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マルチチャネルトラッキングを実現した2つの企業の具体的なやり方

オンライン・オフラインの顧客行動の統合は、マルチチャネルを展開するマーケターにとっての宿願です。最近は色々なツールがありますが、難易度が高いのは依然として変わりません。

今回は海外のケーススタディをもとに、マルチチャネルトラッキングの方法論を考察します。

現代における顧客行動の種類

オンライン・オフラインという軸で考えると、以下の4つに大別できます

純粋なオンライン:オンラインのみで製品を見つけて購入する。
純粋なオフライン:実店舗のみで商品を調べて購入する。
ROPO(Research Online Purchase Offline):オンラインで商品を調査し、オフラインで購入する。
ショールーミング:実店舗で製品を調べ、オンラインで購入する。

Webマーケターにとって厄介なのは、ROPOの行動です。効果測定の仕組みを構築していなければ、購入に貢献しているトラッフィクがあったとしても、それを検知することができません。

Google Consumer Barometerを使えば、それぞれの行動の割合を調査することができます。日本の場合はこちら。

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複数回答可能な調査のようなので合計は100%になりませんが、上から順に

純粋なオンライン:36%
純粋なオフライン:32%
ROPO:24%
ショールーミング:13%

という割合になっており、4人に1人はROPOの行動をしています。これを計測できていないとしたら、大変な見逃しをしているということになります。

ROPOの行動を取る理由としては次のようなものが考えられます。

・商品を実際に見たいと思っている。
・今すぐに欲しい(郵送を待っていられない)。
・送料を払いたくない。
・店員に意見を聞きたい。

マルチチャネルトラッキングを実行する5つの手順

ここから、具体的なステップを検討していきます。

ステップ1:検証項目を明確化する

まず仮説を立て、何を調べたいか、何を明らかにしたいのかを最初に明確化しておきます。たとえば、オフライン販売のどの部分がオンライン広告の影響を受けたのかを知りたい、顧客行動プロセスのどの段階で購入を促すのが最善かを明らかにしたい、などです。何も考えずにとりあえずデータだけ貯めても絶対に後からは活用できないので、最初に目的をはっきりさせておきます。

ステップ2:データセットを作る

検証に必要なデータを特定し、フィールドを定義します。広告データであれば、プラットフォーム(Google、Facebook、Twitterなど)側でデータは蓄積されているので、それを取り込んでくれば済みます。自社のログデータや購買データは既存のCRMやDBからデータを抜いてくればいいでしょう。まともなDBがなければ、まずそれの構築から始めるよりほかありません。

さて、ここで早速最大の問題が出現します。オンラインとオフラインで同じユーザーをいかに特定するか、という命題です。そのための方法論には店舗でも使えるアプリを利用する、電子データで管理できるポイントカードを発行するなどが考えられますが、いずれにせよWEB上でのトラッフィクとリアル店舗のアクティビティ(POSデータ等)を一意のユーザーIDで結合する必要があります。 

ステップ3:インフラとアーキテクチャを決定する

インフラに関しては、オンプレミスソリューション、クラウドベースのソリューション(Amazon RedshiftGoogle BigQueryなど)、またはそれらのハイブリッドから選択することになりますが、トレンドとしてはBigQueryが人気ですかね。

加えて、データアーキテクチをどうするか?という点も検討しなくてはいけません。代表的な設計思想は以下3つ。

データレイク:構造化・非構造化を問わずあらゆる形式のデータを生の形式で一箇所に集約する。
データファブリック:クラウド・非クラウド問わず複数のデータサイロに必要な時にアクセスでき、リアルタイムでデータを移動・制御できるようにする。
データハブ:情報システム間のインタフェースシステムを構築し、各情報システムが任意のタイミングで任意のデータを取出せるよう制御する。

環境を全て自社でゼロから構築するのはかなりのハードモードなので、外部サービス(StitchFunnel.ioなど)を活用するのも手です。

ステップ4:データ品質を確認する

収集したデータが分析に活用できるものになっているかどうか確認します。例えば多くの企業はGoogle Analyticsを利用していると思いますが、キャンペーンごとにパラメータがきちんと付与されているか、チャネル分類は適切か等、自社にとって最適な設定になっているか確認します(その他のデータセットについても同様です)。イケてない点を発見し、随時改善していくことでデータの信頼性と有用性は高まっていきます。

ステップ5:ダッシュボードを作成し分析する

最終ステップとして、結果を可視化するダッシュボードを作成して分析します。エクセルでグラフを頑張って作るのもいいですが、優れたBIツールは数多くありますので、そういったツールを活用すれば更に多くの発見ができるでしょう。ツールによって特色が異なるので、色々検討してみると良いとと思います。

