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製本についてのいろいろ

「製本」についての覚え書き。だらだらと書き散らしていた文章をまとめた。


本の種類と製本あれこれ

糸綴じの本は強い

糸で綴じた本、糸かがりは絵本などに採用される機会が多い。絵本を開いてみて、どこかのページに糸があれば糸かがりの本。
糸の利点は強度、そしてページの開きの良さ。子どもが扱ってもページが抜けにくいとか、ノドまで開くから絵が欠けることなく楽しめるとか。
その強度や保存期間の長さから、絵本の他にも、何度も繰り返し開かれるような報告書、記念誌だとかにも採用されていたりする。
糸での製本は時間がかかるのでその分の値段もするけれど、いつか画集だとかを糸綴じで作りたいなあ。

中綴じ/針金綴じ

針金で製本。
少ないページ数や大量生産向き。会場で配る案内パンフレットだとかには強い。比較的安価。
保存期間が長くなると場合によっては針金から錆が出て紙まで侵されるから本当の長期保管には向かないかも。

あと、ページ数が少ない冊子だとかも針金が選択肢に入る。ページが少なすぎると無限綴じの機械にかけられなかったりする。背幅がだいたい1〜2mmくらいが目安だと思う。ページ数だと12〜16ページ(6〜8枚)とかだろうか。薄いなあと思ったら入稿前に相談してみると良いかもしれない。というか見積もりサイトで最低ページ数みたいなものがそれぞれ設定されていて選択できないようになっているかもしれない。

調べてみたら本文用紙3枚からいけますという会社もあった。かからないことはないのかもしれない。

無線綴じ

ホットメルト(接着剤)での無線綴じ(お手元の漫画だとか文庫本だとかほとんどがこれのはず)、本を作ろうと思うとほとんど無線綴じという選択になるのでは。
本の背中を糊で固めて表紙をバーンとくっつける。おにぎりみたいに作る。形を整えた米を海苔でくるむ。
背中を固めているわけで、糸綴じのように喉まで開かない。海老が姿勢を正して泳がないように。なので我々はノドに文章が来ないようにしたり、絵柄を何ミリか伸ばして入稿データを作ったりする。
時々本の背中を物理的に削って糊を塗ったりもしているので、「開かず見えない分」の他に「削ってなくなる分」を考慮したりする。

薄い本の他に厚い本も心配があるかもしれない。
だいたい6cmくらいはいけるイメージである。辞書とか分厚めの攻略本とかそういう厚さだ。これもそれぞれ会社規定サイズがあることだろう。

断裁時のずれ

背中を削ったり糊を塗ったりしているわけで、本そのものの高さも変わってくる。
我々は小口にもそれなりに余白を作るわけだが、よく聞く「断裁でのズレ」はこの工程でも発生する可能性がある。
厚底の靴をはいた私とぺったんこの靴をはいた私は同じ高さにはならない。厚底の私が規格寸法に合わせるとき、ぺったんこの靴の私よりも多く身を縮めなくてはならない。
実際のところそんなに極端には変わらないけれど、こういうことがあるから余白が大事ということ。
もちろん印刷時点や、紙を折る工程が発生するならばその折り具合でも発生するし、紙の具合もあるだろうし、とにかく本にするための工程の分だけゆらぎが発生して、あと本当に断裁の刃のズレやカブリだとか、この辺りをまとめて「断裁のずれ」と表現している。一言のなかに製本が詰まっている。そしてそのズレが発生しないようにやるのが職人の技なのである。いつもありがとうございます。

本の保管

本の保管を考えた時に糸は強いよな〜と思う。
何年か前に役所の保管資料がこよりで綴じられていて物議を醸していたが、糸と同じく本当に何十年も保管することを考えるとしたらそういう答えになるのかも…と唸った。そうなのかどうかはともかく。
しかし紙はやはり紙である。いつかは朽ちるものである。最強なのは石板。石板に彫ろう。となると彫るのも保管も持ち運びも大変なので私は紙で本を作る。

製本の周りの話

本のこれから

紙とwebそれぞれ良いところがある。どちらも推していきたい。
印刷物は年々減少傾向だが、なくならないでほしいしきっと本当にはなくならない。本を作りたい私がいる限り本が生まれ続ける。紙を半分に折っただけでも本だ。
本を作りたい人々と、製本技術だとかも一緒に残っていってほしい。

こんなことを言いながら私は本を読むのが苦手である。
文字を追っていると寝てしまう。でなければ別のことを考え始めて内容が入ってこなかったりする。なのでコンディションを整えてきっちりと本を読む。一冊読むとくたびれる。それでも本や物語が好きなので、溶けながらこれからも読んでいく。
教科書も開いた途端ストンと眠りに落ちるので勉強も苦労したが、webのおかげで日々文字に触れるようになり、自分の読みやすい文章や触れやすい形式を選べるようになった。そのため最近は読める量が当社比増えた。ありがたい。

ならwebだけで済みそうなものなのだが、私の浅いネット歴の中でも出会いがあれば喪失があった。サイト閉鎖やサービス停止など、web上にあるものにはそれぞれ管理者がいて、私はそれを読ませていただいているだけである。
電子書籍にしても、本を買って読むには良いがサービスが撤退してしまったら本は手元に残らない。
紙である。本である。残すのだ。紙であれば購入後は私が責任を持って管理できる。電源に繋がなくても読めるし、機械のバージョンが古くなってアクセス出来なくなることもない。
老眼で文字が霞んで…という場合もあるがそれはまた別に対応していく。脱線ついでに言うと私は文字が大きめの小説本が好きで、やっぱり細かい文字だと見えない場合があるからだ。私の本の文字が大きいと感じたならばそういうことだ。

