苦い初夏

夏でもホットコーヒーが飲みたい

暑いとか寒いとかはあまり関係ない

温かい飲み物が好きだ

お気に入りの赤いホーローポットに水を入れて火にかける

コンロの火は青く揺れながらホーローを暖めた

梅雨明けはまだ発表されていない

なのに外は快晴、蝉も鳴き始めている


扇風機では物足りないな と思いつつもその風に心地よさを覚えた

秒針の音と扇風機のモーター音

邪魔をしてくるイタズラ電話のコール

見たもの聞いたものを並べるのは簡単なのに

なぜ思いを伝えるのは苦しく難しいのか

喉まで出てきた声を飲み込むそれが癖になっていた

考えて出さないんじゃない

あの人を前にすると出せないでいる

ホーローの蓋が慌ただしく踊り始めた

そっと火を止めマグカップに注ぐ

立ち上る湯気と苦くて少し酸味のある匂い

鼻に吸い込まれなかったそれたちは天に消えていく

出せずに飲み込んだ声たちを連れて

最後まで読んでくれてありがとうございます。 スキしてくださるととても嬉しいです。 してくださらなくても、目を通してくれてありがとうございます。