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知床の「人」紹介vol.7~「知床の新鮮で美味しい食材を、妥協せずに提供したい」。知床に魅了された夫婦が営む温泉民宿

※こちらの記事は2021年12月4日のInstagramの投稿より引用・再編集したものです。

知床・斜里町ウトロエリアで「温泉民宿たんぽぽ」を営む和田賢一さん・知子さんご夫婦と、長男の剣真くん。
あたたかみのある対応とお料理の美味しさで人気の民宿ですが、関東ご出身のおふたりは最初からこのお仕事をしようと思っていたわけではありませんでした。

何がきっかけでこの地で暮らすことを決め、今に至るのか。じっくりとお話を聞いてきましたので、ご紹介いたします。

東京都出身の賢一さんが知床に興味を持ったのは高校生の頃。
流氷を見るために3月の北海道に訪れましたが、唯一ウトロエリアにだけ大量に流氷が残っており、その景色の虜になってしまったといいます。

「他の場所にはもう全然なかったのに、ここにだけ流氷がぎっしり押し寄せていたんです。いつまで経ってもあの景色は忘れられないですね」

その後も知床へ通い続け、いつしか「ここに住みたい」と思うようになったそうですが、当時は今に比べて働く場所や住む場所を見つけることがずっと難しい時代。

「あの頃は、住みたいなら自分で何とかするしかなかった。なので、働く場所と住む場所をいっぺんに作っちゃえってことで、自分で丸太小屋を建てたんです。あとはバイトで手打ちうどんを作ってたから、うどん屋をやるか、って」

本当に小屋を完成させうどん屋を始めた和田さんですが、開業直後はうまくいくことばかりではなかったそう。

「若さゆえにちょっと尖っていたところもあったのでね、厳しい言葉をもらうこともありました。でも、そういうのはだいたいお互いに相手をよく知らないだけ。ちゃんと言い合って、話し合えばわかり合える。もちろん背中を押してくれる人もいたし、地元の漁師さんが店の常連になってくれたり。ありがたかったです。今では僕も丸くなっちゃたけど、あの頃と根っこの部分は変わらないね」

そう言い切る姿がとても潔く、かっこいいです。

2023年2月のウトロ・プユニ岬からの景色。賢一さんが初めて見た流氷のある景色は、どんなものだったのかな。


一方で奥さまの知子さんは千葉県出身。
北海道の美瑛町が大好きで何度も通っていたそうですが、知床にも興味を持つようになり、ホテルでアルバイトをしながら1年間知床で暮らしていたこともありました。

知床のホテルでのアルバイトでは主にフロント業務を担当しており、
「知床の自然とお客さまをつなぐ、という仕事をしていました。知床での体験をサポートしているという実感があって、とても楽しかったですね」と当時を振り返ります。

働いている間に賢一さんのうどん屋さんの話を聞き、食事をしに訪れたこともあったそうですが、その頃はまさか結婚相手になるとは思ってもみなかったと笑います。

その後正式に美瑛へ移住したものの、知床での仕事ぶりが評価されており、また働いてくれないかと声がかかり数年後に知床へ戻ってくることになりました。

「大好きな美瑛で安定した仕事をしていて、何の不満もなかったんですよ。でも、声がかかって、1年間知床にいたときのことを振り返って、すごくやりがいのある仕事だったなあと思ったんです。結局『よりわくわくする方』ということで、知床を選びました」

訳あってうどん屋をたたんだ賢一さんと、知床へ戻ってきた知子さん。偶然にもふたりは同じホテルで働くこととなります。

「当時の夫はすごく厳しい上司でした。50人のお客さまがいたら50対1の接客をするんじゃなく、1対1の接客を50回するようにと言われたのをよく覚えています。でも、そんな仕事ぶりを見て、信頼できる人だと感じました」

にこにことそう語る知子さんと、「自分がずいぶん立派なように聞こえるけど、そんなことないよ」と苦笑いする賢一さん。とても素敵なご夫婦です。

その後、かつて丸太小屋を建てたときの電気工事でお世話になったという民宿たんぽぽの先代のご夫婦から「引退するため宿を継がないか」と声がかかり、それを引き受けたおふたり。2022年で12年目に突入するそうですが、民宿で特に人気なのは、ホテルの料理人でもあった賢一さんの振る舞うお料理です。

「知床の食材は、変に手を加えなくても美味しいんです。なので、ちゃんと適切な処理をすることを大切にしています。せっかく漁師さんが新鮮なものを用意してくれても、それを店で悪くしちゃったら意味がないからね。調理はひとりでやっているからできることに限りはあるけど、妥協せずにどこまでできるか…というのはいつも考えています」

知子さんは海鮮などの生ものが苦手だったそうですが、賢一さんの調理のおかげでその美味しさに気付き、食べられるようになったのだとか!

「生ものは苦手…という方も、ぜひ一度うちで食べてみてほしいです。知床の食材の美味しさを伝えられたら嬉しいですね」

その知子さんの言葉を聞き、私も今度必ず宿泊しよう!と心に決めました。
斜里とウトロは同じ町ですが、その距離は40km。異なる雰囲気を持っているので、町民の町内観光は発見が多くておすすめです。

知床へお越しの際は、ぜひ民宿たんぽぽで過ごしてみませんか?


▼2023年3月15日追記

再編集をしながら改めてお話を伺ったときのことを思い出していましたが、知子さんが過去に知床のホテルのフロントでのアルバイトを「知床の自然とお客さまをつなぐ仕事」と表現されており、今もおふたりは宿や食事の提供を通じて知床の自然と私たちををつなげる、ということを丁寧にやっていらっしゃるのだなと感じました。
2023年1月には食堂の改装をおこなったそうですが、実は私もまだ宿泊しに行けていないので今年こそは!と意気込んでいます。
民宿たんぽぽさんのInstagramでも知床の景色や宿の様子をご覧いただけますので、ぜひチェックしてみてくださいね◎