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産みの男

血飛沫、硝煙、乳児が香る。
月も照らさぬ闇夜を裂いて、魔弾が祭司の頭を衝いた。

「パパ。当たった?」

「ああ。凄いぞセーズ」

生後三日とは思えぬ腕前。肩に担いだ娘を撫で、ダンは土塗れの斧を祭司に振るう。両脚、両腕、首を落とし、頭を踏みつけ静かに問うた。

「娘は何処だ」

「貴様!何故生きている!」

祭司の生首が喚き立て、憎々しげに親子を睨んだ。

「パパ。こいつ生きてる」

不死者を見たセーズが怯えている。これこそ娘達が攫われた理由。他者の生命に干渉し、不死をもたらす超越性だ。

「貴様の行いは無駄。嬰児は既に我が教会の」

生首から足を離し、代わりに斧を喰らわせる。罵詈雑言は教育に悪い。

祭服を剥ぎ取り肉体を検めていくと、胸に空洞を発見する。ダンの顔が不快に歪む。そこにイチが嵌め込まれていた。

「イチ姉ちゃん」

イチは姉妹で最も超越的な子だ。初対面の長女を前に、十六女は畏怖を隠せないでいる。

「イチは面倒見の良い子だ。すぐ仲良く」

腹を抑えてダンが呻く。陣痛だ。十七女の出産が近い。急いでイチを連れて逃げなければ。

ダンは斧を取り、イチの埋もれる胴に刃を当てる。肉を剥がしイチを取り出す試みは……外ならぬイチによって阻まれた。

「パパ」

セーズは恐怖で声も出ない。イチは既に覚醒している。祭司の両腕が再生し、ダンの腹を貫いていた。胎内を弄る手。苦痛に呻き、流産が頭を過ぎる。

「まだ未熟児。パパはまだ殺さない。でも動かないで。うっかり殺しちゃうかも」

ああ。娘を死なせてはいけない。ダンは動けなかった。祭司の肉体が蘇り、セーズを掴んで引き剥がす。

「パパ、助けて」

ああ。娘を助けねば。暗夜に一人ダンは立ち尽くす。首回りにまだ、乳児の香りが残っていた。



「作戦立てるぞ。姉貴ぶっ殺す」

十七女が産声を上げた。勇ましく、そして流暢に。

「……ああ、仲直り作戦で行こう」

へその緒を処置する看護師を見つめ、娘は恥ずかしそうに顔を背ける。感情豊かな子だ。


【続く】

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