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職人のリレー 第四走者 丸三ハシモト株式会社 橋本英宗

2018,09,02 Kazu

こんにちは。KAZUです!

仕立屋と職人での修行の日々にヒーヒー言いつつも
長浜や木之本でのライフをエンジョイしております!
(僕を知らないかたは「修行僧KAZU登場!」を読んでください!)

今回は生糸を受け取り、そこから弦を作り、演奏家の方に届ける。
丸三ハシモトの代表取締役社長である橋本英宗さん
第四走者として走っていただきました!

僕は以前からかっこいい方だなと思っていたので、
心臓バクバクでお話を聞かせていただきました!

糸取り職人と演奏家の間に立つ橋本さん。
どのようなこだわりを持ってお仕事をされているのでしょうか!?

生糸への想い

仕立屋と職人:カズ(以下:カズ)
 橋本さんの生糸や蚕に対する愛情や想いにはどんなものがあるんですか?

丸三ハシモト:橋本英宗(以下:橋本さん)
仕事上の感覚で言えば、ちゃんと良い生糸になってるか、かな。
蚕の発育が悪いと糸取りがしにくくて生糸がおかしくなる。
そうすると弦もおかしくなってしまう。
一番気になるのは綺麗でいい品質の繭ができてるかやな。

カズ:
仕事上の感覚で、とおっしゃったじゃないですか。
橋本さん個人の感覚でいうと、どうですか?

橋本さん:
昔は生糸がいくらでもあったけれど、
今は希少価値があがって私たち(弦職人)も養蚕のことをより理解しなければならなくなった。
そうすると今まで見えてなかった繭からの流れが見えるようになって
手元にある生糸ができるまでの流れを理解する
だから生糸や繭に対する思い入れとか
ありがたみは増えてますね。
大事に使わないといけないなとか。
できるだけ無駄なく使いたいなって気持ちもある。

カズ:
それじゃあ、蚕や生糸に対する愛情もあるんですね。
今と昔を比べると何か変わりましたか?

橋本さん:
(川上の仕事を)知れば知るほど大事なものだなって気持ちは高まってきますね。

以前は生糸がたくさんあり、必要な分だけもらえた。
だが今は希少価値が高まり、養蚕についても理解しなければいけない。
そうすることで、生糸ができるまでの流れを理解し、
生糸に対するありがたみも増していると語る。

僕にはどんな想いから橋本さんが繭から携わるのかは分からない。
だが生糸を大切に思い、無駄なく使いたいと言う姿からは
蚕や生糸に対する愛情が伝わってきた。

そんな人のお仕事に対する姿勢はどのようなものなのだろうか。
その蚕に対する想いは弦を作ることにどう影響するのだろうか
この想いの裏にはなにがあるのだろうか。

弦へのこだわり ハシモトスタイル

カズ:
生糸を受け取って橋本さんが弦にするじゃないですか。
生糸と弦に対して、別々の違う愛情があるんですか?

橋本さん:
愛情に違いはないですけど、こだわりはありますね。
納得のいくものを出したいと思う。
満足してもらえるかどうかってすごく気になるんですよ。
売ってしまったから知らないという感じではないですね。
そのへんのこだわりはずっとありますね。

カズ:
演者さんに渡った後もどういう風に使われているかっていうのは
気になるんですか?

橋本さん:
使った感じの良し悪し、耐久性の良し悪し、手触りの良し悪し。
これらのことは気になりますね。
演者さんに聞けば聞くほどうっとうしがられるんですよ(笑)
でも誠実に接しないで、つかず離れずでやっていると
お客さんも「そんなもんかな。」て思うんですよ。
だから僕はもうねちっこくいきますよ

カズ:
しつこく聞いても演者さんからはうっとうしがられるし、
聞かなかったら「そんなもんかな。」て思われる。
どっちにしても良くないことがあるんですね(笑)

橋本さん:
これはもう僕の性格ですね。それでずっと行くつもりです。

カズ:
それでもめげずに?

