令和3年宅建試験を受けてきた話(ついでに、コロナ禍の受験生のリアル)

本当は今年の宅建受験は見送ろうかとも思っていた。令和3年度の司法試験を受験し終わってからとりあえず宅建の申し込みはしたけれど、それから1分でも法律の勉強はした記憶はなく、ここ1ヶ月はロースクールに置いてあった荷物の整理や自宅の部屋の片付け等を言い訳に宅建の準備をしようという気さえ起こらなかった。ある種の燃え尽き症候群を抱えたままでの実質記念受験である。

本気で宅建合格を目指して日々受験勉強に励んでいる受験生からすれば随分ふざけた態度と思われるだろうが、それでも現在の自分には「宅建を受験した」という事実が欲しかった。このnoteの投稿にしても今回の宅建受験にしても、やってみて初めてわかることがなんと多いことか(少なくとも宅建受験したことで今回の話のネタはできたわけで)。それに、仮に行動を起こしてみて失敗したとしても、主体的に動いた行動であるならば失敗の原因を自分で分析・検証ができる。分析や検証ができれば次回の成功の可能性が高まる。「やらない」という選択肢を取ってしまうとこれらの検証可能性をみすみす逃してしまうという不利益の方がデカいと判断した。そういうわけで今回の宅建受験に踏み切った。個人的な経験からしても、「やらないで後悔するよりやって後悔した方が良い」というのは間違ってないといえる。もっとも、実際やってみて後悔した記憶はほとんどないのだけれど(都合良く嫌なことを忘れているだけかもしれないが)。

宅建試験は例年10月に開催されている。受験申し込みも7月からなので、司法試験が開催される5月が過ぎてからでもきっちり準備すれば間に合うというのも、決して非現実的な話ではないと思われる。もっとも、昨年のコロナ禍や緊急事態宣言の影響で、各種試験の実施に大きな影響が出た。そして、1年が過ぎた今年においてもコロナ禍の影響はまだ抜け切れていない。

令和2年の司法試験は本来の開催時期の1ヶ月前の4月に「司法試験延期」のアナウンスがネット上で公表されただけに留まり、いつ開催されるのか当時の受験生だけでなく予備校関係者もてんやわんやであった。6月開催~8月開催が4月時点の予備校の立てた予想であるが、開催時期が確定しないことには明確な受験勉強計画を立て直し勉強を継続することは困難を極めた。急ブレーキをかけられ全身むち打ち状態にされたようなもんである。5月に入りGWが明けてから8月の12日(水)~16日(日)と発表があった。「例年に比べて3ヶ月長く準備できるじゃん」というのはよっぽど前向きに物事を捉える能力に長け実際に結果を出す本物の実力者か、そうでないなら現実がよく見えていない当事者意識ゼロの阿呆である。一度受験直前期に急ブレーキをかけられペースを崩されたことを考慮に入れれば、実質「3ヶ月後に司法試験を実施します」というのが正確なのだ。

「コロナ禍という未曾有の危機の中で我が国の司法制度や法曹養成制度を今一度見直すために、令和2年の司法試験は中止にして来年に繰り越すことはできないのか」と思ったりもしたが、合格する人間はどんな状況でも、たとえ3ヶ月しか準備期間がなくても最難関の国家試験にも合格するのだ。愚痴をこぼしても貴重な準備のための時間をドブに捨てることと変わらないので、とにかく残された時間でできる限りのことはしたつもりだ。

もっとも、結果から言えば令和2年の司法試験は失敗した。もっというと、1科目も受験できないまま試験を見送ることになった。試験1ヶ月前から「3ヶ月で準備が間に合うわけがない」とメンタルが限界を迎え、ほとんど食事も喉を通らず眠りも浅く、しかも真夏の暑い環境も加わって浪人した中で一番の絶不調状態で試験本番を迎えた。検温で混むのも嫌だったので試験開始15分前に着席したのだが、着席した瞬間込み上げてくるものを感じて医務室に駆け込んだ。どうにも試験開始時間までに体調回復を見込める気がせず、ましてこの状態を数日間続けることは不可能と判断してそのまま荷物をまとめて帰宅することにした。そんなわけで令和2年司法試験は棄権という形で幕を下ろした。受験料が帰ってくるわけでもなく、かといって問題用紙も会場で貸与される司法試験用六法を持ち帰ることもできず、なんとも不甲斐ない形で終わってしまった(3日間の論文試験を受け終わると、希望者は試験会場で貸与される試験用の六法を持ち帰ることができるのである)。

とはいえ、私などまだマシな方かもしれない。私の場合は令和3年の司法試験までの準備期間が令和2年8月時点であと9ヶ月なのだが、令和2年の司法試験最終不合格者は4ヶ月しか準備期間が用意されていないのである。そう、令和2年の司法試験最終合格発表は令和3年1月であり、令和3年の司法試験は例年通り5月実施なのだ。「令和2年の受験生が令和3年の司法試験を受験するなら彼ら彼女らだけでも8月に試験実施とか配慮はないんですか?」と思わざるを得ないが、これが現実である。ニュースの報道を見る限りにおいては大学入試はコロナ禍でもほぼ例年通りに実施されたようだが、大学入試後も何かしらの形で受験生という身分を続けるならこうした実情をもっと取り上げた方が良いんじゃないかしら。

