君の音だったんだ

この作品は、≠MEの『君の音だったんだ』の歌詞から作り上げた2次創作小説です。
私の解釈で作り上げております。
尚、曲自体に尊敬と慈愛を持って作成しております。
予めご理解ください。
元となった曲はこちらから→ https://youtu.be/vHIbNZza5As

・・・

「先輩おつかれさまです!」
僕はそう言いながらタオルとスポーツドリンクを手渡す。
夏の大切な大会前。

「ありがとう、今日も暑いな。もう倒れそうだよ(笑)」
タオルを受け取って照れくさそうに話す先輩。
今日はいつに増して暑い。最近は6月で猛暑とでも言うのだろうか。

僕は今年この高校に入学して、サッカー部に入った。
中学から始めたサッカーだったけど中学時代はいつも補欠。それでもサッカーをしてる時間は全てを忘れられる幸せな時間だった。
大会前ということもあってか1年生は自主練と先輩の補助がほとんど。グラウンドでボールを蹴ることすらできない日もあった。
グラウンドに映る校舎の影が長く伸びてきた頃、いつも聞こえる音に僕は心惹かれていた。

先輩がボールを遠くに蹴り飛ばす。
「すまん!」
ボール取りは僕なのに。
音楽室の近くまで取りに来たとき、いつものトランペットの音色が大きく聞こえた。
(いつもの音はここから聞こえてたんだ…。)

風にふわりとなびくスカート。
西日に照らされキラキラ光る黄金のトランペット。
吹いていたのはクラスで1.2を争うほどかわいいあの子だった。
一瞬目があって彼女は僕に微笑んだ。
僕は戸惑った。しかしなにか電流が流れる感じがした。
僕は勇気を出して話してみる。

「君の音だったんだ。」

・・・

それから月日が経つとともに、僕は考えた。
なんて言えば上手く話せるだろう。
特別なこと話したいわけでもないのに…。
彼女のことを考えるほど言葉が出てこない。

学年も上がり2年生の夏の大会が目前まで迫っていた。

(先輩、またボール飛ばしてくれないかな。)
なんて考えながら大会前の練習に取り組んでいた。

クラスのマドンナはモテる。
だからこそ他の人に取られたくないしいつも考えてしまう。

もし彼女が涙溢れて孤独な夜を過ごしているのであれば、僕がヒーローになって守ってあげたい…。それくらい好きなんだ。
僕はここで改めて意識する。

・・・

今日は夏の県大会予選。
これに勝てば先輩とまだサッカーをしてられる!
いつもはあまりつけないワックスを御守り代わりに多めにつけて試合に臨む。少しでも自分が活躍できるように。
この予選では吹奏楽部、チア部、そして有志で応援に来てくれている。
みんなに少しでもかっこいいところを見せたいなと思いつつ試合開始のホイッスルが鳴った。

前半終了。試合は1点を追いかける展開となった。
後半のホイッスルが鳴る。僕はふと応援席の音に耳を傾ける。いつもの音だ…。
沸々と勇気が湧いてくるのを感じる。
僕は彼女のトランペットの音に勇気をもらってたんだ。ずっとエールが届いてるってこと。
彼女は僕のことなんてきっと気づいていないんだろう。でも楽しそうに吹いて一生懸命応援してくれている。

彼女が今までトランペットを練習しているところは僕が1番知っているくらい彼女の音に救われてきた。
彼女の練習の努力は応援席の歓声のなかひとつの音となって僕の耳に吸い込まれていく。
いつも勇気をくれるこの音。
「ありがとう」
僕はそう呟いて試合に再び向き合った。

試合終了のホイッスル。結果僕たちのチームは僕の決勝ゴールで勝利を収めた。
もしかすると、彼女の音に押されてゴールできたのかも知れない。

「あの!」
僕は彼女に声をかける。
「私の音!聞こえてた?」
彼女はあの笑顔を向けながら話す。

彼女と出会ったときのこと。鮮明に覚えている。
風にふわりとなびくスカート。
西日に照らされキラキラ光る黄金のトランペット。
一瞬の笑顔に電流が走ったあの感覚。
(よし、言おう。)
ずっと好きだったんだ。ずっと前から。
そのクシャッとした笑顔、キラキラの目。
眩しすぎて言えなかったんだ。
口からドキドキが飛び出ちゃうくらいに緊張する。
試合中に聞こえてきた1番大きな音。
あれはトランペットだった。
ずっとわかっていたんだ。彼女が応援してくれてる。一生懸命吹いてくれているって。
知っていたんだ。知っていたけど…
僕は知らないふりをして照れ隠ししながら言った。

「君の音だったんだ」

「大好きだ」


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