殺し屋乱麻と人為の神

無造作にテーブルに積まれた焦げた袋の山。中には煤まみれの金貨と幾ばくかの宝石類。
俺はそれらを一瞥する。それから向かいに座るぼろぼろに傷だらけの老人を睨んだ。今一度。
「これが前金だと?」
老人はゆっくりと頷く。手足に震えが見て取れる。
「…今の私に用意できる、精一杯のものに御座います…どうか、どうかあやつめを」
額は問題ない。むしろ多すぎる。
「俺が前金だけ頂いて持ち逃げするとは思わないのか?」
「貴方様は、そのような方ではないと、仲介人殿から伺いました。それに、致し方ないのです。私が十分な礼金を払えるのは、今日が、最後かもしれませぬ」
包帯の隙間から覗く目が食い入るように俺を見る。
俺は提供された写真をもう一度確認した。
長い金髪の鮮やかな、十代前半くらいの少女。一見して上等なドレスに年相応の快活な笑顔。良家か金持ちの娘といったところか。
今回の依頼の標的。
「どうか、どうか、お願い申しあげる。あやつめを殺してくだされ。あれは、最早殺されねばならんのです!どうか!どうか!」
前のめりになった老人が身体を支えきれず倒れ込み、土下座めいた体勢のまま頭を地面に打ち付け、涙交じりに吼えた。
「衰えた我が身では自ら手を汚すことも叶いませぬ、恥を忍んで貴方様にお願いするしかないのです…」

俺はその依頼を受けた。依頼人が素性を明かさぬことなど警戒を要す事は残っていたが、報酬は十分で、断る理由も特になく、まあ殺し屋を生業とするからにはさして珍しくもないケースだ。

依頼人の首吊り死体が発見されたという報せを聞いたのは、翌朝のことだった。



場末のとある酒場。
安価な朝食目当ての数少ない客も失せ、俺は一人、カウンター席から店長の様子を伺う。
「ンンー、事情のある御仁とは思っていたんだけど、昨日の今日でこれとは、まいったわねえ」
特徴的な言葉遣いのこのオヤジ、本業は情報屋だ。そして俺の仕事の仲介人でもある。
【続く】

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