩けば住宅街になるであろう場所に建っているのだが流石に都内ともあって周りの人通りは激しい。グレーがかった色の5階建てのビル。築何十年だろうか?よく言う雑居ビルのような建物だが、その3階にキャパ200人は入る昔ながらの劇場がある。

劇場入り口には白地に黒色のポップ体で書かれた「NSKお笑いコンクール予選第1回戦」の立て看板が置いてありロビー奥の劇場ドアからは微かに漏れるまだこなれていない若手漫才師のネタが聞こえてくる。残念ながら客の笑いはそのドアから漏れるほどの量はないようだ。

楽屋の廊下では何組もの芸人がネタ合わせをしている。緊張している者、堂々としている者、ネタ合わせにならないくらい何度もトイレに駆け込んでいる者、様々である。

そんな芸人たちの数々の言葉に入り混じるように楽屋の中から相沢祐輝(あいざわゆうき)と正田純一(しょうだじゅんいち)の言い争う声が聞こえていた。

お揃いの黒色のスーツを着て向かい合って立つ二人。一瞬の沈黙の後、先程までの声量よりも一段階ギアを上げて祐輝が怒りをぶつけ始めた。

「だから俺の言う通りにやってれば間違いないのに一体、何が気に食わなくて辞めるなんて言い出すんだよ!」

いつもの言い争いなら祐輝が一段階ギアを上げた時点で本来の気の弱さが出て直ぐに服従してしまう純一。しかし今日の純一は違った。

「そういうお前の上から目線が気に食わないんだよ!」

普段と違う純一の返しに一瞬たじろぐ祐輝だが彼には純一を毎回降参させることの出来る核心をつく言葉があった。今日はこれ言うの早いな・・と思いつつも少しずつ迫る出番時間に間に合わせる為にも祐輝は言った。

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