橋本さん:
めげない。
とにかく悪いところを言ってもらってそれを直したい。
とにかく皆さんに助けられて改良していくんで。
もう私、褒めてもらえなくていいんです

うっとうしがられるだと...?
どれほど職人さんに聞きまわったらそう思われるんだろう。
どれほどの想いがあればそこまで、できるのだろう。

良い弦をつくる。
橋本さんの弦づくりに対するこだわりはすごい。
その行動の裏には演者さんのため
という想いがあるのだと思う。

それがあるからこそ、
うっとうしがられるほど弦の良し悪しを聞き、
より良い弦を作るために改良を繰り返す。
自身の目的がはっきりしているからこそ、
褒めてもらえなくても良いと思えるのだろう。

以前「文化を守るために弦を作っている。」
とおっしゃっていた橋本さん。
橋本さんにとっての「文化を守る。」とはなんなのか。
弦づくりへのこだわりとはどう関係するのだろうか。

弦がアイデンティティ

カズ:
以前ユカリさんの記事
「ただ弦というものだけをつくっているわけではない。
この弦を使うプロの三味線奏者がいる、
その先には歌舞伎などの日本の文化がある。
自分たちが最高のものをつくらなければ
その文化自体がなくなってしまう。
だから文化を守るために弦をつくっている。」
とおっしゃってるのを読んでずっとお聞きしたかったんですけど、
演者さんのためという意識と
文化を守るっていう意識の違いはなんですか?

橋本さん:
違うことはない。ていうのは順番に行かなきゃいけないんよ。
日本文化のために何をするのかって考えたときに、
私の役割はちゃんとした弦をつくるっていうことが
日本文化を守るってことになる。
私は演奏家でもないし、研究家でもないし、政治家でもない。
日本の文化を守るってことに対してそれぞれ役割がある中で
大切なことはいい弦を作って表現活動の一助になるってこと。
それが日本の伝統文化を守るってことの一番の手助けになるんですよ。

カズ:
橋本さんにとっての文化を守ることへの貢献が弦づくりなんですね

橋本さん:
全部一直線上にある。
だって弦作る人がおらんくなったら
一個の楽器がなくなってしまうんですよ。
日本の文化なくなってしまうんですよ。
全部つながってる。

弦を作るってことがひいては
日本の伝統文化を守ってるってことになる。
そういう責任をもって作っている。

カズ:
それはどんなに経営が大変になってもですか?

橋本さん:
経営が苦しくなるっていうことは自分が悪いってことじゃないですか。
人のせいにできないし、ぐちぐち言うても始まらない。
もう弦が丸三ハシモトのアイデンティティなんよ。

カズ:
弦がアイデンティティというと?

橋本さん:
自分の中でそれ以外考えられない。別に全然他のことしたくないんよ。

カズ:
弦を作るっていうことが好きなんですか?

橋本さん:
好きも嫌いも、日常だし。
弦を作るっていうことに終わりがない。

必要とされることに応えたい。そんな気持ちばっかり。
そういうことをしていたら終わりがないんですよ。
そのスパイラルに入っている。

僕はお話を聞くまでは文化を守るということと
よい弦を作るという意識は違うと思っていた。
文化を守ると意識するきっかけがあると思ったし、
そう意識することで何か変わることがあると思っていた。

でも、橋本さんにとっての文化を守ることは
良い弦を作るというのと同じだと思う。
蚕を育てて、糸取りをし、弦を作る。
その弦やいろいろな部品を使ってお琴や三味線という楽器ができる。
それを演者さんが演奏する。それでようやく演奏を聴くことができる。
どれが欠けても文化はなくなってしまう。
橋本さんがおっしゃった「全部一直線上にある。」というのは
こういうことなのかなと思った。

