言葉のセクハラに対する懲戒処分(H27/2/26)

【概要】


大阪市で有名な水族館である「海遊館」で勤務する課長代理の男性社員2名(「被上告人」)が、女性社員に対していわゆる言葉のセクハラ行為を継続。この事実を知った会社側(「上告人」)が就業規則に基づき、数日間の出勤停止と降格処分を下したことに対して、処分が重すぎるとして社員側が訴えた事案。原審は社員側に認めを任用したが、最高裁はこれを否定した。
言葉のセクハラと言っても、その表現は管理職のものとしてはかなり常軌を逸しており、「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」「もうお局つぼねさんやで。怖がられてるんちゃうん」「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなぁ。うらやましいわ」「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなぁ。」「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」等々と云ったものである。
事実認定のポイントとなったのは、会社側のたゆまぬ努力。同社では職場におけるセクハラ防止を重要課題に位置付け、かねてからセクハラの防止等に関する研修への参加を全従業員に義務付けるなどし、また「セクシュアルハラスメントは許しません!」といったセクハラ禁止文書を作成して従業員に配布、職場にも掲示するなど、セクハラ防止のための種々の取組を行っていたという。(もっとも、認定事実によれば、男性社員の内の1名は、セクハラに関する研修の後、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなぁ。」「あんなん言われる奴は女の子に嫌われてるんや」と意に介していない様であるが。)

【条文】


懲戒権の前提となるのは労働契約法である。
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

今回もこの出勤停止と降格処分がいわゆる懲戒権の濫用に当たるかが問われた。つまり、「社会通念上相当であると認められ」るかどうか、である。

そして、その客観性・合理性を測るに当たり、同社の就業規則が事細かに分析されている。判例によれば、社員の禁止行為として「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」が就業規則に掲げられ、違反した社員にはその軽重に従い、戒告~懲戒解雇に至るまでの懲戒処分を行う旨が定められていた。また、社員が服務規律にしばしば違反した場合には、減給または出勤停止に処する旨も明記されていたという。また、先のセクハラ禁止文書には、禁止行為として「性的な冗談、からかい、質問」等の具体的な行為が列挙されており、それらが就業規則に言う「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に含まれること等が明確化されていた。

【判決】


原審は被上告人の各行為が就業規則違反にあたり、会社の服務規律違反にしばしば違反したものとして、出勤停止の懲戒事由に該当することを認めつつも、
「被上告人らが、従業員Aから明確な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたことや、被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく、本件各行為について上告人から事前に警告や注意等を受けていなかったことなどを考慮すると、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは酷に過ぎるというべき」として相当性を否定、権利の濫用を認めた。

それに対して、最高裁は以下の様に判示。社員が管理職という立場にいることも踏まえつつ、この原審の論理を否定した。

(判決文)
上告人においては,職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け,セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに,セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど,セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり,被上告人らは,上記の研修を受けていただけでなく,上告人の管理職として上記のような上告人の方針や取組を十分に理解し,セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず,派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し,職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって,その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。
(略)
原審は,被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず,本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして,これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが,職場におけるセクハラ行為については,被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも,職場の人間関係の悪化等を懸念して,加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや,上記(1)のような本件各行為の内容等に照らせば,仮に上記のような事情があったとしても,そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。
また,原審は,被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく,事前に上告人から警告や注意等を受けていなかったなどとして,これらも被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが,上告人の管理職である被上告人らにおいて,セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する上記(1)のような上告人の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え,従業員Aらが上告人に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり被上告人らが本件各行為を継続していたことや,本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており,従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において,上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば,被上告人らが懲戒を受ける前の経緯について被上告人らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。
以上によれば,被上告人らが過去に懲戒処分を受けたことがなく,被上告人らが受けた各出勤停止処分がその結果として相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても,被上告人X1を出勤停止30日, 被上告人X2を出勤停止10日とした各出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し,社会通念上相当性を欠くということはできない。 したがって,上告人が被上告人らに対してした本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえないから,上告人において懲戒権を濫用したものとはいえず,有効なものというべきである。


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