『出逢いの秋』【#シロクマ文芸部/「秋と本」】
◆小牧幸助(シロクマ文芸部・部長)さんの
「秋と本」から始まる小説・詩歌を書く企画に参加します。
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『出逢いの秋』
秋と本人確認書類を持って、銀行へ来た。
目的は、本人名義の口座を作るため。
乳幼児の時に親が代理で作ることも考えたが、やめておいた。
お金の価値がわかるようになってから、本人同伴で口座開設をしよう…そう思って。
秋が小学生になったのを機に、もらったお年玉をどのくらい使って、どのくらい貯金するのか話し合って決めた。
自分で納得した上でなら、無駄遣いせずに楽しんでお金の管理ができると感じたから。
秋が今年分のお年玉の中から貯金すると決めたお金と、幼少期から今まで預かってきたお金を持参した。
口座開設の手続きを終えて、それをそのまま入金しようとしたけれども…その前に親の自己満足としてのプレゼント。
まず初めに真新しい秋の口座へ、俺の口座から送金したのだ。
「はい、これが秋専用の通帳だ」
「うわぁ!」
秋は目を輝かせて、自分で選んだデザインの預金通帳を受け取った。
「無くしたら大変だから、大切にするんだぞ」
「うん!」
「まぁ、大きくなるまでは、通帳もパパかママが管理するけどな。秋がお誕生日とかクリスマス以外でどうしても欲しい物ができた時、この貯金から出すかを相談しよう」
「うん!」
秋は不思議そうな顔で、印字された数字を見つめる。
「え、この数字は何?」
「なんだと思う?」
「うーんと、2,017円でしょ。その次は、1,103円」
「その次の3,015円は、秋にはピンとこないかもな」
「ヒントは?」
「パパがお父さんになれたのは、秋のおかげってことさ」
「うーん?」
大事な一人息子である秋は、しばらく考え込んでいた。
「大ヒントだよ。2,017円じゃなくて2017年で、1,103円じゃなくて11月…」
「あっ! 僕の誕生日か!」
「そう。それと、3,015グラムは出生体重」
11月3日という文化の日、秋生まれの息子に「秋」と名付けた時、俺の両親は「短絡的じゃない?」と眉をしかめた。
しかし、妻は賛成してくれたし、秋本人も自分の名前を気に入ってくれている。
俺にとって秋は特別な季節だ。
妻と出逢ったのも秋だし、結婚したのも「いい夫婦の日」で秋。
だけど名付けは、単純に生まれた季節が秋だからだけじゃない。
古くから日本人は、収穫の時期に神事を行ったりと大地や自然に感謝し、「実りの秋」を大切にしてきた。
植物が時間をかけて実を結ぶように、「努力した結果をきちんと手にすることができる充実した人生を送れるように」という願いが込められている。
持参したお金は、11,0500円。
入園祝いや入学祝いなどから、内祝いを返した分を引いたご祝儀も含まれているから、そこそこの金額になった。
秋には、今年分のお年玉の中から貯金すると彼自身が決めたお金に幼少期から今まで預かってきたお金を足した金額だと説明したけど…実は帳尻合わせで、俺のポケットマネーからちょっと加えてある。
いつか、秋が誰かに恋をした時、この数字の意味も話そうと思っている。
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◆小牧幸助(シロクマ文芸部・部長)さんの企画に
参加させていただきました!
※投稿のタイミングで、締切より1分オーバーしてしまいました…。
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