マルチチャネルトラッキングの実例2つ

実際にマルチチャンネルトラッキングを実装した海外企業のケーススタディをみていきます。

ダージリンのケーススタディ

まずは、女性用ランジェリー市場のトップ小売業者であるダージリンのケーススタディです。

フランスには約155のダージリン店舗があり、毎年870万人を超える訪問客がいます。同社は年間500万個以上のアイテムを販売しており、年間売上高は1億ユーロです。

ダージリンは、さまざまなシステムを使用してデータを収集・保存しています。WebログはGoogleアナリティクスを活用し、購買に関するデータは自社のCRMで管理しています。CRMのデータはフランス語ですが、Googleアナリティクスで収集されるデータは英語です。データ構造も2つのシステム間で異なります。オフライン販売でのオンライン広告の全体的な有効性を評価するために、ダージリンはこのすべてのデータを単一のシステムに結合する必要がありました。

ダージリンのデータマネジメントフロー

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1.データの収集

OWOX BI Pipelineを使用して、オンラインユーザーの行動データをGoogle BigQueryにインポート。オフラインの購買データとオンラインのトランザクションデータは、自社CRMからGoogle Cloud Storageを経由して毎日Google BigQueryに送信。これにより、まずダージリンはCVデータの損失(JavaScriptがブラウザーにロードされていない場合に発生する可能性のある未計上CV)を回避することができるようになりました。

2.データの結合 

オンラインセッションと実際の購買ユーザーを紐付けるために、ダージリンは自社サイトにサインインしたユーザーに割り当てられたuser_idを使用しました。user_idは、顧客のポイントカードの番号にリンクされ、CRMに保存されています。
 
ユーザーがサイトにアクセスすると、user_idがカスタムディメンションとしてGoogleアナリティクスとGoogle BigQueryに送信されます。BigQueryでは、transaction_idとtimeの2つの他のキーと組み合わせます。完了したすべての注文に関するデータは、次の構造でGoogle BigQueryに保存されます。

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このテーブルのtransaction_id、user_id、timeに注目し、トランザクションの日付に時間的に最も近いセッションでチャネルグループを特定。最終的に次のようなテーブルを作成します。

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このデータを使用して、Webサイトにアクセスしてから購入完了までの日数を計算し、7、10、14、30、60日以上のセグメントにグループ化して分析を行いました。その結果、ROPOの85%が14日以内に行われたことが明らかになりました。

3.レポートとダッシュボードの作成 

最後に、ダージリンのマーケティング担当者はGoogleデータポータルやスプレッドシートを用いてレポートとダッシュボードを作成し、オフライン販売に対するオンライン広告の影響を評価しました。

結論として、顧客の30〜40%がオフラインで購入する前に自社Webサイトにアクセスしていることがわかりました。このデータは、広告予算を最適化し、オンライン広告の効果を裏づけるものになったそうです。

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セフォラのケーススタディ

セフォラはルイ・ヴィトン傘下の香水と化粧品の専門店です。セフォラのマーケティングチームは、ユーザーのオンライン行動とオフライン行動の相互作用を明らかにしたいと考えていました。

セフォラのデータマネジメントフロー

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1、データをマージするための単一のリポジトリを選択

オンライン広告の行動データと自社サイトのトラッフィクデータはいったんすべてGoogleアナリティクスに集約し、Google BigQueryへ接続。

2、データフローを自動化

Googleアナリティクスへのデータ送信およびGoogleアナリティクスからBigQueryへの連携は全て自動化で対応。自社CRMからGoogle BigQueryにデータを送信するためのコネクタも設定。 

3、レポートの作成

BigQueryで収集されたすべてのデータを1つのテーブルに結合し、データポータルでビジュアライズします。結果、オフライン販売に対するWEB広告の影響を示すことができたそうです。

まとめ

オンラインおよびオフラインでの購入を含むマルチチャネルアトリビューションは複雑です。完璧に計測しようとするのは無理がありますが、上述したような手法を用いて大まかな傾向は把握することができます。最後にマルチチャンネルトラッキングのポイントを簡単にまとめて、締めとさせて頂きます。

・完璧に測定しようとしない。 
・小さく始めて、改善を繰り返す。
・ROASを評価する際にROPOを考慮する。 
・オンライン上でのユーザー識別方法を確立させておく。 
・データソースはじっくり吟味し、データフローを設計する。 

おまけ:GAでクライアントIDを識別できるようにするには、この記事がとても参考になるのでオススメです。

(T/E:CXL)

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