文化をまもるための自身の役割は弦を作ること。
そう思うから「弦をつくることがアイデンティティ」
という言葉が出てくるのだろう。
今だからこの言葉の意味が分かるが、
聞いたときはパワーワードすぎて一瞬フリーズしてしまった。
それほどに衝撃だった。

僕にとっては衝撃でも橋本さんにとっては日常。
当然のように話していたが、
仕事が日常と言える人はどれだけいるのだろうか。

まさにwork as life。生きるように働いているのだなと思った。

すべては演奏家のため

カズ:
佃さんから伺ったんですけど、
橋本さんが演者さんを糸取りの工房に連れて行かれてるんですね。

橋本さん:
弦に対しての価値ってなかなか演者さんに伝わりにくい
けどそこに至るまでの経緯が分かってくると、
演者さんが弦の価値をよく理解できる。
それを演者さんに伝えるために工場に来てもらって
私たちが熱心に説明する。
そうすると、ただ単に弦っていう絹の糸だったモノの
奥にあるものまで全部見えてくる。
演者さんのモノに対するとらえ方や扱い方が変わってくるかもしれない。
それが演者さんの芸の厚みにつながるかもしれない。
若い演者さんにもそういうことを伝えたいなって思う。

カズ:
そうする理由は文化を守る一員としての責任感があるからですか?

橋本さん:
そんなにたいそれたことじゃないよ。
これは演者さんのためにもなると思ってやっている。
演者さんにそういう気持ちがあると
音の深さにつながるんじゃないかと思うんですよね。
そういったもの含めてその人の人格の中で蓄積されて音に厚みが出る。

なぜ橋本さんはそこまで演者さんのことを思うことができるのか。
弦を作る職人と言われれば一見、弦を作ることだけを
仕事とする職人に見えるかもしれない。

ただ橋本さんはこう言った。
弦を作るっていう芯があって、
その大前提にすべての演奏家が喜んでもらえるためにっていうのがある。」
橋本さんの目標は演奏家の方々に喜んでもらうことで、
そのために弦を作る。

その目標のために橋本さんは弦の開発と
改良を繰り返しながら、
常に新しい取り組みをしている。
常に行動をしている。

僕はこれを聞いた瞬間に思った。マグロだ。
常に泳ぎ続けなければ死んでしまうマグロと同じで
橋本さんは弦づくりをやめたら死んでしまうのではないだろうか。
それだけ行動し続けるのは見据える先に
すべての演者さんのためにという想いがあるからだろう。

未来について

橋本さん:
「自分の子供が継ぎたいって思うか分からない。
その子がやりたいって思える状況でバトンタッチできるか。
こういうことを含めて自分の仕事。
つなげるって仕事。

でも継いだ後でも仕事があるかどうかの判断もしなきゃいけない。
やめたほうが良いかもしれないし、
まだ続けられるかもしれない。

だけど最後の最後に残るつもりではいる。
最後の一社になって飯食えんくなったら終わり。
そこまでやるつもり。
一番最後に音を上げる。
一番最後までやる。」

自分の子供に継いでほしいと思い、
子供にそう思ってもらえるために努力する。
それを含めて自身の仕事だと言い切る。

そう思っていても、未来は誰にもわからないから、
会社を続けることが困難になるかもしれない。
まだ続けられるかもしれない。

未来がどうなるかは分からないけど、
一番最後までやるとおっしゃった橋本さんはかっこよかった
思っただけでなく実際に本人の目の前で口に出てしまった。

その決意があるからこそ、
橋本さんは良い弦を作るために尽くしていると思う。
演者さんにうっとうしいと思われるほどに話を聞き、
演者さんの芸のためを思って弦になるまでを説明する。

橋本さんの演者さんへの思いは、どう演者への方に届くのだろう。
どんなものが演者さんの中に蓄積されているのだろう。

次回は丸三ハシモトの弦を使用する演者さんの方
お話を伺いに行かせていただきます!


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