一方、宅建試験の令和2年および令和3年の実施時期は10月か12月のどちらかがランダムに割り振られるという形式になった。三密を防ぐための会場を押さえるための措置だそうである。なので、自分の宅建受験時期がいつになるかは運任せということになる。もちろん、10月実施の試験問題と12月実施の試験問題は異なる。私は昨年は司法試験の準備に専念したので今年の宅建試験が人生初の宅建試験となった。令和2年以前から宅建を受験してきた方々にとってはコロナ禍による試験実施要項の変更に伴う勉強の困難さは想像に難くない。

前置きが随分長くなってしまったが、そんなこんなで令和3年10月17日実施の宅建試験日を迎えた。試験会場は今年の司法試験会場と同じであった。自分の司法試験会場は下から数えた方が早いほどの受験者数の少なさを誇るが、そんな自分からすると宅建受験生は地方でも圧倒的多数に思えた。司法試験と比べると圧倒的に受験のハードルが低いのはなんだか魅力的に思えた。宅建を受験するのにわざわざ法科大学院や別の試験を合格する必要がない。申し込みをして1万円もしない受験料を支払えば誰でも受験できるというのはいいものだ。受験や資格取得のハードルが低ければその分受験生の間でも活気が生まれやすいように思える。それに、司法試験と異なり受験回数制限もないということはいつでも撤退できる、つまりいつでも再挑戦ができるということだ。司法試験の中途半端に「5年以内に3回まで」とか「5年以内に5回まで」みたいな回数制限を設けておいて合格者よりも不合格者を大量に生み出す試験制度の仕組みに何の疑問も抱かないのだろうか。まぁ現行司法試験制度の批判は今回の投稿の本旨ではないので、それは別の機会にとっておく。

閑話休題。試験開始30分を過ぎたあたりから試験監督から試験の注意事項の説明が始まる。「不正が発覚した場合は都道府県知事から試験結果の取消処分がなされる恐れがある」旨の警告は新鮮であった。少なくとも自分の司法試験会場では不正がなされた場合の法務省からの処分云々という警告はわざわざ発せられなかったので。「都道府県知事の行う行政処分」というのは司法試験受験生や行政書士受験生、法学部生やロースクール生ならば馴染み深いものである。宅建試験の受験科目には「行政法」が課せられているわけではないので、この警告の法的意味にあれこれ考察を加えられるのは元・司法試験受験生の役得である。そんな余計なことにばっかり意識を囚われて合格に必要な勉強を疎かにするから落ちるんだぞということは言われるまでもなく分かっている(修正できるとは言ってない)。

宅建試験は全50問の択一のみ、1問あたり4つの選択肢から一つ正解を選ぶというもので制限時間2時間である。今回が初受験であり模試を受験したこともなかったので時間切れになるかとも思ったが、意外と時間だけは余った。司法試験の択一対策の貯金がまだかろうじて残っていたおかげだろうか。解いてみた感触としては、民法に限って言えば司法試験に比べれば随分楽に解けた気がする(正解したとは言ってない)。仮に自分が司法試験やそれに類する試験に合格できたとしても、宅建業法といった知らないと解けない問題もそれなりにあるので、今回で合格した実感は全然ない。しかし、もし今回の試験を体調不良でもないのに棄権してしまっていたら1日を無駄に過ごしていたことは明白であったので、そういう意味では今回の受験は「成功」であると勝手に認定することにした。なかなか生きづらいこのご時世はいかに健全な自己肯定感を育めるかが肝な気がする。

未だ各種試験においては新型コロナ対策に伴う例年の受験とは異なる対応に追われ学習が困難な方もおられるだろうが、それでも受験に挑む方々に私はエールを送りたい。何かに挑んでいる間に「失敗」というものはない。本当の「失敗」とは「なにもしないこと」「失敗さえ経験しないこと」なのだから。とはいえ、5回(実質4回)司法試験に落ち続けた私に言わせれば、間違った方法に拘って手に入るほど「成功」や「合格」は安いものではない。間違えた方向の努力ほど虚しく無駄なものもない。どうせ努力をするならば楽をする努力を、自分が楽に・楽しくなれる努力をした方がいい。結果の伴う努力ができるようになるには頭の使い方を工夫する必要がある。その頭の使い方を今後の投稿で少しでも示せるように精進したい。

※不合格者の頭の使い方に需要あるか?とも思ったが、少なくとも頭の使い方を意識的に変えることを実践した最後の司法試験では今まで突破できなかった択一試験をギリギリとはいえ突破できたので、一定の効果はあると思われる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?