本だけでは今の生活は無かったし、webだけでは手元に物質が残らない。
この後の世界でも、どちらも活躍していってほしい。

寄り道、物を残していくこと

保存の話のついでに、残していくことの話も。
DVDを適切に保管していたにも関わらずなんらかの原因で読み込み不可能になったとか、プラスチック製のおもちゃが経年劣化で触ると崩れていくという話を聞いた。
長い目で見ると物とは脆いもので、平成の資料は後世に残らないのではないかなどと怯えた。文化ってこういうものなのだろうか。生きている人だけが知っていることと、失われていくことと。生きている間残っているものは永遠のものだと思いがちだが、実際は僅か一握りだけが受け継がれていく。
石板でもプラのおもちゃでも同じように言えるのは、何十年も守り抜いた人がいるということである。

物を後世に伝えていくには保管の知識もいる。置いておく場所の環境や、入れ物も整える。
保管するという意思も必要。物に価値を与えるのは人で、歴史的に重要な資料であっても知らない人が見ればごみで、そうでなくても天災だとかで失われたりする。大切にしたいけれど置き場所や環境がなくて手放したりもする。また、ただ一人が大切にしていっても後の人が気付かなければ途絶えてしまう。
古いものは失われると元には戻らないから、記録したり残しておく必要がある。
残すというのは大変なことで、お金もかかるし、不要と言われがちである。
物といっしょに人も広く育てて伝えていかなくてはいけなくて、図書館や博物館や美術館や土地の資料館や遺跡の発掘作業などなど、そういう立ち位置で、「楽しい」「映える」と同時に物がいつまでも大切にされていけばいいなあという気持ちが育つ場であれば良い。いっぱい足を運んで、人や物や土地に愛着や興味関心を持つと普通の暮らしがなんだか楽しくなる。本などもやっぱりいいなあとしみじみできる。
本の話に戻る。

手製本準備

次に作る本を手製本にするとして、目引きをどうしようかなと思っていたが、わりとノコで処理出来るらしく安心した。
あと本を固めておくための万力がほしい。重石を乗せるのでも良いが、なんだかんだで万力があると便利である。
なんかいいかんじに手製本も出来る気がしてきた。
と思ったら自宅のコピー機が雑すぎて手製本計画は停滞中である。調整したり掃除したりしているのだが上手くない。

印刷の中心を取る話

中心を取るのは難しい、表裏などがズレるといった話もあったのでこちらも少しだけ触れてみる。
まず印刷前に印刷位置だとかを調整出来る環境であれば調整する。
印刷機を通すと紙が伸びたりするし、機械そのもののズレや癖なんかもある。こういった部分を自分で調整するか、ズレを考慮した上で何枚かテスト印刷を繰り返すとかで調整していくとバシッと決まるかもしれない。そこまで厳密なものでなければ、ズレを考慮したデータを作るなどする。または、データを作る段階で印刷機のズレに合わせてズラして組むなど…。ここまでやると「あっちを叩くとこっちが凹む」みたいなことも起きてくる。そしてそこまで調整してもズレるときはずれる。そういうものだと思って、失敗が発生するものだと思って各工程分を必要部数よりも多く確保する。

あとは印刷機に入れる紙をきちんと揃えているとズレが軽減される。給紙する場所の問題であればこれで改善されたりする。他にも色々と原因はありそうなんだけど、そういう細々とした問題を抑えられるのが印刷してから切るという工程。

大きめの紙に印刷出来る環境であれば、
大きめの紙に印刷→紙の中央で折る→不要な部分を断つなどでも対処できるかもしれない。(表裏の印刷がずれるという場合はこの方法では解決しない。)
この場合は印刷が紙の中央に来ている必要はない。ここで必要になるのが目安である。ご存知トンボ。トンボに合わせて断つと中央が揃う。

でも必要サイズよりも大きい紙に印刷することってあまりないよね…
必要なサイズ+断ち切りサイズの紙もホームセンターのA版コピー用紙の隣に置いてほしい。全判からA4は生まれない。必ず断ち落とす部分がある。せんべいの耳みたいな部分が。せんべいの耳っておいしい。おいしい部分を落としたものもあればそのままのものもある。紙の耳を残した紙が手に入ると良い。A4+天地各6mmとかかな…。
などと言っていてもしかたがないが、B版とA版の微妙なサイズの違いを利用して一回り大きいサイズを使うなどでもなんとかなるかもしれない。
あと紙を切るときに上手くいかないなーって場合は、道具の刃の切れ味をまず疑う。あとは紙を押さえる力か、切るために使っている定規やアテにしているものの曲がりとか、紙か部屋の湿気を気にする。物に問題がなければあとは人間のメンテナンスをする。
紙って実はけっこう伸びたり縮んだりしている。生き物である。木みたいなもんです。木だった。呼吸している。

紙の特性や機械の調整が面倒だと感じる場合は印刷所に頼むのがベスト。面倒なところを全部やってくれているということだ。頼む側は正しい原稿を作るだけ。

まとめ

そんなこんなで製本周りの話でした。
雑にまとめていたり端折ったりしていたりする部分はあるのでだらだらと読んで貰って、技術とか専門的な部分はもっと詳しい方のお話や、本を頼む印刷所の方に相談してみてください。本は生きものなので仕様によってもだいぶ変わりますし、会社によってもそれぞれなので、ひとつの例とか参考程度にしかなりません。

製本は大変だけど楽しい。本は手のひらサイズのいのちだった。


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