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桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その二十五②

㉕弘徽殿の父娘、若宮の行く末を語る--2

何ということ!母もなくたった一人で!ああ、わが一の宮がそのような処遇にあったらどんなに辛いか、同じ子を持つ親としては身を切られるような痛みがありますわ。帝はよくもそのような決断を…いえ、だけどそれは確かに、帝ならではの親心ではありますわね…。

父は上機嫌でしゃべります。

「いやあ、帝!さ、す、が、帝!よう決心しはりました!!さすがや!ご英断や!!」

「確かに…英断ですわね…」

衝撃を隠しきれないわたくしをしり目に、父は饒舌でした。

「せやろ?さすがやなあ~!!いやここまででな、一宮さんが東宮にならはって一安心ではあったんや。でもな、あの若宮さんがどういう立場になるんやろなて、やっぱりどこかで不安はあったんです」

「もし、今回、親王となさっていたら…」

「そら、親王っちゅうからには、いつか東宮になるかもしらん、っちゅう可能性が留保されてますからな!うちの一宮さんが廃太子とか、一宮さんの後の東宮になるとかな、そういう筋書きも考えられたんやけど。でもこれで、そんな可能性は消えたんや~!!」

いやあ、めでたい!と父は言って扇をがばっと開き、顔をばさばさ仰いでいます。そう、確かにめでたいこと。これで将来、帝となった我が息子に、あの若宮が臣下として仕えるという未来図が描けますものね。

わたくしは、子を持つ親の身として、事の重さをかみしめると同時に、右大臣家の者として、今後は同じ臣下として並び立つ若い公達の事を思うと、父の様に浮かれる気持ちにはとてもなれません。

「なんや、女御さん、嬉しないんですか?」

さすがに父が、わたくしの顔色に気がついたようです。

「ええ、まあ…。わたくしの一宮が臣籍降下になったらと思うと…おなじ父を持つ二人ですのに、この先の境遇の違いは計り知れないものがありますわね」

「せやな。一宮さんは帝におなりあそばします。せやけど若宮さんは…さあ」

せやけどやな、と父は神妙な面持ちになって言いました。

「せやけどやな、もし今回の決定が親王に、っちゅうことやったら、話はもっと切ないもんになりますんやで?母方の親戚のない若宮さんが親王になったかて、位がもらえるとは思えません。おじいさんが生きてたかて、せいぜい大納言やけど、それすらないんやからおそらく無品(むほん)ですやろ。あちらの世界は母方の血筋がほぼ全てですからな。しかも宮さんになったら政治には関与できしませんよって、出世もへったくれもない」


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学生時代を含め、京都在住20年以上の主婦。 夫と娘との3人暮らしを楽しんでいる。街と食べ物と古典文学への興味は尽きず、本屋で観光客向けの京都本をチェックするのが趣味。  日々の何気ない事や思い付きを文章にしています。源氏物語「桐壺」の超訳にも挑戦中。
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