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湯はあたたかく、木々は優しく揺れていた。

杉の木だろうか。まっすぐに伸びていた。僕の頭上から天高くまっすぐに。露天風呂には誰もいない。少し前から降ってきた小雨が僕の頭を濡らす。

時刻は20時を回ったところだ。僕は頭を風呂のへりに乗せて夜空を見上げていた。星が見えれば完璧だったけど、あいにく空は漆黒に近い紺色。針葉樹の先端をブラックホールのように吸い込んでいた。

東京から離れて車で2時間。平日に休みをつくって八ヶ岳にやってきた。東京にいると、ふとした瞬間もAunaのことを考えてしまう。仕事になると熱中して周りが見えなくなるから、そんな自分をクールダウンするのに旅はもってこいだ。

ふと風が強く吹いたと思ったら、地面からまっすぐに伸びた木の頭の方が大きくしなった。幹は微動だにしない。幹だけを見ると木が動いていることすら気づかない。風が再び吹く。木々は右に左にスイングするように揺れた。

最近の考えごとといえば、自分が仕事を通じて世の中に何を還元できるのだろうかということ。ぼんやりと30歳くらいから考えている。高尚なことを言いたいんじゃない。どうせ一生懸命にやるのだから、「今」という時代に求められていることをしたい。それが世のためであって欲しい。それだけ。

まるで僕の凝り固まった感覚や感情を解きほぐすように。湯はあたたかく、木々は優しく揺れていた。

(そのままでいいんじゃない?)誰かに語りかけられた気がした。

人生30年で学んだ。言葉で考えてもわからないものはある。僕は目をつむり、木々が揺れる音に耳を澄ました。のぼせちゃうかもしれないけど、あと5分だけ浸かっていることにした。

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