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母の残した大都会の片隅の植木達#未来のためにできること

母がパーキンソン病になり徐々に身体が弱って行き、遂に食べる事以外はできなくなったのは2年前。私は実家に戻り、母に代わって家事を行っていた。母の味は出せなくても、母を始め家族は私の手料理を美味しいと喜んでくれて有難かった。概ね穏やかで、どこにでもある在宅介護の日常。
そんな我が家が抱える母の植木問題。
母の愛情を一身に受けてきた植木達は高価な物ではない。
例えば、愛媛に住む母の姉が大切に育てていた君子蘭の株分だったり、可愛らしいピンクの薔薇、金のなる木。まだ私の息子達が小さい頃に母も一緒に出かけた先で購入したブルーベリー。その息子達が幼稚園から持ち帰った朝顔だったり。高価では無い、でも、どこにも売ってはいない。大都会の片隅の実家玄関前にはそんな植木鉢が10個程並んでいる。
「これ…どうするの?」しばらく放ったらかしにされていた植木達は、たちまち雑草に囲まれて枯れて行く植木もあった。
仕方ない、少しずつ廃棄しながら片付けていこう。そう思い嫌々ながらもお掃除と手入れをしていると、近所の人達が通り過ぎる際に声をかけてくる。母の状況を確認し、次に必ず「ここね、通るのたのしみだったの。可愛いお花が咲いていてね。」そして、しばらくお手入れされていなくて寂しかったと。母よりも歳上の方が家族とお散歩をする時のコースだったり、通勤時の通り道だったり。えっ困る。私はこの植木達を処分する方向なのに…複雑な思いを抱きながら植木達を見る。簡単にお手入れをして最後に水を撒く。植木達がグーンと背伸びをして気持ちよさそうな顔をした。
こんな僅かなスペースの植木達を心待ちにしてくれる人達がいる。植木を愛する母の事を気にかけてくれる人達がいる。汗だくで母の部屋に駆け上がり「お母さん、今ね植木のお手入れしてきたよ。通る人がお母さんの植木楽しみにしていたんだって。」母はうん、うんと頷いて笑顔を思い出す様に少し笑った。
猛暑の夏空の下、可愛いお花を咲かす植木鉢が増えました。昨年刺刺の山椒の木にナミアゲハの幼虫を見つけた。レモンの植木を迎えた今年、4匹の幼虫が来てくれた。食べられた葉ばかりのレモンの木は可愛い緑の実を2つ付けている。25年毎年咲いていた息子達の朝顔は責任が重くて、母が可愛がってくれた2人の息子に受け継いでもらう。いつまで継続できるかわからない。大都会の片隅で、今日も通りすがりの人達の心を癒す母の植木達が笑う。

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